大阪大学名誉教授・関西学院 産業医
杉田 義郎
今回の話は、大学に入学して新しい学生生活への期待に胸を膨らませるとともに、思うように学生生活を送れるかと心配や不安もいっぱいな学生諸君に送るだけにとどまらず、在学中の学生諸君にも役に立つ内容になればと思います。
大学入学以降に学生諸君にはさまざまな不安が生じると思います。なかでも、うまくコミュニケーションがとれなくて友達がなかなかできないのではと不安に思っている人は少なくないでしょう。そこで、コミュニケーション入門編としては、2回に分けて、楽しく、無理のないコミュニケーションをとれるようになるコツを解説します。
まず、初対面の人とスムーズなコミュニケーションを取れて、話が弾むということなんてできないと決めつけていませんか。おもしろい話ができるのは特別なセンスがある人だけで、口下手であがり症の僕や私にはそんなセンスはないし「無理!」と思っていませんか。確かにテレビの番組進行役をこなしているお笑い芸人や落語家のように、名人芸のような話術を操るのは無理でしょう。しかし、彼らの芸にも人を引きつける法則やルールがあるのです。その法則やルールを学ぶことによって、われわれもスムーズなコミュニケーションをとることに生かすことができるのです。これらを公式化して、放送作家の石田章洋氏が『初対面でも話がはずむ おもしろい伝え方の公式』(日本能率協会マネジメントセンター,2016年)という本を出されています。その中味を少し紹介しながら解説をしたいと思いますが、勉強熱心なひとは是非一読されたらよいでしょう。
石田氏の本はユーモアのある伝え方を身につけるための本と述べ、ユーモアを「日常会話や雑談で人を笑顔にするもの」と定義しています。そして、「ユーモアはコミュニケーションにおける最強の武器」とし、「『ユーモア』にプロの芸人のようなセンスは不要です。なぜなら、シンプルな公式を理解して、それを応用すれば、誰でも『おもしろい伝え方』はマスターできる」と述べています。これにはまったく同感です。天性のようなものが必要ではなく、公式を学んで、実際に使ってみたら良いのです。
また、石田氏は、「おもしろくない話」をしてしまう人の多くは、タブーを犯していると言います。そのせいで、おもしろくなるはずの話題を台無しにしているというのです。そのタブーを6つ挙げていて、①「ハイ・テンションで自分も周りも疲れてしまう!」、②「ひとつの話がダラダラと長い!」、③「ウケを狙いすぎて外してしまう!」、④「ウケたいがあまりにデリカシーに欠ける」、⑤「『自分をかっこよく見せたい』と考えている」、⑥「『おもしろい話=笑わせること』だと考えている」。これらに気をつけるだけで、少なくともマイナスの状態からスタートすることは避けられると述べています。
それぞれに思い当たるところがあるかもしれませんが、学生諸君でもっとも気をつけたいことというと、⑤の「『自分をかっこよく見せたい』と考えている」でしょう。自分を大きく見せたいという「見栄」「強がり」「傲慢さ」からくる「ちっぽけなプライド」を今すぐに捨てるように、「ちっぽけなプライド」を捨てるだけでコミュニケーションは驚くほど改善しますと石田氏は述べています。なぜかというとそうすれば失敗談や時には自虐ネタを積極的に話すことができるというのです。このような話題は相手の緊張感を非常に緩める作用があります。他人から自分がどう見られているかなどということは貴重なエネルギーを使うテーマではないのです。
コミュニケーションには相手が必ずあります。すべてのコミュニケーションにおいてもっとも大切なことは「自分が相手からどう思われているか?」ではなく、「相手がどう思っているか?」です。したがって、コミュニケーションをとるときに一番注意を向けなければならないのは相手の気持ちです。それを知るためには相手の発言内容以外に、表情やしぐさをよく観察する必要があります。「自分がどう思われているか?」などと余計なことを考えていると、相手を観察する注意集中力が落ちてしまいます。自分に向けていた注意を相手に向けることが肝心です。前に紹介した「ちっぽけなプライド」を捨てるだけでコミュニケーションは驚くほど改善するということは、この点にも深く関係しているといえます。
日本睡眠学会、日本スポーツ精神医学会(評議員)、日本時間生物学会、日本臨床神経生理学会、日本精神神経学会、日本脂質栄養学会、全国大学メンタルヘルス学会