H3ロケットの経験を無駄にしないために

全国大学生協連院生委員会 2023.12.20 Vol.65

ものづくりに完璧はあり得ない

「それは一般に失敗といいます。」
2023年2月に行われたJAXAの会見で、記者が質問の最後に発した言葉が大きな話題となりました。この日、発射予定だったJAXAの新型ロケットH3の試験1号機は直前で打ち上げを中止。システムが異常を検知して、ロケットの補助ブースターに着火信号を送らなかったことが原因と説明されました。

人間のものづくりに完璧はあり得ません。そこで「機械は壊れるもの」という前提に立ち、壊れても被害が最小限となるように設計します。この考え方を 「フェイルセーフ」といいます。

ロケットのシステムが異常に気づいてすぐさま発射を止めたことは、JAXAにとって設計通りで想定内のできごとです。フェイルセーフによって最優先すべき安全をきちんと保ったことで、人的被害はおろか搭載していた人工衛星も無傷でした。

一方で、そもそもシステムが検知した「異常」は設計者の意図から逸脱した状態を指すものです。安全か危険かはさておいて、意図しない異常によって「予定の日時通りに人工衛星を宇宙へ送り届ける」というミッションには失敗したともいえます。

このH3ロケット試験1号機は、3月の再チャレンジでも途中でエンジンが不具合を起こし、打ち上げは失敗に終わりました。このときロケットと共に人工衛星も失われ、日本の宇宙開発は大打撃を被っています。

「試験1号機」の名の通り、H3ロケットは開発段階のものです。当然不具合もあれば、失敗も起こり得ます。そこに本物の人工衛星を載せざるを得ない日本の宇宙開発は不健全であり、一発勝負で完璧な成功を収めるしかない窮状は深刻です。

「失敗は成功のもと」ということわざがあるように、失敗を分析して改善を積み重ねることはものづくり過程に不可欠です。しかし今、日本の宇宙開発には「失敗しても大丈夫な環境」が欠けています。守勢に立たされた技術に未来はありません。イノベーションには、果敢に挑戦できる「ゆとり」が必要です。

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全国大学生協連合会 全国院生委員会