学長・総長インタビュー

日本福祉大学

二木 立 学長

『ふくしの総合大学』をコンセプトに、すべての人々が幸せに生活できることを支援できる人材育成を進める

福祉系大学の現況は?

 今の日本の大学、特に福祉系大学の置かれている状況をどのように理解されていますか?

二木 福祉系大学を考える上で三つの厳しい要因があります。一番目は18歳人口の急激な減少で、これは殆どすべての大学に影響を与えます。二番目は、残念ながら福祉に対するマイナスイメージが、受験生や高校生、進路指導の先生にかなり蔓延していて、本学を含めて福祉系大学は、18歳人口が減る以上に受験生が減少しています。三番目は地域的な要因です。学生は今、首都圏と関西圏のブランド大学に二極集中しています。それ以外の地方の大学は本学も含めて、18歳人口減少以上に受験生が減っています。

このような中、私が学長になって2年半で、さまざまな大学改革をしてきましたが、受験生確保では、一進一退の状況です。しかし中長期的には、今後日本は急速な少子高齢社会になり、老人も若者も一人暮らしが増えて、地域の力が弱くなるので、広い意味での社会福祉の必要性や役割が大きくなるのです。このような流れの中で、福祉社会を支える人材が必ず必要になり、そのような人材を輩出するよう努力しています。

広がる福祉の範囲

二木 63年前に本学が創立された1953年当時の福祉は、殆ど生活保護とイコールで、貧しい人々、障害者、虚弱高齢者など社会的に弱い立場の人を支えるというイメージが定着していました。現代の豊かな社会でも福祉にはそういう面があり、貧困の再発見という点で、貧しい人や社会的に弱い人を支えないといけない。これは福祉の原点でもあり、本学の建学の精神でもあります。

しかしこの60年間で福祉の範囲はどんどん広がり、いまやすべての国民が対象になっています。福祉国家や福祉社会という言葉は、貧しい人の国家や社会ということではなく、日本に住んでいるすべての人々が幸せな生活を送るための支援ということです。

堀先生の子ども発達学部も福祉の一翼を担っていて、医療関係の健康科学部や看護学部なども人々が幸せに生活するための支援ですし、経済学部も地域社会を支える経済人を養成する。人間が幸せに生きるために、それを支える広い意味での福祉を担う人材を、学部学科によらず養成したいと考えています。

『ふくしの総合大学』

二木 本学は創立60周年の2013年に、「地域に根ざし、世界を目ざす『ふくしの総合大学』」という大学コンセプトを決めました。“glocaluniversity for FUKUSHI (Well-beingfor All)"という英語名も作りました。

2014年3月には平仮名の『ふくしの総合大学』で商標登録しました。全国200程の福祉系大学で、「福祉の総合大学」を標榜している大学は10ぐらいありますが、言葉が優しいからではなく、広い意味での福祉、人々を幸せにするという点で、あえて平仮名の「ふくし」を使っているのは本学だけです。更に地域に根ざし、世界を目ざす、英語で言う“glocal"にも特色があると思っています。

本学は2015年に看護学部を創りましたが、漢字の「福祉」ではなぜ看護学部をつくったかは説明しにくいですね。でも平仮名の「ふくし」と書いて我々が目指すのは、「ふつうの・くらしの・しあわせ」、人々のしあわせを支える大学で、しあわせの一番の原点は命なので、看護学部をつくったのです、と説明するとすんなり理解されて、定員100名で受験生が1200名も来ました。

そういう点で平仮名の『ふくしの総合大学』は本学のカラーとして大分浸透してきました。

開設準備中のスポーツ科学部

 中期計画が示されましたが、今後の改革についてのお考えをお聞かせください。

二木 第2期中期計画を、2015年度からパラリンピック・オリンピックが開催される2020年度までの6年計画として策定しており、その目玉が、2017年度にこの美浜キャンパスに開設準備しているスポーツ科学部です。パラリンピック、障害者スポーツに力を入れます。本学はもともと障害者スポーツを大事にしていて、パラリンピックの金メダリストも出ています。

スポーツ科学部は、障害者のスポーツあるいは、自身がスポーツをしなくてもスポーツを支える人たちを育てることも目指しています。平仮名の「ふくし」の一環で、本学のウィングを広げるためでもあります。

中期計画の中では、意識的に「2020年度パラリンピック・オリンピック」と表現を統一しています。裾野を広げることで、障害者スポーツの分野では、全国リーグの教員や学部長予定者など良い先生に来ていただく予定です。

学生の教育の方向性

 学長の立場から考える、学生への教育についての方向性について教えてください。

二木 どの学部、学科に入学しても、平仮名の「ふくし」、すべての人々の幸せを支援する、そのための知識と技術と精神を身につけてほしい。知識と技術は学部によって違いますが、精神すなわち「ふくしの心」を身につけてほしい。

今の時代は、専門的な知識をしっかり身につけると同時に、教養も重視する、両方必要なのです。専門的知識だけでは即戦力にはなっても短期間だけですし、逆に教養だけでは国家資格が必要な場面の多い福祉では仕事もできないのです。

 最近、学生も資格志向になってきて、資格と関係ない教養や、それ以外の学生生活からの学びが、得づらくなっている意識があります。

二木 そういう点では去年本学の事業が、文部科学省の「地(知)の拠点整備事業」に、福祉系大学で唯一採択されたことが良かったのです。座学だけではだめで、地域に出ていかないといけない。学生と教員がともに地域に出ていって貢献していただいています。堀先生も高浜市とどちらでしたか?

 南知多や名古屋市などです。

二木 理事長と私は、年末年始には必ず知多半島の5市5町と高浜市の首長さんを表敬訪問しますが、高浜市では必ず堀先生のお名前が出てきますね!

 ありがとうございます。

二木 そういう形で教員が地域社会に貢献していく。知多半島は対人口比で言うと、社会福祉法人やNPO法人が日本で一番多いのです。福祉大が知多半島に移転して30年がたって、地域から信頼されているのです。学生も実習等でお世話になっていますが、教員自身が出向いてそういう生の現実を知ることが重要なのです。

 知多半島は、教員にも学生にも恵まれている地域で、ニーズも高く、大学と一緒にやろうという人たちも多いので、こちらの提案やいろいろなサポートも受けやすいと思います。

本学の学生は他大学の学生と比べて、いろいろ動ける学生たちも多いなと実感しています。

二木 平仮名の「ふくし」を学ぶ学生が多いので、優しい学生が多いですね。4年前の3・11に際しても、学生が積極的に活動をして、地域的には随分離れていてもすばらしい支援活動を行う、それを通して学生が成長しているのです。

学生支援

 学生に必要な支援、私たち教職員がすべき支援は何でしょうか?

二木 忘れてならないのは貧しい学生への支援です。福祉大はもともと貧しい学生が多かったのですが、ここ10年は本当に増えていますね。本学は他大学に先駆けて推薦入試の段階から、奨学金支給や学費の減免を行っています。学力よりも困窮度を基準にした支給や減免です。生活保護や母子家庭、支援施設の修了者や卒業生を意識的に迎えいれる努力をしています。

経済的条件が悪くとも学業を続けられるような支援が、一番の福祉の原点です。現代は福祉の枠が広がっているとしても、最大の原点は貧しい人たちに対する支援ですので、他大学よりも努力をしています。

 障害学生に対する援助はいかがでしょうか?

二木 本学は日本で最初に差別なく障害学生を受け入れた大学です。障害学生は100名を超え、日本で一番多いのです。まだまだ不十分な点もありますが、学生ボランティアの支援も受けながらやっていて、誇るべき点になっています。

最近は障害者像がガラッと変わりました。30年ぐらい前は車椅子で肢体不自由と見ればすぐ分かるので、バリアフリー対応をすれば良かったのですが、最近は心の病で、見た目で分からない、自己申告もされないので苦労します。ご本人が気づいていない場合もあります。

 障害者差別解消法ができたり、合理的配慮が各大学で話題になったり、福祉大学が全国で果たす役割も大きくなっていますね。

生協への期待

 最後に生協への期待や率直な注文をお聞かせください。

二木 私は、教職員は全員生協に加入していると思っていましたが、6割にも満たない。学生は入学時のオリエンテーションでほぼ全員入っていると、昨年生協との懇談で聞いて驚きました。

生協は大学生活の下支えになるので、加入率が低いのは問題だと思い、2014年4月に、法人理事長と学長がそれぞれ、新入教職員に「生協に入りましょう」と勧誘文を、生協のカラーのきれいな案内に掲載しました。効果ありましたか?

白取(生協専務理事) 新任教員のオリエンテーションで時間をとって配布させていただき、生協加入も新任教員の方はほぼ100%、教員全体でも70%を超えました。職員の方も徐々に増えています。

 本当に助かりました。ありがとうございます。

二木 食べることは生きることの基本ですから、食堂が大事です。管理栄養士の方にも栄養バランスを考えていただいています。メニューも昔より工夫されていて、季節メニュー、短期メニューなども増えましたね。私は週3回は利用していて、教員で一番多いでしょう!

もう一つは今年4月にできた東海キャンパスです。東海市の全面支援で作られて、市と協定を結んで、生協と図書館は市民に全面開放しています。お年寄りや駅員さんなど地域の方が毎日利用されていますね。東海キャンパスは昼休み時間を無くしたので、学生が空き時間に食堂を利用するようになり、混雑が緩和されました。それも地域の方が利用しやすい要因になっています。生協には随分ご努力いただいて、お礼を言いたいです。

今後は、他大学のように安く朝食を提供することも、大学と生協とで共同提案したいし、スポーツ科学部も栄養補給が重要になってきますね。

 今年度協定書を結んでいただいきました。それをきっかけに、大学の方々と生協が顔と顔の見える関係にしていきたいと思います。本日はありがとうございました。

(編集部)


学長・理事長 生協加入のお薦め


大学と生協の『相互協力協定』の調印式(2015年5月)


新キャンパスの図書館や食堂には地域の方々も気軽に訪れます