北海道大学名誉教授
(前北海道大学保健センター長)
武藏 学
秋の夜明け前の道を歩いています。道は下って行き、ずーっと向こうに上り坂となっているのが遥かに確認できます。痛む足を引きずりながらあそこまで歩くのかと思うと、気持ちがくじけそうになります----。
行事中の交通事故により距離が短縮されていた母校・甲府第一高校の強行遠足が従来の105キロに戻ったことを首都圏のNHKテレビが放映し、友人がDVDを送ってくれました。これを観ながら思い出したのが上記の私の強行遠足の1シーンです。八ヶ岳山麓から佐久盆地へ降りていくところですが、山麓で夜中に見た星の多さ、美しさにも圧倒されました。私が在校中は10月中旬の夕刻に高校を出発し、20時間で小諸までの105キロを歩きました。1、2年生の時は制限時間ぎりぎりの小諸着でしたが、3年次には85キロの中込で時間切れとなり悔しい思いをしました。その後、有志が還暦記念強行遠足を計画してくれ、私も参加して残された15キロを43年振りに歩き切りました。
「受験校でしたので大学受験を考えれば、強行遠足なんてばかな話です。適当に切り上げるのが「正解」でしょう。しかし、その時には無駄な時間や労力と思えても、還暦を過ぎてみれば強行遠足の経験は私にとって大きな自信、宝となっています。徳川家康の人生訓にある「人の一生は重荷を負うて遠き道を行くが如し」の「遠き」を実感したのは強行遠足でしたし、人生とはこういうものかと覚悟したのも強行遠足だったように思います。
強行遠足は私の心と筋肉を鍛えてくれましたが、加齢と共に筋肉は衰えます。
近年、運動により筋肉から種々のサイトカインが分泌されることが分かり、マイオカインと呼ばれています。代表格のIL-6は炎症を起こすサイトカインとして知られていますが、筋肉由来のIL-6は、肥大した脂肪細胞から分泌されて動脈硬化を生じるアデイポサイトカインに拮抗するサイトカインとして作用し、メタボ・動脈硬化・生活習慣病を予防してくれるようです。私は新年の目標の一つに運動を挙げましたが、三日坊主に終わらないように強行遠足を思い起してトライするつもりです。
日本内科学会1、2、日本血液学会1、2、3、日本癌学会、日本臨床腫瘍学会1、死の臨床研究会北海道地方部会常任世話人、全国大学保健管理協会4(1:認定医、2:指導医、3:評議員、4:理事)