北海道大学名誉教授
(前北海道大学保健センター長)
武藏 学
古い話ですが、アメリカ留学中に車を運転していて戸惑ったことが信号の無い交差点の渡り方でした。STOP標識の下に"4 way"と書かれたものは"4 way stop"と呼ばれ、4方向どの方向からの車も一時停止し、交差点の停止線に着いた順番に通過するものです。順番が問題で右折・左折も問題ありません。滞在していた町が大きなハリケーンに襲われて2週間に渡って信号がダウンしていた時にもこのルールが極めて有効に機能し、車が整然と交差点を渡る様子に感心したものです。もうひとつ分からなかったのが"Yield"という標識でした。標識は大きな道路に合流する地点に立っていましたが、このyieldの意味は「産する」ではなく「譲れ」です。つまり「先方に優先権があるので、邪魔にならないように入りなさい」という意味で、通過する車がいないことを確認して進入することになります。まだ自動車が少なくて信号が無かった頃からアメリカ人が身に着けてきた習慣なのでしょう。
一方、私たちの国では戦後、一気に自動車社会に突入して信号や細かい交通規則が導入されましたが、自動車先進国アメリカにあったこの習慣は導入されませんでした。「早く行きたい」という思いは誰もが持ちますが、皆がその欲望に従えば信号の無いところでは事故必発です。今の日本に「譲れ」という標識を置いたらうまく機能するでしょうか?
さて、この10年間で交通事故に占める自転車事故の割合は増加し、大学内外での自転車事故も目立ちます。安全のためには車道左端走行、並走しない、夜間は点燈、走行中は携帯電話を使用しない、などの自転車運転のルールを守ることが大切です。さらに自動車と違って自転車は歩行者との距離が短いため、接近時にはスピードを落として歩行者を優先させなければなりません。一度事故が起きると、事故にあった人はもちろん、あわせた人も辛い思いを味わいます。"Yield"(譲る)の気持ちを持って、安全な自転車運転に努めましょう。
日本内科学会1、2、日本血液学会1、2、3、日本癌学会、日本臨床腫瘍学会1、死の臨床研究会北海道地方部会常任世話人、全国大学保健管理協会4(1:認定医、2:指導医、3:評議員、4:理事)