北海道大学名誉教授
(前北海道大学保健センター長)
武藏 学
メタボリック・シンドローム(メタボ)は中年以上の大人にとって、とても気になる言葉です。親譲りの体質(太りやすい)と不適切な生活習慣(晩ご飯をたらふく食べてすぐに眠る、運動しない等)がメタボリック・シンドロームの原因と考えられてきました。しかし、この2つだけでは説明しきれなくて注目されているのがDOHaD (Developmental Origins of Health and Disease)という概念で、胎児期から乳幼児期(2歳まで)の栄養環境が、成人してからの生活習慣病発生リスクになるという考え方です。英国のBarker医師が1980年代に出生体重が軽いと心筋梗塞による死亡率が高くなることを報告したのに始まり、高血圧、糖尿病、精神障害などとの関連も報告されています。特に注目されたのは第二次世界大戦末期のドイツ占領下のオランダで、約半年にわたって飢餓に苦しんだ女性から生まれた子供たちが、成人後に高血圧、糖尿病、虚血性心疾患、精神病などを高率に発症したとの報告です。
さて、私が心配しているのは1980年代から続く新生児の体重低下で、わが国の体重2500g以下の低出生体重児割合は10%に達しようとしています。原因として多胎児出産や早産よりは、母親の栄養不良や胎盤機能不全などが考えられています。平成23年の20代、30代女性の喫煙率は、女性の平均9.7%よりも高くて各々12.8%、16.6%。妊婦の喫煙率は5%、その夫は45%ですが、胎盤機能を悪化させ、胎児を低酸素状態とする喫煙は避けなければなりません。また、妊娠すると悪阻(つわり)のために食べられなくなります。そこで妊娠可能な女性、少なくとも結婚した女性はやせていないことが大切です。しかし、平成22年のやせ(BMI<18.5)の割合は20代の女性で29.0%、30代で14.4%と、他の世代に比較して高いのです。「小さく生んで大きく育てよう」という作戦は行き過ぎの感があり、見直しが必要と思われます。私は結婚して5キロ肥りましたが、結婚後は男性だけでなく女性の適度な体重増加が元気な子供、未来の健康な大人を育てるのに必要だと考えます。
日本内科学会1、2、日本血液学会1、2、3、日本癌学会、日本臨床腫瘍学会1、死の臨床研究会北海道地方部会常任世話人、全国大学保健管理協会4(1:認定医、2:指導医、3:評議員、4:理事)