北海道大学名誉教授
(前北海道大学保健センター長)
武藏 学
メンタルヘルス不全の最悪の結果は自殺です。私たちの国では1998年から年間自殺者数が3万人を超える事態が持続し、昨2012年は3万人を切ったものの依然27,858人の多くの方が自ら命を断っています。増加は主として男性によるもので、不景気などの社会・経済的背景が推測されます。同年代に比べると大学生の自殺は少く、自殺する学生が多いのは大規模大学と言われています。
北海道大学では全学的な自殺対策プロジェクトを立ち上げ、精神科医と常勤の臨床心理士を増員して対策に当たりました。マンパワーが得られたことで、自死学生さんの周囲で大きな衝撃を受けている人(最低6人と言われます)への迅速な対応が可能となりました。また、窓口業務につく職員や教員を対象にゲートキーパー研修も行っていますが、ここでは多くの大学で行っている心理テストに焦点を当てます。 北大では新入生を対象にUPI(University Personality Inventory)とTCI(Temperament and Character Inventory)という心理テストを行い、問題のありそうな学生さんには保健センターから連絡して面談を行ってきました。その評価のため、心理テストの結果をグループ化して自死学生さんがどこに属すかを検討した結果、「能動性が少なく、対人不安が強い群」が自殺者を多く含み、この群への対応が予防に重要で、積極的なアプローチを要することが分かりました。
ご存知のように自殺者の約8割はうつ病と診断されます。そこで医学研究科と保健センターが共同で、うつ病と診断されて自殺した学生さんと、自殺しなかった年齢・性別・学部・学年が同じ学生さんのTCIを比較検討しました。その結果で違いがあったのは自己肯定感の有無でした。自己肯定感には、他者との比較によるものと(俺はあいつよりも優れている)、そうでないものがあります。差があったのは後者、比較によらない自己肯定感で、うつ病と診断され自殺をしなかった学生にはこれを持つ学生が多いという結果でした。次号で、比較によらない自己肯定感について述べます。
日本内科学会1、2、日本血液学会1、2、3、日本癌学会、日本臨床腫瘍学会1、死の臨床研究会北海道地方部会常任世話人、全国大学保健管理協会4(1:認定医、2:指導医、3:評議員、4:理事)