学長・総長インタビュー
学校法人立命館 仲谷 善雄 総長

学生たちの挑戦はどこまで自由になれるか。
多様な体験価値の提供で養う、 未来につながる探究心・探究力。
急激に変化し、その先の予測が極めて難しい時代の中、 2大学・9附属校を有する立命館学園では、 「挑戦をもっと自由に」をテーマとする 学園ビジョン「R2030」を策定。
その中で描かれる立命館大学の未来の姿とは、 いったいどのようなものなのか。
そこに大学生協は、どのように伴走していけばよいのか。
2019年の就任以来、精力的な活動を続ける 仲谷 善雄総長にお話をうかがいました。
学園ビジョン「R2030」のなかで、描かれる成長へのストーリー。

河原:立命館大学は2030年をターゲットに、「挑戦をもっと自由に」をテーマとした学園ビジョン「R2030」を策定しています。「R2030」においては、「新たな価値創造の実現」「テクノロジーを活かした教育・研究の進化」「未来社会を描くキャンパス創造」「グローバル社会への主体的貢献」「多様性を活かす学園創造」「シームレスな学園展開」の6つの政策目標が掲げられています。総長が特に重視しておられることについてお聞かせください。
仲谷:「R2030」におけるチャレンジ・デザインには、立命館大学としてのチャレンジ・デザインと、立命館学園としてのチャレンジ・デザインという2つの側面があります。まず立命館大学のチャレンジ・デザインでは、社会共生価値を創出する「次世代研究大学」になることに加え、そうした取り組みのなかで社会に変革をもたらすイノベーション・創発性人材を輩出すること、この2つが両輪となって展開していくことを目指しています。
一方、立命館学園のチャレンジ・デザインでは、小学校から中学校、高校、そして大学・大学院につながる教育的連携のさらなる強化を目指しています。立命館学園の4つのすべての附属高校は、文部科学省のSSH(スーパー・サイエンス・ハイスクール)かSGH(スーパー・グローバル・ハイスクール)・WWL(ワールド・ワイド・ラーニング)認定を受けています。こうした高度な一貫教育のなかで、まず小学校において探究心・探究力の基礎をつくり、中学校・高校で大きく伸ばし、大学に入ってきたらそれを研究に結び付けていく。そんな形を「次世代探究学園」と呼び、チャレンジ・デザインのなかでも大きな目標としています。
河原:今までは漠然と「学び」や「学ぶ力」だったところが、「R2030」が走り始めることによって、「探究心」や「探究力」という具体的な言葉になりました。それを小学校・中学校・高校・大学へとつなぎ、やがて研究力へと花開いていくというストーリーが、総長のお話をうかがってとても明確にイメージすることができました。
仲谷:ただ、そのためにも、これからは教職員の一人ひとりが「学生とともに成長する指導者」であることが重要なのではないかと思っています。私が総長になって言い続けていることの一つが、「教える」とか「育てる」ということをあまり言い過ぎないようにしようと。それをやっている限り、学生はいつまでも先生を超えることができません。やはり学ぶ側が主体的・能動的に学ぶ。それを知識・経験で一日の長を持つ先生が適切かつ的確にアドバイスしていく。そうすることで学ぶ側はもっと自由に挑戦し、新たなターゲットを設定してさらなる飛躍を遂げていくというわけです。
グローバルな感覚を身に付けることで広がる挑戦への道筋。
河原:「R2030」のなかでは、海外展開やグローバル化についても記されていますが、立命館大学には留学経験者が多く、グローバルな視点を持つことによって、チャレンジしていくきっかけが生まれてくると思います。さらに総長は、これからは学部生だけでなく、大学院生や教職員の国際連携も含めたさらなるグローバル化が大切だとおっしゃっていますが、そのあたりについてはいかがでしょうか。
仲谷:立命館大学がグローバル化へ大きく舵を切ったのは、1988年の国際関係学部の設置だと思います。立命館大学の建学の精神は「自由と清新」ですが、背景には学祖である西園寺公望の「自由主義と国際主義」という国際人としての精神があります。そして、何よりも大切なのは「ダイバーシティ(多様性)」なのだということです。
ただ一口に多様性と言ってもさまざまな多様性があると思いますけれど、一番見えやすいのは構成員の多様化、それから経験の多様化ではないでしょうか。それを実現する方法の一つが留学、あるいは留学生の受け入れだと思います。2024年現在、立命館大学への留学生の数は正規、短期を合わせて3000人を超え、全国3位、西日本で1位の受け入れ数を誇ります。
河原:留学生の送り出し・受け入れのためのプログラムやカリキュラムの設定が重要なのはもちろんですが、彼らに「食」をいかに提供するかということも欠かすことのできない視点です。その面で力になれるのは、やはり大学生協だと思うのですが......。
仲谷:ずいぶん前の話ですが、私が情報理工学部の学部長になった時、最初に言ったのは「ハラールをもっと積極的に大学生協で取り入れてほしい」ということでした。その時の担当者が言うには「イスラム教の学生は食べるかもしれませんが、人数が限られているので難しいと思います」ということでした。しかし、ヘルシーな食べ物であることを知らないから食べていないだけ、あるいはハラールはイスラム教でない自分には関係がないから食べないということもあります。少しずつハラールも広がってきていますが、まだまだ海外に比べれば、そういう食文化の多様性という観点では不十分だと思います。
結局、私にしても先生にしても、海外に行った時にその国らしさを感じる一番のところは食ですよね。こんな味だったんだ、こんな食材を食べるのか、といったある種の驚きや発見、経験こそが異文化理解の導入部といっても過言ではありません。聞くところによると、立命館アジア太平洋大学(APU)ではオセアニアウイークやインドネシアウイークなど、いろんな国の食をみんなで食べようという取り組みをやっていますが、ああいった取り組みはぜひ立命館大学でも取り入れていきたいですね。
河原:大学や学部の垣根を越えて連携し合えるのが大学生協のよいところなので、APUが実践している食の国際化への取り組み、そのよいところを立命館大学生協でも積極的に取り入れていこうと思います。
仲谷:私が世界の食に目を開いたのは、スタンフォード大学に留学した1991年のことでした。大学の周辺は異文化のたまり場になっていて、さまざまな国の食文化をそこで知ることができました。多様な食が身の回りにあり、いつでも食べることができる。グローバル化というのは、こういうところから始まるのだということを実感して。以来、グローバル化が目指すところはどこですかという問いに対して、「日常の中で世界を感じることです」と答えるようになりました。
大学生協の留学支援、Valencia International College Program。

河原:大学のグローバル化に関するお手伝いを、立命館大学生協としても積極的に行っていきたいと考えているところですが、そんな取り組みの一つとして留学を希望する学生たちの注目を集めているのが「Valencia International College Program」です。
仲谷:現在、本学の4学部で採用されている人気のプログラムですね。
河原:はい。このプログラムは、Valencia College(米国・フロリダ州オーランド)に在籍し、授業を受けながら現地で実際に就業体験ができるというものです。プログラムの参加者は、グローバルに活躍するために必要なリーダーシップやマネジメント能力の向上、文化交流、英語力とコミュニケーション能力の向上に重点を置いた座学・リモート授業を受けます。それに加え、米国の社会や企業文化について学び、専門的なスキルを習得するアカデミックトレーニング実習を受けます。実習先のウォルト・ディズニー・ワールドでキャストとして就業体験を行う約5カ月の留学プログラムです。
仲谷:立命館大学では、現在、企業との連携のもと、学生・生徒・児童への支援の拡充を図る「立命館・社会起業家支援プラットフォームRIMIX(Ritsumeikan Impact-Makers InterX)」を展開しています。Valencia International College Programの本質は、このRIMIXの精神にも通じるところなのではないかと思いますね。
河原:グローバル化に関しては、大学生協でもさまざまな取り組みを展開しているのだ、ということをもっと広く認知してもらえるように働きかけていきたいと思っています。そのうえで、さらなる参加者の増加につなげていければと思うのですが、このValencia International College Programについて言えば、どうもディズニーランド目当てと言っては言い過ぎですが、そんな傾向もなきにしもあらずで......。
仲谷:どこで学ぶのか、だれと学ぶのかは大変重要だと思います。オーランドという街はさまざまな観光名所はもちろん、自然豊かな街ですよね。そのような場所に行くことも大事だし、ウォルト・ディズニー・ワールド・リゾート社で世界的なマネジメントを学ぶことはとても価値あることだと思います。このプログラムにはもっと多くの学生に参加してもらいたいですね。
若者から外国人、社会人、高齢者まで、進展する大学の多様化にいかに備えるか。
河原:もう一つ、大学生協の大きな特徴として挙げられるのが、学部の垣根を越えて学生たちにアピールできる点です。仲谷:確かに、共通課題の解決に大きな力を発揮できる立場にいて、そのために必要な機能を備えていると言えますよね。例えば、100円朝食などは、その典型的な例かもしれません。学部を問わず、すべての親御さんは子どもに対して「毎日、何を食べてるの?いや、そもそもちゃんと食べてるの?」と食の心配が尽きないわけで。立命館大学の父母懇談会がきっかけで、初めてそういう問題意識が浮き彫りになりました。これはまさに教学ではない、大学生協だからできる取り組みであり、大きな実績と言えるのではないでしょうか。
河原:毎年、ご父兄が集まる場では必ず100円朝食のビデオをお見せするのですが、皆さん一様に「いいですね」と感嘆の声を上げられますね。
仲谷:だいたい朝食を抜いて大学に来れば、一日ぼーっとしますよね。私なんか朝食を抜くと動けなくなるので、必ず食べますよ。100円朝食で学生たちにもしっかりと朝食を取ってもらって、一日のベースをつくっていく。それがなければ探究心や探究力を養うなんてできません。
河原:食を通じて探究心・探究力の基礎を築く。そのお手伝いを大学生協がさせていただいているという感じでしょうか。最後に、大学と大学生協のこれからについて、どのように展望されているのかお聞かせください。
仲谷:現在、大学院では半数以上が留学生で、そこに社会人が加わり、高齢者も増えてきている状態です。でも、これは考えてみれば、大学の将来の姿でもあるんですね。何においても、大学院が先んじるのは、基本的な傾向としてありますから。これから18歳人口は確実に減少していきます。一方で、今まで以上に多様な人が大学に来て、大学生協を利用するようになります。早ければもう5年先に起こるかもしれないし、10年先には絶対そうなっていると。では、そういうなかで大学生協はどうあるべきなのか。これまでの大学生協の利用者とは異なる世代の利用者が増えるであろうことを、ぜひ、互いに認識として共有し、それに応じた取り組みのあり方をともに考えていきたいと思います。
河原:本日はありがとうございました。


仲谷 善雄 総長 Nakatani Yoshio
1981年 | 大阪大学人間科学部人間科学科卒業 |
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1989年 | 学術博士(神戸大学) |
2004年〜2005年 | 立命館大学理工学研究所主事 |
2006年〜2008年 | 立命館大学情報理工学部 副学部長(企画・研究・国際) |
2008年〜2010年 | 立命館大学情報理工学部 副学部長(企画・国際) |
2009年〜2011年 | 立命館大学文部科学省 国際化拠点整備事業推進本部副事務局長 |
2010年〜2011年 | 立命館大学情報理工学部 副学部長(国際プロジェクト) |
2010年〜2011年 | 立命館大学「アジア人財資金構想」高度専門留学生育成事業専門プログラム開発マネージャー |
2012年〜2014年 | 立命館大学総合科学技術研究機構長 |
2012年〜2014年 | 立命館大学理工学研究所長 |
2014年〜2018年 | 立命館大学情報理工学部長、情報理工学研究科長 |
2014年 | 学校法人立命館理事・評議員 (現在に至る) |
2018年 | 学校法人立命館副総長(研究・学術情報・国際連携・男女共同参画担当)、 立命館大学副学長、学校法人立命館最高情報責任者 |
2019年 | 学校法人立命館総長(現在に至る) |
所属学会
ヒューマンインタフェース学会・情報処理学会・人工知能学会・計測自動制御学会・日本心理学会等

立命館生活協同組合 理事長
(立命館大学 文学部 地域研究学域 教授)
河原 典史 Kawahara Norifumi
1988年 | 立命館大学文学部地理学科地理学専攻卒業 |
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1991年 | 立命館大学文学研究科地理学専攻博士 前期課程修了 |
1993年 | 立命館大学文学研究科地理学専攻博士 後期課程単位取得 満期退学 |
1995年 | 立命館大学文学部助手 以後、専任講師・助教授(准教授) |
1998年 | 立命館大学文学部学生主事 |
2001・2008年 | カナダ国ブリティッシュ・コロンビア大学客員研究員 |
2010年 | 立命館大学文学部教授(現在に至る) |
2012年〜2013年 | 立命館大学文学部副学部長 (企画・国際) |
2019年 | 立命館大学文学部副学部長(研究) |
2020年〜2022年 | 立命館大学学生部長 |
2022年 | 博士(文学・立命館大学) |
2023年 | 立命館大学体育会硬式野球部部長 (現在に至る) |
2023年 | 立命館生活協同組合理事長(現在に至る) |
『カナダ日本人水産移民の歴史地理学研究』(古今書院、2021年)で、2021年地域漁業学会賞(2021年)、第4回 日本カナダ学会賞(2022年)を受賞。
所属学会
日本地理学会・人文地理学会・歴史地理学会・日本民俗学会・日本移民学会・日本カナダ学会・地域漁業学会