学長・総長インタビュー

京都府立医科大学

吉川 敏一 学長

140年を超える歴史から、府民に愛され、母校愛も強く
教育・研究・臨床を通して、最先端の医療を地元にお返しする

日本の医科大学の状況

中屋 まず日本の医科大学の状況と特徴についてお伺いします。

吉川 全国の医科大学は今までは、他大学の医学教育をよく知らずに、個々に特徴ある教育をやっていましたが、ある程度共通な教育システムを作ろうと、国際認証を取り入れてきています。

日本でECFMGcertificate(米国で医療行為を行うための資格)に受かっても、良い医者も悪い医者もいる、一体どんな教育をしているのかということがあり、その資格を受検できる大学の教育も、全国でばらばら行うのではなく、きちんと教育ができているのかを調べて認証するという国際認証制度を始めています。

5〜10年の間で悪いところを改善し、良いところを伸ばし、ある程度平均化して、医療教育の質を確保するためのシステムができています。教育の質を統一する動きとして、昨年に認証を受けた本学は非常に高い評価を受けました。

その動きに対して、医科系大学同士の情報交換の必要性が高まってきました。住民の税金にもとづき、地域に根ざした医者を育成する必要があるという特徴がある、全国に医学部のある8公立大学の内、関西にある奈良県立医大、和歌山県立医大、大阪市立大医学部と本学は、4公立医科大学・医学部連合として、私がリーダーを務めて、教育や国家試験対策、学生のことなどの情報交流や協力関係を進めています。

また私立の関西医大、大阪医大、兵庫医大と近畿大医学部の四つを加えた近畿地区の8医科大学・医学部連合を昨年暮に作り、教育の均一化の中で、情報交換や国際交流の協力体制を構築しているところです。

今後の方向性

中屋 それを踏まえて、今後の方向性をお伺いいたします。

吉川 本学はもともと明治5年に、庶民、京都府民の浄財、寄付でできて、その歴史が今に続いています。まず府民に親しまれてかつ府民に還元する、『世界最先端の医療を地域へ』をスローガンに、普通の医療だけでない世界最先端の医療の提供がモットーです。

世界の新しい治療にトライアルする、いろいろなところで治らない最終的な患者さんも診る、治りにくい患者、難病と言われる人も引き受ける。政策医療と言われ、難病と言われる感染症、例えばエボラ出血熱など、政策的に引き受けて、最前線でやるという役割を持っています。

もう一つは、学生を最高の医者に育成する役割です。卒業前に医者の卵が医者の素養を身につけるのが本学の役目です。研究と臨床の二つを担うのが本学の理念であり、学部教育ではその二つが必要であり、最先端の研究が臨床養成にもなる、これには教育と研究と臨床が一つに結びつく必要があります。

歴史的に、臨床に結びつく研究でないといけない、トランスレーショナルリサーチを得意とする大学であるという立ち位置です。

140年を超える歴史

中屋 140年以上の本学の歴史を簡単に教えてください。

吉川 明治2年東京遷都で活気を失っていた京都で、僧侶を中心に病院開設の動きがあり、みずから資金調達に奔走し、一般府民の浄財、管内医師や薬舗からの助資金、花街に課した冥加金等による資金により、明治5年に京都療病院が創設され、ドイツ人医師などの力を借りて、近代医療の幕開けとなりました。その後、病院運営の中で医師の育成のために医学校が併設され、近代医学教育に道が開かれ、今につながってきました。

そもそも府民のお金で開設されたので、府民に親しまれ愛されている。逆に我々は世界最先端の医療をお返ししないといけない。ある意味他の公立大学以上に府民、地元の人との関係が深いし、伝統として脈々と受け継がれています。

中屋 オープンキャンパスでも学生はそのような話を熱く高校生に語っていますね。

吉川 医者になるつもりで来たけど、6年間学ぶ中で母校愛が芽生えて、京都府立医科大学の人間になってしまうのも、長い歴史が作った伝統かなと最近思いますね。

地域への貢献最先端のがん医療

中屋 地域に貢献する北部医療センター、最先端のがん征圧センターについて教えて下さい。

吉川 天の橋立にある北部医療センターは、もともと京都府立病院でしたが、医者が不足する京都府北部地域で本学附属に変わり、学生の教育もそこで担う必要があります。最先端の医療ができないと教育ができないので、指導者レベルの医者を派遣し、現在では定員一杯になって、今は増員を府に要請する必要すらあります。

来年度より学生が72週のトレーニングを行うよう臨床重視のカリキュラムに変更して、その一翼をあちらで担う。附属病院として教育の拠点が増え、さらに北部への派遣人数が増えたので、開業医が増えたり、地域の病院に医者を送ることができて、地域医療にも貢献できます。

がん征圧は病院をあげて力を入れています。特に小児がん治療は全国一、二を争う実績があります。外科や内科、各科でがん専門の教授が揃っていて、殆どの臨床の教室でリーダーシップをとっています。

また化学療法では最初の創薬から応用までを一つの教室でやっていますし、最先端の陽子線がん治療施設が来年完成します。免疫治療や温熱療法などさまざまな治療法も開発していますし、中性子捕捉治療など新しい開発も含めて、がんの予防征圧に今まで以上に力を入れていきます。

3大学連携、国際交流

中屋 京都府立大、京都工芸繊維大と3大学の連携事業で教養教育を一緒に進めるなど、新しい教育に取り組み、国際交流も盛んに行っています。学生の教育についてお話をお伺いいたします。

吉川 我々の特徴は、理念にもあるように良い医者をつくることで、歴史的命題でもあります。それは学生への教育しかありません。受験勉強を一生懸命やってきた学生なので、教養教育の1、2年生の間に、患者さんの痛みが分かる優しさを持った医者向きの学生に育てる必要があるのです。

3大学の連携で、一緒に教養科目を受講できるシステムによって、医学部での医者・看護師ばかりの友人関係から、文学部的な工学部的な単位も取得できるし、交流も一緒にできて、人間の幅も広がってくることも期待しています。従来の人間教育をさらに充実させていきたい。

また、我々は昔からクラブ活動に取り組むことを学生に奨めています。運動系から文化系まで非常に多彩なクラブがあって、クラブ内外のいろいろな人との交流を積極的に推奨しています。幸い運動クラブは強くて、人間関係をうまく保つ術などがクラブ活動を通じて身に付けられるのも特徴の一つです。

国際化については、オクラホマ大学とは今まで非常に歴史的にも長い交流があります。ヨーロッパの大学とも、イギリスのリーズ大学や二、三の大学と、国際交流では交換留学での学生交流を開始しました。今、留学生は10人程度ですが、30人ぐらいに増やしていきたい。

ラーニングコモンズ

中屋 さらに学生生活を充実させる方向性はありますか?

吉川 本学は、横に鴨川があり、西には御所があり、憩いの場、散策をする、のびのびとしたキャンパスライフを送るには恵まれた環境です。しかし、小さい人数、ゼミなどの5人、10人でグループディスカッションしたり教えられたりする場所が、病棟のカンファレンスルームや小教室に分散していますので、雨の日でも寒い日でも、一か所でできるラーニングコモンズを今計画しています。

学生を励ます表彰制度

吉川 勉強意欲を高めるために、各学年の成績トップ5には毎年賞金を与えて表彰しています。トップは100万円程度。毎年なので1年生でビリでも2年生で取ることができます。6年間のトップが学長賞です。これは卒業生からいただいた寄付によるNIM奨学金です。一応勉学に使えとは言っていますが、何に使ってもよい。

クラブ活動では橘賞があります。西日本医科学生総合体育大会優勝、全国的な音楽で賞をとったなど、課外活動で優秀な成績を収めた個人や団体を複数表彰しています。

国際的なバイオリンコンクールで優勝した学生は、バイオリニストになるのか、医者になるのか。体育系大学も含めたトライアスロン全国大会で優勝した学生もいます。映画監督の大森一樹氏も本学出身で、そのような人間を生む素地があります。

中屋 勉強だけやればいい、ということではないのですね。

生協への期待

吉川 生協食堂はボリュームがあり安く、リーズナブルで非常に価値があるのですが、今地下にあって地域の方も利用しづらい。この1年でメインストリートの河原町通りに面した1階に移して、病院や大学に来られる地域の方に開かれた食堂、素晴らしい学食に生まれ変わって欲しい。

末廣(生協専務理事) 町屋風にいたしますか?

吉川 それいいな。町屋風デザインで、みんなが集まる学食にしたい。また、病院の地下の「フレール」という生協の食堂もリーズナブルで重宝がられています。その隣に大学で必要なグッズを売っている病院購買店もあり、大学のオリジナル商品をもっと広く充実していきたいね。

またその隣には、大学直轄で機能性を持った農作物を販売するコーナーを作る予定です。例えば糖尿病患者に血糖値の上がりにくいお米、目にいい食材、骨が強くなる美味しい三ケ日町みかんなどを販売して、生協とも連携したい。

機能性農作物は、大学がどんどん仕入れるから、生協食堂の食材として調理して、食事として提供する。カレーも中に入っているニンニクや玉ねぎは、血液サラサラになる力が3倍にもなる食材を使ったカレーだとか、いろいろなアイデアを考えています。

末廣 それ学長カレーになりますね。

吉川 そのような機能性農作物を買いたい場合は、隣の大学直営店でタマネギなど購入する。体に良い食材を使用しているのが生協食堂で、実際に素材は大学で販売している。

食堂で人気のある天ざるの天ぷらの野菜も機能性があって、例えば「リコピンが3倍くらい入った、隣で販売しているピーマンを使ってますよ」と病院で宣伝すると、患者さんも健康のために生協で食べるし、さらに大学直営店で買ってくれる。そういう地下にしたいのです。

中屋 それは是非生協も積極的に協力しないといけませんね。今日はありがとうございました。

(編集部)


地下レストラン「フレール」


大学本部棟(地下に生協食堂)


病院購買店