2013年4月のコラム
生命燃え立つ春に

北海道大学名誉教授
(前北海道大学保健センター長)
 武藏 学

 春は新入生を迎えて教員も心機一転の時期ですが、懸念されるのは飲酒事故です。4月から5月にかけて新入生歓迎コンパが開催されます。昨2012年度は全国で6名の学生が飲酒事故で尊い生命を失いました(イッキ飲み防止連絡協議会による)。本人とご家族の無念さはいかばかりかと声を失います。なぜ、悲劇は繰り返されるのでしょう?かつて、北大でも多くの学生が飲酒事故で若い生命を終えました。なんとかしなければという思いが飲酒事故防止講習を課外活動団体公認の必修とし、大学祭を飲酒抜きとし、大学病院へ救急搬送された学生の情報を病院から学生支援課へ連絡してもらう等々の対策となり、平成9年以降死亡事故は起こっていません。しかし、生命の危険のある泥酔者の病院搬送が後を絶ちません。

 お酒にはいろいろありますが、アルコール20グラムを1単位としています。ビール中瓶1本、日本酒1合、ウイスキーダブル1杯、サワー(7%)1缶が1単位です。体重50kgの人が1単位を飲むと、分解完了までに約4時間かかります。飲み続けると血液中のアルコール濃度やアセトアルデヒド濃度が増加し、酩酊、泥酔、昏睡へと進み、死を結果します。一気飲みの危険は理解頂けるでしょう。また、背の高い人も低い人もいるように、お酒を飲める人、弱い人、まったく飲めない人がいます。これはアルコールを分解して最終的には水と炭酸ガスにするアルコール脱水素酵素やアセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH)の働きに規定された体質的なもので、ALDH活性が極めて低く飲めない人は、いくら訓練しても飲めるようにはなりません。自分がどのタイプなのかはTAST(東大式スクリーニングテスト)やアルコールパッチテストで知ることができます。飲む前に自分のタイプを知っておきましょう。

 大切なことは、飲めない人、飲みたくない人にはお酒を強要しないことです。飲める人でも抗生物質等の薬剤を服用している時は原則的に禁酒です。思わぬ副作用を生じます。特に、コンパ等を主催する人にお願いするのは、飲まないでコンパ等を安全に管理する人をできれば2名置くことです。覚醒していて、全体を制御する責任者の存在が必須です。また、酔いつぶれた人を放置しない、回復体位をとらせ、保温を保ち、痛みに反応しない(昏睡)、呼吸が速いか異常に遅い(呼吸中枢の麻痺)、口から泡を吹く(気道に水分の存在)、吐血などが見られたら、一刻も早く救急車を依頼して下さい。安全でスマートな飲酒文化が全国の大学に根付くことを強く願っています。

略歴

1975年 4月
北海道大学医学部第三内科で研究
1975年 7月
北海道大学医学部附属病院第三内科 医員
1976年 4月
函館中央病院内科勤務
1977年 5月
東京女子医科大学血液内科 助手
1980年 7月
北海道大学医学部附属病院第三内科 医員
1981年 10月
北海道大学医学部附属病院第三内科 助手
1989年 4月
文部省在外研究員(米国サウスカロライナ医科大学)
1991年 4月
北海道大学医学部附属病院第三内科 助手
1993年 4月
北海道大学医学部第三内科 助手
1995年 7月
北海道大学医学部附属病院第三内科 講師
1999年 5月
北海道大学医学部第三内科 助教授
2000年 4月
北海道大学医学部診療所 教授 
北海道大学保健管理センター所長(併任)
2010年 4月
北海道大学保健センター長、教授
2013年 4月
天使大学看護栄養学部栄養学科 教授 
北海道大学名誉教授

資格

1975年 6月
医師免許証取得(第225429号)
1989年 6月
医学博士(北海道大学)第3583号
2004年 1月
日本医師会認定産業医

受賞

1975年
第7回癌集学的治療財団助成 
「Interferon-αとポリアミン合成酵素阻害剤 α-Difluoromethylornithineの併用による抗腫瘍効果」
1989年
第13回寿原記念財団助成 「造血幹細胞の増殖と細胞死における蛋白質リン酸化酵素の役割」

所属学会

日本内科学会1、2、日本血液学会1、2、3、日本癌学会、日本臨床腫瘍学会1、死の臨床研究会北海道地方部会常任世話人、全国大学保健管理協会4(1:認定医、2:指導医、3:評議員、4:理事)

こころとからだを支える健やかな学生生活