ヒトの生命力を上回る植物の機能

全国大学生協連院生委員会  2020.09.09 Vol. 40

毒と薬の違いとは?自然界にありふれた「毒」

こんにちは。京都大学農学研究科のM.H.です。突然ですが、「毒」と聞いて真っ先に思い浮かべるものは何ですか?地下鉄サリン事件(1995年)のサリン?ジャガイモの芽のような身近な食材や、食中毒のような疾病を想像した人もいるかもしれません。例えば、ジャガイモの芽に含まれるソラニンという物質は植物由来の毒として知られています。今回このテーマを扱ったのは、多くの危険ドラッグや医療用薬品の成分が植物由来であることを知り(すべてがそうではない)、植物を由来としたものたちの違いや、身の回りのものの安全性について学んでみたからです。

私は専攻柄、除草剤や殺虫剤、そのほか危険な薬品を頻繁に扱うのですが、それらのようにあからさまに“ヤバそう”な人工物や冒頭で述べた危険ドラッグ以外にも、私たちの身の回りには場合によっては毒となるものが多く存在しています。有名なのは、スイセンやアジサイ、青梅でしょうか。ニラと間違えてスイセンを誤食してしまうニュースもありました。しかし、植物が毒を持つのは自然の摂理とも言えます。植物は環境の変化に応じて本能的に生体防御機能を高める力を持っています。子供の頃、「梅干しの種を食べちゃダメだよ!」と言われた人はいませんか?植物のタネに毒素が含まれることが多いのは、我々ヒトやほかの動物たちに果肉と一緒に簡単に食べられてしまえば、種として生き残ることが困難になるからです。また、いかにも身体に良さそうなナッツ類や穀類にも微生物由来の毒が付着しているケースもあり、特定の何かに限らず全ての天然物はいつでも毒になり得てしまいます。

毒性の指標には、LD50という数値が用いられます。これは、どれだけの量が1回に投与されれば50%の確率で死に至るかを数値化したもので、LD50の値が小さければ小さいほど致死性は高まります。例えば、食塩はLD50=3 g/kgですので、体重60 ㎏の人の食塩による致死量は180 g となります。これを踏まえると、フグ毒で有名なテトロドトキシンのLD50=10 µg/㎏、上記のナッツ類を汚染する毒であるアフラトキシンのLD50=18.2 µg/㎏は非常に小さい数字だと分かります。トウガラシの辛味成分であるカプサイシンや、コーヒーやお茶などに含まれるカフェインの毒性も実は意外と高いので、気になった人は調べてみてください。世の中は“毒”であふれているわけですが、だからこそ、多くの作物や畜産物、医薬品に厳しい検査基準が設けられ、きちんと安全が保障されたうえで私たちの手元に届くのです。我々がいま、毒だらけの世界で安全に生きているのは、奇跡と言っても過言ではありません。

毒性学の父と呼ばれるパラケルススは、「全てのものは毒であり、服用量のみが毒か否かを決める」という言葉を残しました。食品や薬品を明確に区別することはできず、人体にとって安全なものなのか危険なものなのか、薬になるか毒になるかは物質の摂取量に依拠していると言えます。バランスの良い食事をとることこそが病気の予防、健康、そして“安全に”生きることに繋がるのかもしれませんね。

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