「原発事故除染土は利用?処理?」

全国大学生協連院生委員会  2019.11.13 Vol. 26

土も限りある資源。「有効利用」とは?

北海道大学大学院農学院M1のたくちゃんです。専門は土壌学、窒素やリンなど土壌中の栄養素の移動について河川環境と持続可能な農業を視点に研究をしています。私たちの生活はさまざまな資源を活用することで成り立っていますが、何気なく歩いたり、花が咲いているなと思ったりしている土も限りある資源のひとつです。農業だけでなく、道路をつくったり景観を整えたりするためにも土壌環境は大切です。

さて、福島第一原子力発電所事故の廃炉作業と復興が進められる中、2018年6月に政府は「除染土の安全な利用」として「園芸作物への利用」を“基本的な考え方”に加えました。事故による放射能汚染を除去し、福島を再び生活できる場にするために発生する除染土は2,200万m³(東京ドーム(約124万m³)約17個分)とされ、福島県内の中間貯蔵施設に現在は保管されていますが、30年後には福島県外で処分することとなっています。一方、全量をごみとして処理することが用地確保の観点から難しい可能性があることから、除染後8,000Bq/kg以下を基準として、全国の公共事業に利用し、発生除染土のおよそ半分を資源として利用する方向性で2016年以降進めていましたが、昨年6月の決定は公共事業に加え緑地整備などの園芸作物への利用を追加したものです。食用作物の農地についてはまだ追加されていません。

「捨てればごみ、使えば資源」とは言いますが、除染土利用をめぐっては今回の追加決定前から安全・安心の観点で反対の声が少なくありません。しかしながら、資源の有効利用、原発事故からの再興を支えるために全国各地が負担すべき、という見方もあります。環境省は基準の8,000Bqについて、事故直後から「処分できる基準」としており、「再利用できる基準」は100Bq以下としています。私たちが日々生活する場所へ用いることを「処分」と「再利用」どちらと捉えるか、環境省ではなく私たち自身がどのように判断するのかによって、今後の展開は変わっていきます。二重基準への批判でとどまらず、「社会のあり方を決めるのは行政ではなく私たちである」ことを改めて考えていきたいですね。

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発行元

全国大学生協連合会 全国院生委員会 院生委員長 小金澤光