岡山大学 槇野 博史 学長

岡山大学

槇野 博史 学長

SDGsの全学的取組で、教育・研究・社会貢献を推進し、
高度実践人の育成で、優れた学生を地域や国際社会に送り出す

最近の大学の状況

田口 日本の大学における全般的な特徴と状況認識をお聞かせください。

槇野 一言で言えば厳しい状況です。少子高齢化、18歳人口の減少を具体的な背景とする2018年問題や、国の施策による運営費交付金の減少で、大学運営、大学経営は難しい状況です。

本学は、文部科学省が設けた国立大学の三つの枠組みのうち、世界に伍して教育・研究を行う第三カテゴリーに入っています。その中で比較・評価されるので、如何に実績をあげていくかが問われます。非常に厳しいというのが率直な感想です。

SDGsと大学改革

田口 厳しい状況下での岡山大学の改革、とりわけSDGsの取組についての特徴などを教えてください。

槇野 私は学長になる時に、「槇野ビジョン」〝しなやかに超えていく、「実りの学都」へ〟を掲げました。一番最初に関連して浮かんだのは、2015年に国連が提唱したSDGs(Sustainable Development Goals)で、これは岡山大学の理念と目的にも合致しています。本学は総合大学として、11学部8研究科、3研究所、附属学校園、病院があり、教育・研究のどれをとってもSDGsのターゲット、課題に関係しています。

また、岡山は、地政学的に恵まれており、江戸時代には、岡山藩主池田光政が閑谷学校で、庶民のための学校を開いています。津山では、江戸時代から蘭学が盛んで、医学部の基となる岡山藩医学館の創設につながっています。倉敷では倉敷紡績社長の大原孫三郎が農学部の基となる大原奨農会農業研究所を設立しています。

そうした歴史的背景もあり、本学はいち早く環境に取り組み、1994年に環境理工学部という、国立大学初の「環境」の名前を冠した学部を設置しました。2005年に岡山市が世界初の七つの「ESD(:Education for Sustainable Development)に関する地域の拠点(RCE: Regional Centres of Expertise on Education for Sustainable Development)」の一つに認定されます。本学も参加した岡山ESD推進協議会が組織され、活動を開始します。こうした経緯から、2007年、本学にアジア初のユネスコチェアの設置が認可されました。岡山ESD推進協議会は、2014年に岡山でESDに関するユネスコ世界会議を開催し、2016年にユネスコ賞を受賞。岡山市は17年にユネスコ学習都市賞を受賞しています。これらを通して、大学に教育と環境という大きな基礎を築くことができました。

2017年、私が学長になり全学を挙げてSDGsに貢献するという道筋を設定しました。SDGsに関する岡山大学の行動指針を作成し、取組事例集をまとめました。国連の諸機関にも働き掛けて、2017年12月「SDGsの達成に向けたRCE第1回世界会議」を岡山で開催しました。これらの取組が評価されて、2017年12月に第1回「ジャパンSDGsアワード」特別賞を受賞しています。これは今でも、国公立大学では唯一の受賞です。

地域の地方自治体とのSDGsの取組も進めています。岡山市にとどまらず、倉敷市で「みずしま滞在型環境学習コンソーシアム」、美作国との包括協定によるSDGsの活動が既に始まっています。岡山市と真庭市が日本のSDGs未来都市に選定されて、岡山全体で今SDGs推進の機運が盛り上がっています。

SDGsと人材育成

大学の使命として人材育成が重要になります。SDGsに取り組む若手人材育成の国際拠点形成を今年の一番の目標としました。

昨年12月には米国務省の「クリティカル・ランゲージ・スカラシップ(CLS)プログラム」の派遣先に国立大学として初めて本学が採択されました。これは国家安全保障や経済発展の観点から重要な役割を果たす世界15言語の人材養成が狙いで、全米からサマープログラムとして8週間、フルスカラシップで選りすぐりの学生が、日本語と日本文化を学びに本学に来ます。彼らに岡山大学の学生がパートナーとして寄り添ってお世話をすることで、交流が生まれることを期待しています。これは、この6月から始まります。

昨年からは、ヨーロッパで最も古いオランダのライデン大学の学生が約20名、「日本語日本文化研修プログラム」を受講し、3カ月間、日本語とともに日本の文化・歴史を学んでいます。その経験も生かして、若手人材育成の国際拠点形成を目指していきたいと考えています。

大学の方向性とSDGs

田口 SDGsと大学の教育、研究の方向性について、お話しください。

槇野 世界ユースサミット「One Young World」に岡山大学は過去4年間日本代表を派遣しています。2018年はオランダのハーグで開催されました。タイトルが『SDGs』であり、本学の学生は刺激を受けて帰ってきました。

また、SDGs、ESD活動の発展型として、国際機関と協働しながら、教師教育の国際拠点になろうとしています。また、大学のSDGsで大事なことは、Science, Technology and Innovation = 我々のシーズを社会のニーズとつなげて研究の社会実践を推進することです。例えば、現在の大変な気候変動のメカニズムを解明する研究や、津波の被災地に塩害に強いオオムギを植えて、育てた麦でビールを作っています。また、テレビでも放映されましたが、エチオピアの麦が育たない原因が、化学肥料で土地が酸性になりすぎたことをつきとめて、酸性に強い麦を植えて収穫するという研究を行っています。情報セキュリティに強い研究を行っている工学部、ナノカーボン材料の優れた技術、医療でも社会に貢献しています。

我々の技術で世界を救っていくことがSTI for SDGsにつながっていきます。

本学の優れた技術や研究を社会と結び付けること、そして、学生がそれらを学んでいくことが、とても大事なのです。

実践人の育成

槇野 また、本学では、SDGsの取組を教育の場にも浸透させるため、地域社会と連携した滞在体験型学習を行っています。例えば、水島コンビナート地区で地域開発や公害、環境保全活動、漁業体験から海を学ぶ学習、空き家対策からまちづくりを学ぶ学習、社会福祉協議会や病院と連携して地域の医療や介護の現場に関わる学習を行っています。さまざまな社会連携実践型授業に参加することで、地域の課題・問題を地域の人と一緒に解決する、その課程で実践力を身に付ける。そのような実践型社会連携授業を行っています。本学では、これらを含めた実践型教育科目を、平成29 年度で延べ111科目開講し、1852人が履修しています。

また、スーパーグローバル大学に認定されている本学では、世界で活躍する「高度実践人」の育成を進めています。世界で活躍できる人材には、基礎力が必要です。教養力・語学力・専門力の三つの基幹力を強める教育を重視しています。更に海外への留学や海外留学生と接することなどの経験を積ませることで実践人として育成しています。本学では教養力・語学力・専門力の三つの基幹力と異分野・異世界・異文化の三つの側面から、「高度実践人」を認定し、育成しています。

学生の生活と支援について

田口 本学の学生支援について、お話しください。

槇野 一年を通じて自然の環境に恵まれてキャンパスも広く、部活が非常に充実しています。自前の野球場、サッカー場もあり、ラグビーもテニスもでき、キャンパス内に馬場もある、非常に恵まれた環境です。都会では自前のグラウンド・施設はなかなかないですが、その点でも非常に課外活動が充実しています。漕艇部も良い成績を上げ、女子アイスホッケーも全国大会で準優勝しました。学生総合支援センターの体制を整備し、各部活の活動を支えています。

最近は学生のメンタルヘルスが非常に問題になっています。私は保健管理センター長の経験もありますが、特に健康相談、メンタルヘルスはこちらの津島キャンパスでも、鹿田キャンパスでもきちんと対応しています。

ハラスメント対策、キャリア支援、学生相談室、障がい学生支援、最近増えている留学生へのメンタルヘルスも含めた窓口も整備して、学生が楽しくキャンパスライフを送れるように、体制を整えています。

本学独自の学生への経済支援もあります。本学独自の寄付制度である「学都基金」を基に、学生を対象とした奨学金制度を設置しています。Alumniアラムナイ(全学同窓会)にも博士課程の学生を支援する奨学金制度を設置していただいています。

田口 経済的に結構厳しい学生さんもおられますね。

槇野 成績が優秀でも生活が厳しい学生に、経済的支援をしています。

生協への期待と感謝

田口 生協についてお話しください。

槇野 朝食を低額で、野菜もたっぷり学生さんに提供していただいて感謝しております。非常に良い取組ですね。私も医者ですが、夜更かしして朝食を食べない、朝飯を抜くことは、健康上もよくありません。

実際に学生さんが朝食を食べる日は増えていますか?

阿部(生協専務理事) はい、300円で野菜をしっかり食べる方式にして、朝食を食べる学生さんが増えたので、大変嬉しく思っています。

槇野 しっかり勉強して、健康に過ごしてもらうには、朝御飯をしっかり食べることです。学生に野菜をしっかり食べろと言っても、「いや、先生、野菜高いんですよ」、どうしてもお腹が膨れるものでないと後回しになる。そういう面で有り難いですよね。

また、岡山大学も国際化が進んで、インドネシアやイスラム圏からも来られている。そういった方へ生協はハラルメニューで食事を提供していただいています。

もう一つ忘れてならないのは、生協もSDGsを推進されていて、我々は第1回でしたが、日本生協連さんが第2回の賞をお取りになった。おめでとうございます。同じコンセプトで進んでいるので、非常にいい関係で有り難く、いつも感謝しています。引き続きよろしくお願いいたします。

阿部 岡大生協としても2019年度は具体的な行動計画を進めていきます。学生が集う生協は、是非、学生と一緒にこの取組を進めていきたいですし、生協の事業でも、例えば、ブックストアでSDGsに関する書籍フェアを実施するなど、多くの学生に高い意識をもってもらいたいし、生涯学習の点からも大事なテーマになりうるのではと考えています。

槇野 大学でのSDGsは学生を巻き込んでこそなので、そういった機会に学生に意識付けするのも大事です。

SDGs自体が、日本固有の考え方です。物を大切にという、リサイクルもそうですよね。昔から食べ残したらもったいないと言ったり、余っても次の日に使うなど、いろいろ後で処理して使います。海の資源も山のものも採り尽くさない、小さい魚は逃がしてやる、そういうサステナビリティはある意味、日本人が昔から自然と共生してきたやり方です。私は趣味で写真を撮っていますが、蝶や鳥などだんだん数が減っていると感じます。それはやはり気候変動や温暖化、自然環境の破壊ということもあるので、是非、SDGsを推進していきたいと思っています。

人材育成が一番の持続性につながりますので、学生さんを育てることを一緒にやらせていただければ有り難いですね。

田口 本日はありがとうございました。

(編集部)


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田口先生、槇野学長、阿部専務理事