2021年4月のコラム
新型コロナウイルス感染・重症化への最強の防波堤は、感染予防の科学的対策と健全な生活習慣!(下)

大阪大学名誉教授
(前大阪大学保健センター教授)
 杉田 義郎

 前回のコラムに続いて、新型コロナウイルス感染予防に役立つ健全な生活習慣についてお話ししたいと思います。

 そもそも、あらゆる動植物は細菌やウイルスと共に生きているといわれています。つまり、持ちつ持たれつの関係にあります。最近、急速に研究が進んでいる腸内細菌については、広く健康全般に不可欠な役割が分かってきています。今や腸内(もちろん皮膚や口腔内なども)細菌抜きには健康や医療を語れない状況にさえあります。さらに、日常の生活習慣(睡眠、食・栄養、運動、ストレス対処など)を安定させると、腸内細菌の多様性の確保にもつながり、良好な体内環境を維持するのにさらに追い風となります。

 さて、生活習慣(睡眠、食・栄養、運動、ストレス対処など)と新型コロナウイルスへの免疫反応とはどのような関係にあるのでしょうか? 残念ながら多くの研究がまだ進行中であり、現時点では明解な結論を出すには早すぎます。しかし、安全で、私たちが試みても良いと思われることを以下に紹介します。

 第1は睡眠の活用です。経験的には睡眠不足や疲労が蓄積した時に風邪を引きやすいということはよく知られています。風邪を引き起こす代表的なウイルスであるライノウイルスを含んだ液を健常な研究参加者に点鼻して、その後、風邪に罹患したかを調べた研究があります。その結果、点鼻の前の睡眠時間が「7時間未満」だった人は、「8時間以上」だった人よりも、約3倍風邪に罹患しました。また、睡眠効率(ベッドで横になっている時間のうち、実際に眠れている時間の割合)が「92%未満」の睡眠の質が悪い人は、「98%以上」の睡眠の質が良い人よりも、5.5倍風邪に罹患しました。さらに、別の研究で、肝炎ウイルスのワクチンを接種した夜に、しっかりと眠った人と徹夜した人の肝炎ウイルスに対する抗体の量を調べると徹夜した人では抗体がしっかりと眠った人の半分しか生成できなかったと報告されています。これらは「睡眠不足」と「睡眠の質の低下」は免疫力低下に直結することを示しています。

 第2に食・栄養の活用です。新型コロナウイルス感染症リスクや重症度リスクと栄養素(ビタミン・ミネラルなど)欠乏症との関連性について様々な研究が進行中であり、結果が待ち遠しいですね。その中で、ビタミンDは新型コロナウイルス感染症に関連するさまざまなリスク要因に対して影響が認められています。ビタミンD不足は、高齢者、肥満者、男性、高血圧症者、高緯度地域の住民で高頻度に見られますが、同時にこれらは新型コロナウイルス感染症者の予後の悪さと関連しています。ビタミンDは、高齢者の炎症をコントロールしやすくする作用があるので、サイトカインストーム(免疫の暴走)に対して抑制的に働くと考えられます。また、ビタミンCは白血球に非常に高濃度に含まれています。呼吸器感染症の患者は血液中のビタミンC濃度は低下していて、ビタミンCの静脈内投与によって高齢の肺炎患者の重症度と罹病期間が抑制されるとの報告があります。現在、新型コロナウイルス感染リスクの高い人の免疫反応を支えるための選択肢になる可能性があり、現在複数の臨床試験が進行中です。さらに、ビタミンD、ビタミンC、亜鉛を組み合わせて治療する臨床試験も米国で進行中です。いずれにしても、コロナ禍にあっては普段よりもビタミン・ミネラルなどの微量栄養素を多く含む栄養豊かな食事を摂ることを基本にすえるべきでしょう。とくに下宿生活の学生諸君には留意していただきたいし、各大学生協も支援を続けていただきたいと思います。

 第3に運動です。運動サークルやクラブに所属していない学生諸君には、特に意識して屋外で体を心地よく動かす(活動)する時間を日課に組み入れてもらいたいと思います。日本はこれから日照時間が長くなり、紫外線も強くなります。皮膚を露出する面積が増えるので、直射日光を浴びなくとも30分程度屋外で過ごせばビタミンDは皮膚で十分量を生成することができます。少なくとも春から秋まではこの自然環境を利用して免疫力を強化できます。さらに、コロナ禍ではつい気分が滅入ってしまいがちですが、これに対しても「心地よい運動」は経済的で超安全な改善方法です。

 第4にストレス対処です。不安や心配事は探せば無限にあるものです。解決できないことは自分一人で抱え込まないことです。大学内にはさまざまな相談窓口があります。慣れないうちはどこへ相談に行ったらいいか分からないと悩んでしまうことさえあります。知らない土地で道に迷うのは当たり前。そんなときは事務部で学生担当の部署を教えてもらいましょう。そこへ行けば適切な窓口を紹介してもらえます。つまり、大学の中で分からないことがあれば、プロフェッショナルの事務職員に尋ねれば良いのです。新天地の歩き方が分かるまで、プロに頼ってください。焦る必要はありません。今後、親切な仲間や先輩との人間関係が徐々にできてきたら、その人たちからも有用な情報をもらえるようになるでしょう。

略歴

1973年 7月
大阪大学医学部附属病院神経科精神科 医員(研修医)
1976年 7月
大阪大学医学部附属病院神経科精神科 医員
1978年 11月
大阪大学医学部精神医学教室 助手
1996年 11月
大阪大学健康体育部 教授
1997年 9月
大阪大学健康体育部保健センター長(兼任)
2004年 4月
大阪大学保健センター長(併任)
2005年 4月
大阪大学保健センター 教授
2006年 4月
大阪大学医学部附属病院睡眠医療センター 副センター長(兼任)
2013年 4月
大阪大学 名誉教授
2013年 5月
大阪大学学生支援ステーション特任教授(非常勤)
2013年 6月
大阪大学キャンパスライフ支援センター特任教授(非常勤)
2013年 10月
学校法人関西学院保健館 学校医・産業医(嘱託常勤)
2014年 4月
大阪大学キャンパスライフ支援センター招聘教授(非常勤)
2017年 4月
学校法人関西学院保健館 学校医・産業医(非常勤)

資格

1973年 6月
医師免許証取得(第219558号)
1988年 4月
精神保健指定医(第7831号)
1955年 5月
医学博士(大阪大学)
2004年 1月
日本医師会認定産業医

所属学会

日本睡眠学会、日本スポーツ精神医学会(評議員)、日本時間生物学会、日本臨床神経生理学会、日本精神神経学会、日本脂質栄養学会、全国大学メンタルヘルス学会

こころとからだを支える健やかな学生生活