2013年11月のコラム
アレルギー ―誤った防衛―

北海道大学名誉教授
(前北海道大学保健センター長)
 武藏 学

 飛んでくる敵の大陸間弾道ミサイルを迎撃ミサイルで撃ち落とすところ、誤って原爆を装着したミサイルを当ててしまった!? 私の夢の中の話ですが、こんなことがあったら大変ですね。敵のミサイルから国民を守るべきところを、却って放射性物質を被曝させてしまうのですから。

 アレルギーも同じように、本来は体を守る防御システムである免疫がうまく作動せず、免疫グロブリンG(IgG)でできた抗体で体内へ侵入する異物(アレルゲン)を迎え撃つべきところを、IgEでできた抗体で迎え撃ってしまうのです。その結果、IgE抗体は体のあちこちにある肥満細胞に結合します(感作状態)。次にアレルゲンが侵入した時には肥満細胞上のIgE抗体を連結して肥満細胞にシグナルを伝え、アレルギー反応の原因となるヒスタミン、ロイコトリエンなどの化学伝達物質を放出させます。その結果、鼻水・眼のかゆみ・蕁麻疹・喘息などのアレルギー症状を出現させてしまうことになります。

 学生のアレルギー調査では、半数、多いところでは70-80%もの学生がなんらかのアレルギーを有しています。花粉症を持つ本州からの学生さんは、スギがないので札幌に来て楽になったと喜びますが、2〜3年するとシラカバで感作されて同じ症状が出てきてしまいます。残念ながらアレルギー体質の人は、アレルギーになりやすいのです。

 自然豊かな北大構内ではスズメバチが多くの巣を作っていますので、過去に刺されたことがある人が再度刺されるとアナフィラキシーショックなどの重症アレルギー反応を起こすことが危惧されます。私の在職中にはハチによるアナフィラキシーショック例はありませんでしたが、実験中にマウスに咬まれた研究者がアナフィラキシーショックとなり、危うく命を取り留める事例が学内で発生しています。これを契機にマウス・ラットなどを実験で取り扱う学生・教職員の動物に対するIgE抗体の有無を調べて、対策を講じつつあります。危険を危険と認識することが安全への第1歩だと考えています。

略歴

1975年 4月
北海道大学医学部第三内科で研究
1975年 7月
北海道大学医学部附属病院第三内科 医員
1976年 4月
函館中央病院内科勤務
1977年 5月
東京女子医科大学血液内科 助手
1980年 7月
北海道大学医学部附属病院第三内科 医員
1981年 10月
北海道大学医学部附属病院第三内科 助手
1989年 4月
文部省在外研究員(米国サウスカロライナ医科大学)
1991年 4月
北海道大学医学部附属病院第三内科 助手
1993年 4月
北海道大学医学部第三内科 助手
1995年 7月
北海道大学医学部附属病院第三内科 講師
1999年 5月
北海道大学医学部第三内科 助教授
2000年 4月
北海道大学医学部診療所 教授 
北海道大学保健管理センター所長(併任)
2010年 4月
北海道大学保健センター長、教授
2013年 4月
天使大学看護栄養学部栄養学科 教授 
北海道大学名誉教授

資格

1975年 6月
医師免許証取得(第225429号)
1989年 6月
医学博士(北海道大学)第3583号
2004年 1月
日本医師会認定産業医

受賞

1975年
第7回癌集学的治療財団助成 
「Interferon-αとポリアミン合成酵素阻害剤 α-Difluoromethylornithineの併用による抗腫瘍効果」
1989年
第13回寿原記念財団助成 「造血幹細胞の増殖と細胞死における蛋白質リン酸化酵素の役割」

所属学会

日本内科学会1、2、日本血液学会1、2、3、日本癌学会、日本臨床腫瘍学会1、死の臨床研究会北海道地方部会常任世話人、全国大学保健管理協会4(1:認定医、2:指導医、3:評議員、4:理事)

こころとからだを支える健やかな学生生活