コロナに負けるな!ー手洗いを化学的に見てみようー

全国大学生協連院生委員会2021.11.24 Vol. 55

感染症対策に有効な界面活性剤

こんにちは。コロイド・界面化学を専攻している修士2年のSYです。新型コロナウイルスの感染者が日本で初めて確認されてから約1年半が過ぎましたが、第5波の発生や変異株の流行など、その猛威は止まるところを知りません。新型コロナウイルスを含む感染症の感染経路は、一般に空気感染、飛沫感染、接触感染の3つに分類されます。手は頻繁に様々な場所を触るため、環境表面の除染も重要です。今回紹介するのは、接触感染の防止・環境除染に有効な界面活性剤のその効果についてです。

◆ウイルス不活化効果を示す界面活性剤

界面活性剤の中には、ウイルス不活性効果を有するものが多くあります。除菌剤としてもよく使用される塩化ベンザルコニウムや直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム等、家庭用の洗剤によく含まれている界面活性剤成分でもウイルス不活性効果を有しています。また、これらの界面活性剤がウイルスの不活性化に必要な濃度や接触時間は、家庭での使用条件の範囲内です。これらは、人体や環境に対して比較的安全な物質と言われています。

◆界面活性剤の作用機構

エンベロープウイルスは、外側に宿主との結合に必要なスパイクタンパクや、エンベロープと呼ばれる脂質二重膜の構造を有しています。このエンベロープやスパイクタンパクは感染時に重要な役割を果たすため、これらが破壊・変性されるとウイルスは環境中では修復できないため、感染性が失われます。界面活性剤は、1つの分子内に疎水基と親水基を有する物質で、脂質二重膜を構成するリン脂質も、疎水基と親水基を有する物質(両親媒性物質)です。界面活性剤は、疎水性相互作用により、比較的低濃度でも脂質二重膜の中に入り込み、膜の変性を引き起こします。最終的にはリン脂質を可溶化してエンベロープの構造を完全に破壊すると考えられています。また界面活性剤は、タンパク質にも吸着し、その構造を変性させる機能もあります。界面活性剤は臨界ミセル濃度(CMC)以上でミセル(球状の会合体)を形成し、疎水性物質の可溶化能が高まり、さらに、CMC以上の濃度で可溶化され、膜タンパク質の抽出に利用されます。

◆まとめ

界面活性剤がウイルスに対して有効であると多くの人がご存じかと思いますが、どのような種類が、どのようなメカニズムなのか、までご存じの方は少ないのではないでしょうか。新型コロナウイルスに関する情報はさまざま飛び交っていますが、学術的に見たり、「なぜ」という点にも関心をもったりして、正しく向き合っていくことも重要なのではないでしょうか。

[参考文献] Colloids Interface Sci. Commun., 2021, 46, 1.

SDGs SDGs

大学生協は持続可能な開発目標(SDGs)を支援しています

発行元

全国大学生協連合会 全国院生委員会

次号の発行は12月1日です。「障害の正しい理解で優しい世界へ」をお届けします!