学長・総長インタビュー

横浜国立大学

長谷部 勇一 学長

21世紀グローバル新時代に、新しい都市科学部をはじめ
学部・院の横の連携で、実践的学術の国際拠点をつくる

大学の現況について

高橋 最近の大学をめぐる状況について、どのように捉えていらっしゃいますか?

長谷部 グローバル化した世界の動きについて、20世紀と21世紀で大幅に変わったという認識が大事です。学長就任の所信表明で「グローバル新時代」という言葉を使いました。21世紀に入って、中国やインドなどの新興国の成長が世界経済を牽引しています。購買力平価で見ると、2014年のGDP規模では、中国がアメリカを抜いているとIMFも推計しています。

一方日本は少子高齢化、15歳から65歳までの生産可能労働人口が減っていて、そこが大きな鍵となる人口減少時代に入っています。右肩上がりの20世紀とは違う経済や社会のあり方を考え、21世紀のグローバル新時代に対応し、そこで活躍できる人材育成が、今大学に求められています。すなわち人口減少時代には、いかにイノベーションを起こすか、付加価値を生める人間、働くだけでなく問題を発見し新しいアイデアを出す人材が必要です。そういう点で高等教育として、大学の果たす役割は今後ますます大きくなります。

もう一つは、グローバル新時代は欧米社会だけでなく中国、インド、アジアなど多様な国々への理解が必要となります。言葉だけでなく文化、政治、宗教などもそれぞれ違うので、実は人文科学、社会科学が本当に力を発揮しなければいけない時代になったのです。

最高の品質を生産したとしても中国や東南アジアで受け入れられるかは別問題です。それぞれの国、社会で受け入れられるイノベーションを推進するには、人文科学・社会科学の知見も必要です。そういう意味で人文系・社会系や理工系がコラボする三層のイノベーションを提唱しているところです。

文系の先生方も「行動する人文科学者、社会科学者」として、現実社会への関わりを示すことが必要です。横国は学部相互の交流もあるので、それを通じて工学系の人との横の連携を深めてほしいと思っています。


「観月の会」留学生の餅つき 

新しい都市科学部

高橋 来年50年ぶりにできる新しい都市科学部について教えて下さい。

長谷部 国連によれば、2050年には世界人口の66%が都市に集中すると予測されており、これからの都市のあり方を考えることが、21世紀の人類および地球が直面している多くの課題を解くための鍵になっています。

そこで、都市を科学的に学ぶ学部を設立することで、文理にわたる幅広い視野から都市の未来へ挑戦する人材を育成することとしました。

学科の構成として、教育の人間文化課程の先生たちで、社会や人間をきちんと考える都市社会共生学科のほか、建築学科、都市基盤学科、環境リスク共生学科から成り立ちます。学科間の連携を重視するので、例えば建築の学生でも、広く都市社会、都市共生や都市環境をよくわかった上で建築業界で働いていくことが期待できます。文理融合で、21世紀型グローバル人材を、横浜・神奈川の都市を基盤に、教育プログラムを考えた新しい学部を作る、本学のこれからの一つの象徴にもしたいのです。

四つの理念と新しい大学改革

高橋 この間言い続けている四つの理念と、今の新しい大学改革、今後の運営に関してのグローバルと地域貢献についてはいかがですか?

長谷部 法人化以降より、先進性、開放性、実践性、国際性の四つの理念が言われています。私は、横浜国立大は国際性ある大学として発展してきたし今後もそうあるべきだと思います。横浜という地でその国際性を目指しながら、学問的には実践的学術を目指す、即ち『実践的学術の国際拠点』です。例えば新興国、途上国では、経済成長は高いが、公害、社会開発の遅れ、都市と農村の格差、貧困の拡大などが相変わらずある。そのような国々の持続的発展をどう支援するかが重要です。そこで活躍できる人材、個人像を明確にし、実践的学術の国際拠点として、日本も含む世界の持続可能な社会の発展に貢献することが一つです。

もう一つは、横浜、神奈川には国際性もありながらも、小田原を中心とする西部地域や三浦半島など、日本のほかの地方と同じようなローカルとしての悩みを持つところも抱えています。農林水産業、地元商業の再生、自然災害に対する防災・減災などローカルな課題の解決を図るということは、やがては人口減少時代を迎える中国や東南アジアに対して重要な発信となるので、まさにグローバルな意義も有すると思います。このような意味でグローバルとローカルの二つの視点を持った大学として発展していきたいと思います。

国際性と留学支援

高橋 『国際性』をキーワードに、留学生も多い本学で、学生のとりくみやお考えの施策をお聞かせ下さい。

長谷部 本学は、ここ数年、学生数の約10%が留学生です。また、その半分くらいの日本人学生が海外に行っています。今後は、留学生受入れも学生派遣も共に大幅に増やしたいと思っています。

そのために重視しているのが、短期の国際交流です。例えば、経済学部では、学生を1週間くらい中国に交流に連れていって、現地の学生と英語で討論会をします。実際に企業見学に行ったり、上海市の方と交流することで、学生はもっと中国を知りたい、勉強したいと思う、意欲が出るのです。

このような1週間程度の海外のショートステイ・ショートビジット(SSSV)の補助を大学として行っていますが、アクティブラーニング的なとりくみでもある国際交流を通じて、学生が内発的に勉強したい、もっと海外に行きたいという気持ちを持ってくれることを重視しながら、活発にしていきたいのです。

また、今の留学に行くネックは、授業を休まないといけないことです。1〜2週間のショートではなく、もう少し長期の2〜3カ月留学を可能にするため、本学の場合は、2学期制を4学期制にして、夏休みや春休みに、海外の英語キャンプや海外インターンシップを組み込んで単位を取れるようにする、4学期6ターム制を2017年4月の新しい都市科学部を中心に導入します。これにより、もっと長期に海外に自由に出ていってほしいと思います。

新しい国際交流として、2017年2、3月に、上海で2週間の海外インターンシッププログラムを試行します。横浜国大上海同窓会や現地の日系企業の皆さんのご協力も得て、午前中は中国の大学で中国語や中国文化を学び、午後はその企業でインターンシップを行います。日本語も中国語も英語でもできて、中国のビジネスを実感できる良い機会になると大いに期待しています。

学生支援の特徴

高橋 学生支援について特徴的なことをお話し下さい。

長谷部 バブル崩壊以降、徐々にアルバイトで時間が割かれて、勉強できない学生が増えている実感があります。学内の調査では、本学の学生の親の平均所得が下がっている傾向が報告されています。地方から来る場合は、住居費など仕送りがあって、学生の皆さんの現状も大変だなと思います。大学としては奨学金や授業料免除をしていますが、今の学生の生活実態を生協とも協力してしっかり把握することが重要ですね。

課外活動支援という点では、今年4月に運動部壮行会を行いました。30もの運動部のキャプテン・副キャプテンに部の現状と今年の目標を報告いただいた。横浜国立大学の名前を背負っている運動部同士の横の連携もできて、とても良い会になりました。「文化部ではできないのか」との要望も出て、そちらは校友会でやってくれました。学生の課外活動は、各部と学生支援課が線でしか繋がっていなかったのが、今年は部同志のまとまりができて強化できたと思います。

学生相談室では、「生協の白石さん」ほどではありませんが、何でもお悩み相談で恋愛の話も来ていました。また、今年度から障がい学生支援室も立ち上げました。

留学生支援

長谷部 留学生支援では学長主催で「観月の会」を毎年10月に行っています。留学生・外国人研究者と日本人学生・教職員の親睦を図る目的で、約900人の留学生のうち400人ほどの参加があります。餅つきでは、生協さんにもご協力いただきましたね。また国際教育センター105(イチマルゴ)室では、日本人のボランティア学生が常駐して、留学生が「日本語の勉強、ここ分からないよ」とか、生活上困ったことがあったら相談して、かなり活発に活動しています。旅行など定期的なイベントも行い、留学生と日本人学生の交流にも力を入れてますね。

このような国際交流が評価されたこともあり、国内の日本語学校の教職員が留学生に勧めたい進学先を毎年選ぶ「日本留学AWARDS」の東日本の国公立大学で、2年連続の受賞で表彰されました。

留学生向けの住まいにも力を入れています。峰沢国際交流会館、大岡インターナショナルレジデンス、羽沢インターナショナルレジデンス、弘明寺の留学生会館があります。留学生も住まい探しが大変なので、1年目は優先的に入れるようにしています。また今後の計画として、学内に日本人と留学生の混住型の寮を造る予定です。そこには、8名を1グループとしたシェアハウス型のスペースを作り、八つの個室ベッドを確保した上で、シャワー、トイレ、台所を共用にすることになります。そこには、必ず日本人も入るようにする予定です。

生協への期待

高橋 学長の依頼で、試験時期の朝食提供を生協で行いましたが、生協への期待や要望などはありますでしょうか?

長谷部 朝食応援では、大変お世話になりました。今国立大学の運営費交付金が減らされて、大学財政も厳しい中では、大学は本来やるべきことに人を集中したい。大学がやっていることの中で、生協ができることはやってほしい。例えば先ほどお話ししたショートステイ・ショートビジット(SSSV)もプログラムは大学が計画しますが、現状は現地への航空券や宿泊の手配を先生がやっています。生協でできるところもあるのではないか?

食と住は今でも生協さんにやっていただいていますが、そこに出てきた学生の生の声に対応して一緒に考えていきたいと思います。また、イスラム圏の留学生へのハラール食も生協で対応していただいていますね。国際化推進に必要なこのような対応は、これからもお願いしたいと思います。

あと学生が本を読まなくなっていることを残念に思っています。秋田の国際教養大学の学生は年間に50冊も読書すると聞きますが、東京の有名私学でも年に4、5冊で、とても差があります。IT化で、電子ジャーナルやWEBで見ているのでしょうが、やはりじっくり考えながら読む、本に書き込みをしながら、あるいはノートを取りながら読む、そういうことが必要ではないか? 生協も読書マラソンをやっていますが、大学としても強化策を考えたいし、生協とも連携したいですね。

(編集部)


樹々を抜けて図書館へ


大学のモニュメント


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