特別対談 国立大学協会 会長 × 全国大学生協連 会長理事

国立大学協会

山極 壽一 会長

国立大学の現状と生協への期待
対談 国大協山極会長&全国大学生協連古田会長理事

大学と学生の現状

毎田 まず今の国立大学の現状を踏まえて、山極先生のお考えをご紹介いただいてよろしいでしょうか。

山極 大学進学率は今や50%を超え、それに伴って大学数も急速に増えてきましたが、18歳人口は1992年から急激に減少しました。

こうした状況に対して、最近、国立大学に求められる改革は、世界トップの研究型大学をどうつくるか、地方創生等日本の産業社会に貢献する人材をどう育成するのか、この方向への二極化と言っても過言ではありません。

国立大学は戦後、47都道府県に一つ以上できて、70年間ずっと、地方の文化振興や行政、産業を担う人材育成に貢献してきました。東京一極集中による地方の人口減少や産業の衰退に対しても、大学の機能をどう位置付けていけば良いか、この状況を巻き返すにはどのような役割を果たしていけば良いのか、そういったことを課題として一生懸命、期待に応えようと努力しています。

しかし、国立大学の教育研究基盤を支える運営費交付金は、法人化後、減額が続き、大学の財政状況はかなり厳しい。近年、やっとそれに歯止めがかかったものの、消費税増税や電子ジャーナルの価格高騰など、様々な支出が増えて、教育研究の現場を担う教職員数も減らさざるを得ない状況です。

一方で、心の悩みを抱える学生、大学の「答えのない教育」にどうすれば良いか分からなくて悩む学生、高校までの受験勉強で友達がいなくて、大学でつくりたいけどどうすれば良いのか分からない学生など、ケアが必要な学生が増えています。

また、教科内容の高度化で、ICT活用の講義も増えて、学生同士や学生と教員との対話が薄れつつあります。今の学生は、知識はインターネットに浮かんでいて、キーワード検索すればいくらでも自分の思う通りにデータが転がりこんでくると思っています。しかし、情報を切り貼りして並べても、本当に自分が利用できる知識にはなっていない。

知識を自分のものにするには、それを自身の経験や感性に従ってじっくり組み直すプロセスが必要です。身につく知識を与えるには、教員個人が自分の考えを伝える対話型教育が重要です。フィールドワークや実験を一緒にやって考えを紡いでいく、経験を伝えていく、そういうことが必要なので、ケアも大変です。とりわけ大学院教育は個人教育であり、教員は多くの学生を抱えられない。教員数が削減されると、教育現場が非常に疲弊してしまうのです。

幅広い人のいる生協

山極 ここからは生協への期待ですが、生協には昔から学生、教職員など大学のいろいろな立場の人たちが参加をして、幅広い年齢層の人たちで、協同の場をつくってきました。一緒に新しいことを発想し提案し企画し、それを実行するというプロセスをみんなで共有してきた。これは大学の教育とはまた違う形の実践で、学外の実践活動とも違い、これからも大きな可能性が期待できると思います。

大学は壮大な実験場であり、野心や冒険が許される場所で、本来それが大学の特色です。その一環として生協の活動もあると思うのです。

京大の生協で活動している学生と、いろいろと話す機会があります。新しい京大グッズの開発では、学生の発想力が豊かに発揮されていて、大変よく育っているなという印象を受けました。ある意味、今の大学が抱えている問題のいくつかを、生協が解決してくれていると思います。

もう一つ大学が抱える課題は、国際化と産学連携です。グローバルな時代を迎えて、国際的な、あるいは産業界も含めた社会の要請が変わってきた。大学は開かれた場にしないといけない。そのために京大では「大学は窓である」という意味の「WINDOW構想」を立てて、学生がキャンパス内外で活躍できるようにしました。

「京大おもろチャレンジ」という、学生が自分で企画し実行する海外留学システム、さらには産業界の支援も得ながら、学生が分野横断的な発想で新しいコンセプトを競い合うコンテストなども考案しました。今、実社会で何が起こっていて、何を期待されているのかを学生が直観的に感じ取ることができる場をたくさんつくろうと、奮闘しています。

産業界にも大学の教育を見てもらいたい。能力ある学生がこれだけたくさんいるということを知ってもらって、特に博士の学位を持つ人材をきちんと処遇してほしいと思っています。国立大学には日本の博士課程学生の約7割が在籍しており、高度な人材を育成しています。インターンシップは一つの方法で、就職の前段階のような数日のものではなく、各企業が協力して比較的長期間受け入れて、学生が実践力を身につけられるよう、充実が図られることを期待しています。

大学生協の事業の重点

毎田 ありがとうございます。古田先生からお話をお願いします。

古田 大学生協の重点事業は5つの柱がございます。

第1に、「学びと成長の支援事業」で、基本は教科書をはじめとする書籍、情報機器なども含めた文房具の提供です。最近は、海外研修やインターンシップなどの企画、新入学から卒業までの学生のキャリアデザインを支援する様々な講座にも取り組んでいます。

2番目は「食生活の支援事業」です。安くて量が多くて栄養はあるけどそれ以外はいまひとつというあり方から、この20年ぐらいで大きく変貌しています。生協食堂の改装が数多く実現して、以前の生協とは思えないような良い施設を持つ大学が増えていますし、様々な多様性に応えた食のサポートをしています。 

ミールカードの食事では、何をどのような栄養価で食べたのかの履歴が、ご家族も閲覧可能です。お子さんの健康を気遣うご家族に大変好評で、生協の営業上も含めた非常に重要な柱として継続しています。

3つ目の柱が「住生活の支援事業」です。住まい紹介や管理事業が主ですが、最近は「大学で留学生の宿泊施設を造りたいが、生協に協力してもらえないか」というお話もいただき、新しい課題になっております。

4本目の柱が「学習教育の環境支援事業」です。学生の本離れが進んでいるので、読書推進として「読書マラソン」や「読書カフェ」などの企画に取り組むとともに、電子教科書の開発も、大きな柱に成長するよう期待しています。

最後は「共済事業」です。学生総合共済と学生賠償責任保険、扶養者死亡補償保険、学業継続費用保険を展開しています。特に学生は自転車事故が非常に多く、自身だけでなく他の方に傷を負わせることも発生しており、それを支える大きな役割を担っております。

メンタルの大きな悩みを抱えている学生も増えています。生協では専門業者へ委託し、24時間電話で悩み相談を受けて、大学の学生相談室や保健センターにつなぐことも、共済事業の一環として取り組んでいます。共済金給付もメンタルが理由になるケースが増えています。

学生中心が生協の強み

古田 このような事業を展開する上での生協の大きな強みは、学生を中心とした協同組合という点です。大学生協は学生を結集する団体としては恐らく日本で一番大きな規模の団体ではないでしょうか。生協学生委員という生協活動の中核を担う学生の数は、全国規模で2005年が4548人でしたが、2017年には1万1006人と倍増しており、大学生活を能動的に送ろうという意思を持っている学生を結集している強みがあると思います。

大学執行部の方とお話しする機会には、学生も一緒に参加して、学生の声を聞いていただくことで、あらためて生協の存在意義を認めていただいております。

また大学との前向きな関係構築に努力して、多くの大学で積極的で建設的な関係となっております。特に国立大学では良好な関係を構築させていただき、法人化後はそれぞれの大学で協定書を締結しております。特に京大は先進的な例であり、「大学が使命を果たすために生協と密接に連携してきた歴史がある」「教育研究・社会連携・人類福祉への貢献という使命を共有している」など非常に格調高い協定書を結んでおります。

生協は大学のコミュニティの一部として、このような活動を行っておりますが、今や「大学がコミュニティである」という基盤そのものが揺らいでいるのではないかと思います。生協としましては、大学というコミュニティを豊かにすることに貢献できれば良いと考えています。

学生同士の対話促進

山極 生協にお願いがあります。健康的な食事の提供は個人へのケアですが、食には人と人とをつなぐ接着剤の機能があります。それを活用して、学生が対話できる環境をつくっていただきたい。例えば生協食堂の一角で誰でも参加できるカフェのようなものを開いて、コーヒーを片手に話をする、そういう場です。

生協はいろいろなチャンネルがあり、学生や教員、職員など様々な層の人々がいますので、そういう人たちが相互の枠を超えて交流できる場をつくることができる。それこそ食事や物を提供している生協の「特権」です。そういう場を学生自身の手でぜひアレンジしてほしいと思います。

大学を超えた交流は

山極 大学生協は大学ごとに自立した組織ですが、その生協の役員や学生委員は大学を超えて付き合ったりしていますか?

毎田 200ぐらい大学生協がありますが、北大なら北海道、京大であれば関西北陸など、全国七つのブロックに分けて、日常的に学生委員同士が交流することは、かなり頻繁に行っています。全国1万人規模の学生委員が集まることもありますが、主には近隣で集まっています。

山極 いいですね。学生からいろいろと企画や発案が出て、それが活かされる場はなかなかないですからね。

学生委員に留学生を積極的に勧誘したら、大学の中での実践を通じて、日本の文化や食システムを覚えたりするのに役立つと思います。先ほどのカフェも留学生が主導して、彼らの目から見たら「日本人、これおかしいよ」とか、各国の紹介をしてもらう。「夏休みにこの国に行くなら、こういういいところがあるよ」、「安くていいところはここだよ」など、ガイドを学生自身がする、あらかじめ募集してその国の学生に来てもらうなど、参加や学生交流も広がると思います。生協食堂の空いている時間帯で企画するなど、いろいろと手もありますね。

大学を風通し良く

毎田 それでは最後に一言ずついただいてよろしいでしょうか?

山極 国立大学と生協は、手を取り合ってやってきた歴史もあるし、時代の変遷とともに関わり方も変わってきました。大学はどうしても、学部、研究科、職員は職員と、組織や職種ごとに分かれてしまう。そういうところすべてにチャンネルを持っている生協という存在は、これから非常に重要になってきます。生協にはそういうチャンネルを十二分に活用して、学内の構成員との相互のコミュニケーションを図っていただきたい。我々大学の執行部も生協と手を組みながら、大学をもっと風通しの良い組織にしていくことが求められていると思います。

古田 ありがとうございます。私どもも元気のいい学生が結集していますし、学生だけの組織ではなく、先生や職員の方、留学生も含めた構成の広がりを持った大学の中に存在している組織ですので、協同組合らしさを生かして、より大学と密接な協力関係を構築できればと思います。

本日は先生のお話から、大学生協としてこんなことができそうだというたくさんの示唆をいただき、ありがとうございました。

(編集部)