学長・総長インタビュー

東洋大学

竹村 牧男 学長

創立130周年新たな13学部体制で
スーパーグローバル大学を推進する

大学の理念と目指すこと

中山 最近の大学をめぐる状況と東洋大学の特徴をお教え下さい。

竹村 東洋大学は、明治20年に哲学者・井上円了が創設した「私立哲学館」に由来し、今年は創立130周年の記念の年です。私学として建学の精神を根本に据えて、それをいかに時代の変化の中で生かしていくかに腐心しています。
 建学の精神は「諸学の基礎は哲学にあり」を筆頭に「知徳兼全」「独立自活」の三つを掲げています。

「諸学の基礎は哲学にあり」とは、たとえばカントやヘーゲルの哲学を学ぶということではなく、常識や流行、先入観や偏見にとらわれず、物事を掘り下げて深く考えることが大事だということを意味するものです。つまり自分自身の頭で深く考え判断し行動できる、そういう人間となってほしい、という想いがそこには込められています。このことは、非常に急激な変化の中にある現代社会で生き抜いていくためには、非常に重要なことです。想定外のことが起きたときも、自分自身で考えて対処する、正解がないところに一つのあるべき解を見出していく、そういう力を身に付けることが哲学を学ぶ、究めるということの意味であり、今日ぜひ必要な能力だろうと思います。
 「知徳兼全」は、知性と徳性を十全に兼ね備えるということ。今日の高等教育の流れの中では、学力のみならず人間力のことも言われています。課題発見・解決能力、リーダーシップ、協調性、コミュニケーション能力等々を十全に備えていく。単に勉強ができればよいということではなく、人間としても成長していくことが求められています。「知徳兼全」という円了先生のお考えも同じであり、これまた現代の高等教育の流れに沿ったものだと思うのですね。

「独立自活」は、今日の流れによせて言えば、自学自習です。単に授業を受けるだけではなく、予習もし、講義で受けたことをさらに自ら展開していく、事後展開学習も大事である。その基本にあるのは、自学自習の姿勢をいかに確立するかであり、まさに「独立自活」はそのことにつながっています。このように考えれば、本学の建学の理念、建学の精神は、まさに高等教育の最近の流れを先取りしたものだといえます。

今日の高等教育での重要点

竹村 今日の高等教育では、二つの重要な点があります。一つは、教育の質の転換が求められているということです。単なる質の向上ではなく、これまでの座学偏重に対して双方向性を重視し、ディスカッションやディベートなどを用いて学生が参加する授業を展開していく。インターンシップやボランティアを積極的に導入する。この自学自習としての主体的な学習をいかに導くかが問われている。そういう教育の「質の転換」をどのように実現するのかが求められています。

 もう一つはやはり、グローバリゼーションの中で大学はどうあるべきかが、真剣に問われています。大学自身が世界標準の運営を行う、さらに一人ひとりすべての学生をグローバル人財として育成する。学生もグローバル人財を目指して頑張ってほしい。研究活動においても世界の学界をリードする研究を展開していくことが求められています。

 大学は、単に社会の要求に応えていくだけではなく、そもそも社会のあり方そのものを吟味検討し、より良い社会像、次世代のためのより良い地球社会のあり方を提案していく、その知の拠点にならなければいけないと思うのです。

 政治の世界は今ポピュリズムに陥り、グローバリゼーションの動きに反して保護主義に傾いていると言われますが、大学は決してポピュリズムになってはいけない、厳密な知の創造(クリエーション)と分析によってあるべき人間の姿、社会の姿を提案していく、そういう知の拠点として確立されていかなくてはならない。これが現代の大学の大きな課題であると思います。


創立130周年13学部へ

中山 今後東洋大学として強めていきたい重点をお聞きします。

竹村 今年は創立130周年にあたり、4月から13学部体制になります。
 まず国際地域学部国際観光学科を拡充して、国際観光学部にします。観光政策・観光産業双方をカバーしながら、2020年オリンピックあるいはその後に向けて、観光立国をうたう日本社会で、国内外の観光に関わる優秀な人財を育成してまいります。

 それから国際地域学部国際地域学科と新しいグローバル・イノベーション学科を合わせて、国際学部を開設します。国際地域学科は、現場から物事を考え、社会をよりよく改革していくことを目指しており、ボトムアップの立場から内外の地域開発で重要な役割を果たします。グローバル・イノベーション学科は、地球や社会を動かしている金融、経済、産業などさまざまなシステムの変革に関わり、世界のイノベーションを牽引できる人財を育成していく。

 もう一つの情報連携学部は、赤羽台の新キャンパスで、情報連携学科一学科です。IoT元年が言われ、今や人だけでなくあらゆるものがインターネットでつながっていく。また、ビッグデータの分析等々によって適切な解の導きが容易になされる。さらにAI=人口知能も非常に発達している。そういうものがどんどん社会の中に導入されていく中で、人間社会は相当変わっていくだろう。この超高度情報化社会をリードし、ICTを活用して、いろいろな分野の人、さまざまなモノ、コトが連携して、世の中の要望に対して応えていく。それを実現できる人財を育てる学部をつくります。
 そして文学部の英語コミュニケーション学科を改組して、国際文化コミュニケーション学科を開設します。英語力を基礎とし、英語・ドイツ語・フランス語・日本語の各分野で、より深い学習に基づく異文化交流のスペシャリストをつくりだしていく。このことは企業が海外に出て行くときにも必要なことですし、また日本語教育の人財を養成していくなど、いろいろな使命が含まれています。

 新学部・学科の設立や改組の中で、グローバル社会に応える人財を育成していく、地球社会の先端的な状況にいち早く応え、その課題をリードしていける人財を育成していく、そういう大学にしていきたいのです。
 特に、国際学部グローバル・イノベーション学科は極めて意欲的な学科です。すべて英語で授業、定員は少数精鋭の100名で、そのうちの留学生が30%、日本人は1年間の海外留学を義務付けており、どういう人財が育つか大変楽しみです。竹中平蔵先生などにもお力添えいただいて、今、新学部発足の準備をしています。

学生への教育

中山 グローバリゼーションの中で、学生への教育方針について、重点的なお考えは何でしょうか。

竹村 大きいのは3年前の2014年9月に、文部科学省のスーパーグローバル大学創成支援に採択されたことです。その前に国際地域学部がグローバル人材育成推進事業に採択されたことが、大きな弾みになっています。スーパーグローバル大学構想は、採択以後の10年間に着実に実現していくことで、世界でも評価される大学になると思っています。
 国際化へのさまざまな大学の施策は、教職員のご協力で順調に進んでいます。海外研修、協定校の充実、留学生、派遣受け入れの充実など、さまざまな面で展開しています。また、今年度からは語学科目以外で英語による授業を導入し、すでに10%弱を占めています。

 ただしグローバル化すればするほど、むしろ自分のアイデンティティ、自己の基軸というものをしっかり持って、その上で多様な価値観に柔軟に対応しうることが必要だと思います。異文化理解・活用力、いろいろな価値観や文化に、柔軟に対応しながらその良いところを取り入れていく。こういう力が必要です。さらに私は、日本人も留学生も、自分の母国の文化をしっかり理解して、それを他者に説明できる、そういう能力が一番重要ではないかと思うのです。それを異文化理解・活用力に対して自文化理解・発信力と言っています。

 その施策の一環として、いわゆる一般教育を基盤教育として、2016年に新しいカリキュラムにしました。その中では、旧来の人文・社会・自然科学という枠組みではなくて、まず建学の理念に基づく「哲学・思想」、「学問の基礎」、「国際人の形成」、「キャリア・市民形成」、「総合・学際」の五つにしました。「国際人の形成」では、実はその半分は日本文化に関する科目としたのです。ぜひ、日本の千何百年の伝統の中にある文化、思想や学問を、日本人学生はしっかり学んで、そしてそれをぜひ他者に発信してほしいと思います。

中山 国際化すればするほどそういう力は必要になってくるでしょう。

学生支援

中山 厳しい学生生活の現状の中で、学生に必要な支援について、お聞かせ下さい。

竹村 奨学金は、学業優秀者・経済的就学困難者・家計急変者、海外留学促進、独立自活支援やその他など、それぞれ目的別の奨学金を用意しています。本学への寄付金を増やして、さらに充実させていくのも課題です。

 学生の勉学に対する学習支援は、学習(修)支援室、ラーニングサポートセンターが各キャンパスにあり、これが次第に充実してきています。図書館も単に静かに本を読むだけでなく、自学自習の実践に必要な、みんなでワイワイガヤガヤ言いながら勉強できる場所の整備が非常に重要で、各キャンパスの図書館にラーニング・コモンズを設置しています。そこに学生が来て、それがきっかけとなって図書館で勉強するようになるケースも増えていますね。

 東洋大学は正課の授業だけではなく、いろいろな課外活動をサポートするために、学生課外活動育成会という独自の組織を作っています。スポーツだけではなく、文化活動やボランティアなどいろいろと支援して、学生生活をサポート、充実させていきたいです。

生協への期待

中山 最後に我々生協へのご注文や期待感などを教えて下さい。

竹村 学生生活をいろいろな面でサポートしていただいていますね。生活面から学習面、非常に性能の良いコンピュータを安価に提供していただくなど、いろいろな意味でサポートしていただいていると思います。最近は、売るべきものは、モノよりもコトだとよく言われます。学生のライフスタイルを提案するといいますか、こんなふうに生活されたらよいのではないかというような、そういう提案の中で、それぞれのモノを推奨していく。そういうことがよいのではないかと思います。

 先日京北高校に初めて行きましたが、あそこの生協食堂はなかなかすばらしいですね。食堂は法人の担当ですが、白山キャンパスに生協食堂があれば、経済的にあまり余裕のない学生にとっても、とても助かるのではないでしょうか。

学生相談室では、「生協の白石さん」ほどではありませんが、何でもお悩み相談で恋愛の話も来ていました。また、今年度から障がい学生支援室も立ち上げました。

中山 本日はありがとうございました。

(編集部)


東洋大学125周年記念館


白山キャンパス店舗


京北購買食堂店(東洋大学京北中学高等学校内)