大阪大学名誉教授
(前大阪大学保健センター教授)
杉田 義郎
今から2500年近く前の古代ギリシャで活躍した医師で、「医学の父」と呼ばれるヒポクラテスは、健康に関する含蓄のある様々な格言を残しています。
「人は自然から遠ざかるほど病気に近づく」
「病気は食事療法と運動によって治療できる」
人間は大概の大型動物と比較して、運動能力はパワー・スピードとも劣っていると考えられてきました。しかし、最近の運動生理学的研究から人間は優れた長距離ランナーであること、とりわけ高温条件では断トツであることが分かってきました(体毛がなく、全身に発達した汗腺)。それで「ヒトは走るために生まれてきた」と断言する人もありますが、決して大げさなことではありません。海外ではウルトラマラソン(100kmや24時間走など)が盛んに行われています。ちなみに男子の24時間ロードの世界最高記録は290.221kmです(東京-仙台間の直線距離が約300km)。また、江戸時代にタイムスリップすれば、有名な伊達騒動の際には江戸から仙台まで1日でその知らせが届いたとの記録が残っています。
イリノイ州ネーパーヴィル(シカゴの西)地区の学校で取り入れられた体育の授業プログラムが1万9000人の生徒を米国一健康で賢くしたことを、米国の精神科医で研究者でもあるジョン・J・レイティさんが著書「SPARK」(日本語訳では「脳を鍛えるには運動しかない!」)の中で感動的に紹介しています。地区のある高校2年生のクラスでは過体重の生徒は全米の平均は30%なのに、3%しかいなかったのです。1999年、ネーパーヴィルの学区の生徒が参加した国際数学・理科教育動向調査という国際基準の数学と理科のテストで、数学は世界6位、理科では世界1位の国レベルの結果を出したのです(米国はトップクラスの国とは大きく水をあけられている)。
そのことは全米中で非常に大きな話題となりました。2007年に選出されたフロリダ州知事は、就任後の初仕事として、小学生に少なくとも1日30分の運動を課すという法律を成立させました。同年に就任した米国医師会会長は就任演説で、米国医師会の全会員に、「運動は薬である」と題された小冊子を読んで、すべての患者が運動計画を立てられるように支援してほしい、と強く訴えたとのことです。基本的な生活習慣はそれらがもつ意味をしっかりと理解をことがまず重要です。
次回は、運動になぜ心身の健康度を向上させる力があるのか、明らかにされたメカニズムを覗いてみましょう。
日本睡眠学会、日本スポーツ精神医学会(評議員)、日本時間生物学会、日本臨床神経生理学会、日本精神神経学会、日本脂質栄養学会、全国大学メンタルヘルス学会