学長・総長インタビュー

沖縄大学

盛口 満 学長

自由で主体的な学びと目標を持った学びへの誘導
両面の実現で、沖縄とともに生きる学生を送り出す

日本の大学の状況認識

伊藤 日本の大学についての全般的な状況認識を伺えますか。

盛口 一つは、少子化の進行に反して、90年代後半の規制緩和により大学が増加する中で、私学の生き残りが大変だと言われています。

もう一つは、以前の大学はエリート教育として一部の限られた人が行くイメージがありましたが、今はユニバーサル化でみんなが行くところに変わりつつあります。

大学は高等教育機関であるというイメージを教員はまだ持っていますが、入学する学生にはそのイメージはあまりない。明確な自分の意志や目的がなく、大学の授業の仕組みもあまり知らずに入学する学生と教員との認識のギャップはとても大きい。そのような少子化と学生の状況の変化は、他県より進学率が低い沖縄にある本学でも変わらないと思います。

学びの改革

伊藤 この中で沖縄大学はどのような改革をしてきたのでしょうか。

盛口 「大学の学びとは何だろう」という議論をし続けてきました。

大学は自由に学びをデザインできる、専門知識や実業だけでなく一般教養を学んで、社会人になって応用のきく知識を得られる場だ、という大学のイメージは、今の学生の実態と乖離しています。教養よりも早く専門を教えて欲しい、逆に入学してどの授業をとればいいのか分からない、あらかじめ決めて欲しいという声も聞こえます。

大学教育は本来、教養と専門のバランス、学生自身が自由に自分の知を積み上げていくことですが、そうなっていない、そこにいたる前の学生の実態があるので、学生の主体的学びを大事にする反面、ユニバーサル化の中で勉強の習慣がついていない学生をどのように勉強に誘導するか、の二つを両立する課題を、沖縄大学は実現する必要があります。

大学の仕組みも変え始めています。「チャレンジ沖大生」で自主的に新しいことを学内外で学ぶ学生たちを支援する一方で、公務員予備校と提携して学内で講座受講ができるようにしています。

例えば法経学部の学生は社会に出るために身につくものが何かあるだろうとぼんやり目標を持って入ってくるので、分野横断的総合教育の中に三つの専門コースに再編し、また公務員になりたいと漠然と思っている学生には地域の大学として公務員対策講座を充実するなど、学生に対して目に見える目標やルートを設定しています。

人文学部こども文化学科は、こどもに関して広く学べる学科として立ち上げましたが、学生は小学校教員になりたい想いが強いので、教員採用試験対策をしっかりやって、学生の想いを実現させてあげたいし、そうではない学生には、自分の目標軸をきっちりさせるフォローをしています。

地域と共にある教育

盛口 社会に出る前の場としての大学だけでは、学生は実際の社会をイメージしにくいので、できるだけ学生を地域や現場とつなぐ工夫が必要です。本学の理念には「地域共創」があることから、研究だけではない地域との連携や協力を目指す地域共創センターを立ち上げました。教育面では、沖縄地域を研究する学生の自主的学びを支援する地域研究所の琉球弧研究支援や、いろいろな事情で満足に放課後を送れない子ども達を集めて支援する放課後子ども教室などがあります。

福祉文化学科健康スポーツ福祉専攻は、学生が障がいを持つ子どもたちの運動会を開催したり、地域のラジオ体操に関わったり、地域の小学生の自主的な模擬授業イベントを行っています。国際コミュニケーション学科は、年々増える中国人観光客に、中国語ボランティアを行いながら自身の中国語力をアップさせています。福祉文化学科社会福祉コースのゼミは、言語や肢体不自由などの障がいのあるお年寄りに寄り添って、その方の人生の聞き書き集を作りプレゼントして、お年寄りの励みやリハビリにつながる活動をしています。

大学全体の必修プログラムとして行われているのではなく、それぞれの教育場面で模索していて、その中身は結構面白いことがやられていると思っています。

小規模大学の強み

伊藤 教学面での小規模大学としての強みについて教えてください。

盛口 新入生が大学生活に馴染めるよう、大学の授業は何だろうとアドバイスするアドバイザー教員制度を、大学1年時必修の問題発見演習というゼミ形式の授業で、かなり以前から行っており、それが広がり今では4年間ゼミがあって、誰かしら教員のもとで学生指導が確実に行われ、学生の動向を把握しております。

こども文化学科の小学校教員養成課程では、50名の学生自身が一丸となって教員採用試験に向かおうという文化があって、それが現役採用者数増加につながっています。学科ができて12年経ちますが、最初は0で3年目に1人、今は19人にもなりました。

一人一人が頑張ることもありますが、みんなで頑張るという雰囲気があるので、小さい大学でそういう雰囲気がある沖大のこども文化に行きたいという声も聞かれるようになりました。それは小さい大学の利点かなと思っています。

県民との存続の歴史

伊藤 沖縄大学の今とつながる歴史的背景をお話しいただけますか。

盛口 私立大学の沖縄大学の特徴は、歴史にあるのだと思います。

琉球大学しかなかったアメリカ施政下の沖縄では、学力だけでなく、貧困で昼間働かないといけない若者が多く、夜間で学べる私立大学が必要だと、私人の嘉数昇氏が嘉数学園を作り、1958年に本学の前身の沖縄短期大学が開学しました。

1972年本土復帰時に、沖縄大学は当時の文部省の設置基準に適合していないとの理由で存続の危機にありましたが、当時の教職員や学生が、沖縄大学の意義や存続への決意を表明して、県民の署名運動や総決起大会、デモ行進につながって、県知事も政府に要請して、文部省にも存続を認められました。

そうした歴史を折に触れて学生に伝えたいと思います。創立者のご子息が後援会長として今も強力にバックアップしてくださるのは、その歴史とも無縁ではありません。

沖大の学生支援

伊藤 沖大の学生支援について教えてください。

盛口 精神的にしんどい学生、コミュニケーション障がいや発達障がいの学生も少なくなく、福祉文化学科の専任教員がアドバイスをしています。スクールカウンセラーに相談に来る学生は改善していますが、来られない学生もいる。また学生本人の精神的な悩みだけでなく、家庭環境に問題がある場合には、常駐するキャンパスソーシャルワーカーとも連携して支援しています。

また入学後1年以内に退学する学生も少なからずいます。教員職員それぞれ別々ではなく、職員は本学出身者も多く、学生にも懇切に指導してくれていますので、教職合同で対応していきます。

他にない本学の奨学金

伊藤 本学の奨学金はどのくらいの学生が受給していますか?

盛口 400人の学生が奨学金を受給しています。1人72万円から5万円までで、本学の年間財政20億円のうち1億3千万円を返還不要の給付型奨学金として学生に還元しています。これは割合として九州の大学の平均をはるかに上回ります。

学業奨学金やスポーツ奨学金以外に、地域企業にもご協力いただいて、その企業名を頭に載せた冠奨学金を約30名に給付しています。

本学の元教職員の方が個人で、また現役の教職員がボーナス時にできる範囲でお金を出し合い奨学金を捻出しています。毎年教職員がボーナス時に奨学金に寄付する大学はそうそうないのでは? と思います。

夏100万円冬100万円年間200万円集まって、「沖縄大学教職員有志」の冠をつけて学生に給付しています。学生中心である本学の自慢でもあります。

沖縄大学生協への期待

伊藤 本学生協への要望や期待を教えてください。

盛口 学生の健康を考えた食を提供する学食が、生協の運営になって良かったと思っています。本学の後援会も1食100円の支援をしてくれています。

生協の売店で働く女性パート職員の方が、学生や教職員に気軽に声をかけて顔見知りになる。コミュニケーションが難しい学生もいる中で、教員でも職員でもなく日常的に気軽に声をかけてくれる人の存在は、多様なコミュニケーションとしてセーフティネットになる点でも非常に大きいことです。

1冊も本がない家庭で育った学生には、お菓子やお弁当を買いに生協に行った時に、売り場に本が並んで目にすることも、数値には表れないけれど、学生に影響を与えるのではないか、と思います。

伊藤 前学長の仲地先生から生協食堂について一言お願いします。

仲地 大学60周年記念事業では、理事長が学生の学習環境と福利厚生施設の改善というコンセプトを明確にして、学生の要望に基づいて、理事長・常務理事のリーダーシップの下、学食整備が明確な課題となりました。

大学の学食の経営は、夏休み、春休みといった長期休暇があり難しいものがあります。沖縄大学の60年の歴史の中でも何度か学食経営を試みましたが根付かなかった。今回は、生協の強みである横の繋がりがいかんなく発揮され、琉大生協や九州事業連合が非常に協力してくださった。培われたノウハウを活かして、運営の難しい本学の学食もうまく運営してくださっている。

例えば「毎週、週の途中でメニューを変えます」という提案には本当にびっくりしました。飽きさせない工夫がよくできている。夏休み・春休みの対応も全国の大学生協で蓄積されたノウハウで乗り越えてくれるでしょう。

経営をどこに委嘱するかが問題でしたが、なにより生協が運営してこそ組合員である学生・教職員にとって利益があるということですんなりと生協に決まりました。

生協の学食で私が感動したのは、厨房のお姉さんたちのベレー帽やユニフォームです。あれを見たときに今時の大学らしいなと思いました。今の学生は、スーパーやホテル、コンビニ、公的施設などどこに行っても、大変きれいな施設で日常を過ごしているので、我々の時代とは違う現代の水準の学食ができたんだという想いがしました。街のイタリアンレストランと変わらない居心地のいい雰囲気を生協が作ったなあと思っています。

伊藤 ありがとうございます。

(編集部)


創立30周年記念事業の一環、
学生食堂「TERRACE 555」


コンセプトは
「母親目線でおいしい食事の提供」


左から仲地博前学長、
盛口満学長、伊藤丈志先生