2014年3月のコラム
生活習慣の乱れと健康傷害リスクの上昇

北海道大学名誉教授
(前北海道大学保健センター長)
 武藏 学

 山中教授のiPS細胞や小保方さんのSTAP細胞等で国際的に高い評価を受けている日本の医学・科学界に対する信用を失墜させかねない事件が起きました。ある血圧降下薬の優れた効果を複数の大学の医学者が世界一流の医学誌に発表して注目を浴びたのですが、実はデータが都合良く改ざんされていたことが発覚して論文は取り下げられました。その間、製薬メーカーはこの論文を宣伝に使って莫大な利益を得、関係した医学者は名声と製薬メーカーからの多額の研究費を得た一方で、患者さんはありもしない効果のために他の血圧降下薬よりも高い医療費を支払うはめになったと報道されています。製薬メーカーと研究者が患者さんを食い物にして利益を得たことになります。

 欧米で広く読まれている絵本『ビロードうさぎ』には派手なゼンマイ仕掛けのおもちゃとぬいぐるみのおもちゃが登場します。ゼンマイ仕掛けのおもちゃは目立つけれどすぐに壊れてしまうので「本当のもの」にはなれませんが、ぬいぐるみは長い間子どもに仕えてボロボロになりながらも「本当のもの」になっていきます。上記の医学者は患者さんを第一とする「本当のもの」ではありません。一方、イソップ物語の「狐と鶴」を題材にしたと思われるこんな話を聞いたことがあります。ある日、神様が狐と鶴を夕食に招待した。狐には細くて深い壷に入れられたスープ、鶴には浅い皿に盛られたスープが供された。どちらも美味しそうな香のスープを味わえない。賢い狐は壷に入った自分のスープを鶴に差し出した。すると鶴も皿に入った自分のスープを狐に差出し、どちらも美味しいスープを堪能できた。

 美しい話ですが、実行は容易ではありません。なぜなら、人にとっては自分が何より大切だからです。狐はスープをこぼしながらも壷を持ち上げて飲もうとするでしょう。その欲望をこらえて他者に提供するためには、冷静に自己を吟味し、己の欲望に打ち克つ勁さ、他者のうめきを敏感に捉える鋭い感性・洞察力が必要です。私たちの生きる世界も、この話のような世界です。まず他者のためにと行動する時、自分も自分らしく充実して生きられるのではないでしょうか。

 1年間でしたが、私のコラムをお読み頂きありがとうございました。学生さんには人生の目的を考えながら学んで欲しいと思います。また、保護者と大学関係者の方には、学生さんの自律のために理由を明示して注意・忠告して、善き市民となるためのサポートをして頂きたいと願っています。

略歴

1975年 4月
北海道大学医学部第三内科で研究
1975年 7月
北海道大学医学部附属病院第三内科 医員
1976年 4月
函館中央病院内科勤務
1977年 5月
東京女子医科大学血液内科 助手
1980年 7月
北海道大学医学部附属病院第三内科 医員
1981年 10月
北海道大学医学部附属病院第三内科 助手
1989年 4月
文部省在外研究員(米国サウスカロライナ医科大学)
1991年 4月
北海道大学医学部附属病院第三内科 助手
1993年 4月
北海道大学医学部第三内科 助手
1995年 7月
北海道大学医学部附属病院第三内科 講師
1999年 5月
北海道大学医学部第三内科 助教授
2000年 4月
北海道大学医学部診療所 教授 
北海道大学保健管理センター所長(併任)
2010年 4月
北海道大学保健センター長、教授
2013年 4月
天使大学看護栄養学部栄養学科 教授 
北海道大学名誉教授

資格

1975年 6月
医師免許証取得(第225429号)
1989年 6月
医学博士(北海道大学)第3583号
2004年 1月
日本医師会認定産業医

受賞

1975年
第7回癌集学的治療財団助成 
「Interferon-αとポリアミン合成酵素阻害剤 α-Difluoromethylornithineの併用による抗腫瘍効果」
1989年
第13回寿原記念財団助成 「造血幹細胞の増殖と細胞死における蛋白質リン酸化酵素の役割」

所属学会

日本内科学会1、2、日本血液学会1、2、3、日本癌学会、日本臨床腫瘍学会1、死の臨床研究会北海道地方部会常任世話人、全国大学保健管理協会4(1:認定医、2:指導医、3:評議員、4:理事)

こころとからだを支える健やかな学生生活