学長・総長インタビュー
山口大学 谷澤 幸生 学長

明治維新で新たな時代を開いた人材を数多く生み出した長州。
山口大学は時代を生きた英傑たちの気概を継承し、
これまで207年にわたり数多くの卒業生を輩出してきた総合大学です。
新型コロナウイルスの感染拡大がいまだ深刻な状況を呈する中、
山口大学はどのように対処し、afterコロナ、withコロナの時代を
どこへ向かって歩もうとしているのか。
山口大学の谷澤 幸生学長にお話を伺いました。
早い段階で all対面形式へ、対策を徹底し学びの継続に尽力

山中:新型コロナウイルスの感染拡大が社会問題となってからはや3年の歳月を経ましたが、この間、山口大学でも積極的な感染拡大防止対策と教育対応が求められてきました。
谷澤:2020年1月頃から始まった新型コロナウイルス感染症ですが、幸いなことに全国的に見ても山口県は比較的感染者が少なくて済んでいました。山口大学も同様で、学生、教職員の諸君が、それぞれ個人的にも万全の感染対策で備えてくれたおかげでしょう。しかしながら第7波を迎え、感染者数が増加しました。大学としては通常の感染対策で対応しましたが、幸い学外での会食等での感染以外に、キャンパス内で大きな感染拡大はありませんでした。他の多くの大学がそうであるように、ワクチンの接種支援や、心身の不調に対する健康相談などを実施してきました。また、新型コロナウイルス感染症のために経済的困窮をきたした学生には、山口大学基金を活用して給付金の支給も行いました。
山中:ただ、問題となったのは、大学での通常授業に大きな制約が課されたことだったと思います。対面なのか、リモートなのか。この辺りの判断が難しかったであろうことは想像に難くありませんが、実のところはどうだったのでしょうか?
山中:この間に、山口大学独自の感染防止アイテムなども開発されましたね。
谷澤:使いやすく安定した独自の動画配信システム、対面授業のための座席登録のオンラインシステム、換気のよい新型大型バス、そして、独自開発の二酸化炭素濃度モニターなどですね。特にこのモニターは、見えないウイルスや飛沫の代わりに呼気の二酸化炭素濃度を測定して換気するように知らせてくれるものです。山口大学だけでなく、山口県や県議会、県内の銀行や他大学にも設置が進み、地域の感染対策に貢献しました。
明治維新を成し遂げた、新たな世界へのチャレンジ精神が息づく
山中:山口大学では、「発見し・はぐくみ・かたちにする 知の広場」を教育理念として、これまでに約124,000人の卒業生・学位授与者が日本全国、世界各国で活躍しています。しかし、時代はますます不透明であり、不確実なものになっています。こうした時代にあって、山口大学はこれからどうあるべきなのでしょうか?
谷澤:山口大学は文化12年(1815年)、長州藩士・上田鳳陽先生により創設された私塾・山口講堂を前身としてすでに207年の歴史を持っています。明治維新を成し遂げた新たな世界へのチャレンジ精神は地域に根付き、大学の理念「発見し・はぐくみ・かたちにする 知の広場」に受け継がれています。
山口大学では、すべての構成員の多様性が尊重されています。そして、それぞれの個性と能力を安心して発揮することができるのはもちろん、互いにつながり合い、相乗効果をともなって活躍することにより、世界に発信する知を創造します。また、大きく変化してゆく社会にしなやかに対応し、力強くチャレンジできる人材を育成し、社会に提供するとともに、産・学・公連携の知の拠点として、地域の抱える社会課題の解決に寄与していきたいと考えてます。
山中:今おっしゃったことを実現するために、具体的にはどのような取り組みをなさっていますか?
谷澤:教育においては、国際総合科学部や大学院創成科学研究科、教職大学院を設置し、全学的に STEAM※教育を導入、今後は、心理学とデータサイエンスにより、深く人間を理解する新しい学士課程や、人社系大学院の再編を進めるなど、常に新たな教育改革に取り組んでいます。また、若手、女性研究者の育成や研究基盤の整備を進めるとともに、地域の自治体、企業と協働してグリーン社会の実現を推進しています。医学部及び附属病院では、最新・最善の医療を開発・提供するとともに、優れた医療人を育成し、地域医療を支えています。
こうした積極的な取り組みや大学改革を通じて、地域に頼られ、地域から必要とされる魅力ある大学として、これからも進化していきたいと思っています。
※STEAM教育とは、Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学・ものづくり)、Art(芸術・リベラルアーツ)、Mathematics(数学)の5つの単語の頭文字を組み合わせた教育概念です。
やりたいと思うことを大学が支援する「おもしろプロジェクト」

山中:一方で、山口大学では、ずいぶん前から「おもしろプロジェクト」という、独自の取り組みをしています。
谷澤:おもしろプロジェクトとは、1996年から続く「学生の自主的活動への資金支援制度」です。 つまり、学生がやりたいと思うことを大学がもっと積極的に支援しようというプロジェクトなのです。具体的には、学生からやりたいことをまとめた企画書を募集し、さまざまな観点からその企画を評価します。特におもしろいプロジェクトに対しては、最大50万円の資金を大学がサポートします。
山中:それだけの資金がつぎ込まれることになると「失敗したら、どうしよう」としり込みする学生も出てくるかもしれませんね。
谷澤:その点については心配することはありません。失敗してもいいんです。 「形にしよう」とする試行錯誤にこそ山口大学の教育理念と、学生の主体的・創造的な学びがあると考えているからです。もちろん、プロジェクトの実施に教職員が関与することはほとんどありません。 これは、学生の力と自主的な活動を大学が全面的に信頼しているからにほかなりません。
谷澤:「みんなでハッピーホースライフ!」というプログラムがあります。馬の世話やふれ合いを通じて心身の癒やしを得るというものですが、学生サークル「ホースヒーリングサークル」が企画しました。日本では年に数千頭もの競走馬が年齢や病気、けがなどによって引退しているそうです。多くは種牡馬になったり、乗馬クラブ、大学の馬術部などに引き取られ、余生を歩んでいくことになります。しかし、その再就職先は圧倒的に少ないのが実情なのだとか。このプログラムは、人に癒やしを与えるだけでなく、そんな引退馬たちの再就職先のひとつにもなるのですから、まさに一石二鳥の企画といえるでしょう。
「おもしろきこともなき世をおもしろく」の思いで
山中:学長のお話をうかがってきて、どうやら「おもしろい」が全てのキーワードになっているのではないかと感じるのですがいかがでしょうか。谷澤:これまでも申し上げてきた通り、山口県は明治維新をけん引してきた時代の立役者を数多く輩出した土地柄であり、高杉晋作もその一人です。一説には、彼の辞世の句とされる「おもしろきこともなき世をおもしろく」ですが、この句には「すみなすものは心なりけり」という下の句があるとされています。つまり、世の中を面白いものにするのは、自分の心持ち次第である、ということなのです。楽しくなければ身に付かないですし、面白くなければ深めることはできません。ましてや、自ら動かなければ、こうしたことに出会うこともないでしょう。
個人的な感想ではありますが、彼の句の中には長州人の気質の一端が表れているのではないか。そして、それが山口大学のDNAとしても受け継がれているのではないかと思っています。今後も、地元の方と共に、学生も大学もおもしろいことに取り組んでいけたらと思っています。
山中:私たち山口大学生協もコロナ禍で満足な事業活動ができず、不安な気持ちになったこともありましたが、何かおもしろいことはないかと考えたのが維新の館構想※1であり、キャンパス街化計画※2でした。これは大学生協のさまざまな事業活動を通して、地域や社会等との出会いや交流、創造活動を作り出すことでキャンパスの活性化を生み出そうというものです。
谷澤:地元とのつながりが大切であることを先ほど申し上げましたが、大学生協の事業が、学生はもちろん、地域との関係性の維持・向上に寄与していただけるものであればありがたいですね。
山中:山口大学生協として、これからもおもしろきことを見つけ続けていきたいと思います。本日は、ありがとうございました。
※1『学生と地域をつなぎ、地域で活躍する人材を育む空間』としての、これまでにない画期的な学生寮。
明日につながる、大学生協の「住まい維新」。
※2 山口大学生協では、大学生協の事業活動で活気あふれるキャンパスを作り出す「キャンパス街化計画」を軸に描いた 2030Goalsを2022年度総代会で提案しています。
大学生協の事業活動で活気あふれるキャンパスを創り出す「キャンパス街化計画」


谷澤 幸生 学長 Yukio Tanizawa
1987年 | 山口大学 大学院医学研究科 修了、医学博士 |
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1987年 | 労働福祉事業団愛媛労災病院医師 |
1989年 | 山口大学 医学部附属病院 助手 |
1990年 | 米国ワシントン大学(セントルイス市)研究員 |
1993年 | 山口大学 医学部附属病院 医員 |
1995年 | 山口大学 医学部附属病院(第3内科)助手 |
1997年 | 同 講師 |
2002年 | 山口大学 大学院医学研究科 教授 |
2005年 | 山口大学 医学部附属病院 副病院長(~2016年) |
2012年 | 同 臨床試験支援センター長(~2014年) |
2015年 | 山口大学 学長特命補佐(~2016年) |
2016年 | 山口大学 大学院医学系研究科長、 山口大学 医学部長 山口大学 医学部医学科長 (いずれも~2020年) |
2020年 | 山口大学 副学長(~2022年) |
2021年 | 国立大学法人 山口大学理事、副学長(~2022年) |
2022年 | 国立大学法人 山口大学長 |
- 専門分野:内科学(内分泌・代謝・糖尿病学)

山口大学生協 理事長
(山口大学 大学院創成科学研究科 教授)
山中 明 教授 Akira Yamanaka
1989年 | 帯広畜産大学 畜産学部農産化学科 卒業 |
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1989年 | 北海道大学 附属低温科学研究所 研究生 |
1992年 | 北海道大学 大学院農学研究科 修了、農学修士 |
1992年 | 旭化成工業株式会社(現旭化成株式会社) |
1995年 | 北海道大学 大学院地球環境科学研究科 中途退学 |
1995年 | 山口大学 理学部 助手 |
2001年 | 博士(学術)(広島大学) |
2003年 | 山口大学 理学部 助教授授 |
2006年 | 山口大学 大学院医学系研究科(理学系)助教授(2007年~ 准教授) |
2015年 | 山口大学 大学院医学系研究科(理学系)教授 |
2016年 | 山口大学 大学院創成科学研究科(理学系)教授 |
2018年 | 山口大学 理学部 副学部長 |
2022年 | 山口大学 理学部長 |
- 専門分野:昆虫生理学、動物生理・代謝、環境適応機構学