学生主体で読書マラソン・読書推進の活動をしている団体をご紹介するこの企画。今回は、東京学芸大学生協読書マラソン委員会の松尾朋香さん、狩野歩花(ほのか)さんに日ごろの活動や思いをお聞きしました。
全国大学生協連
高須 啓太
全国大学生協連東京ブロック
松井 貴哉
全国大学生協連東京ブロック
鳥居 和
東京学芸大学生協
読書マラソン委員会委員長
松尾 朋香
東京学芸大学生協
読書マラソン委員会
狩野 歩花
(以下、敬称を省略させていただきます)
私は全国大学生協連の学生委員会で読書推進の担当をしています、岐阜大学を昨年度卒業しました高須啓太です。よろしくお願いします。
全国大学生協連東京ブロックの松井貴哉です。東京学芸大学を昨年度卒業しました。在学中は東京学芸大学生協の読書マラソン委員会に在籍していました。よろしくお願いします。
全国大学生協連東京ブロックの武蔵野エリアで東京学芸大学を担当させていただいています鳥居和(なごみ)と申します。日本社会事業大学の4年生です。よろしくお願いします。
東京学芸大学生協読書マラソン委員会委員長を務めています3年生の松尾朋香と申します。今回のインタビューは、自分たちの活動を見直す機会にもしたいと思っています。よろしくお願いします。
東京学芸大学生協読書マラソン委員会の狩野歩花と申します。2年生です。すごく緊張していますが、ありのまま読書マラソンについてお話しできたらと思います。よろしくお願いします。
早速ですが、東京学芸大学の読書マラソン委員会(以後、読マラ)の活動内容を教えてください。
読マラには、主に4つの活動があります。
1つ目は、書評誌の制作です。読マラの中でも最も大きな活動です。書評誌は年に4回、春と秋、それから推薦生の合格袋に入れる推薦生号、そして一番多くの学生に送る新歓号を発行しています。今年(2024年)の新歓号では委員会紹介やオリジナルコメント大賞の授賞作品紹介、そして小説や漫画、ラノベの書評を書影付きで紹介しました。誌面のデザイン・構成もすべて自分たちで行っています。
2つ目は、「棚本」という活動です。学芸大の小生※2階にある書籍部の棚を1本お借りして、読マラが選んだ本を並べて紹介しています。最近では「表紙が夜景の本」や「色に関する本」などテーマを決めて本を選びました。POPも自分たちで作ります。POPはデジタルで作る人もいれば、画用紙やペンを使って作成する人もいます。みんなPOPが上手なんですよ。ただこの棚本は認知度が低いので、もっと多くの人に見てもらいたいなと思っています。
※小生:生協の購買・書籍店舗
続いて3つ目は、コメント大賞です。昨日(5月19日)締め切った「新入生コメント大賞」は新入生に本の感想やおススメポイントを募集します。そして、我々委員が「この本を読みたいな」と思ったものを選びます。同時に上級生を対象とした「プチコメント大賞」も開催しています。
コメントカードの提出方法は2種類あって、1つはコメントカード、もう1つはWeb上でも提出できるGoogleフォームを用意しています。賞品は、「新入生コメント大賞」は金賞、銀賞、銅賞の順に生協ポイント3,000円分、1,000円分、500円分を、「プチコメント大賞」は「リブラ賞」と称して生協ポイント500円分を差し上げています。
秋にはオリジナルコメント大賞を全学生対象に実施しています。といっても、こちらは毎回応募件数が芳しくないのが悩ましいです。
4つ目は本に関するイベントを企画・運営すること。これまでは交流会という形で読書会を開催していました。でもあまりにも参加者が少ないので、昨年は12月のクリスマスシーズンにクリスマスツリーを置いて、自分の好きな本の書名をカードに書いて飾ろうというイベントを実施しました。これは思いのほか大盛況でした。104枚くらい集まってとても嬉しかったです。
食堂の前にあるあの木ですか?
そう、その木です。クリスマスツリーに味を占めて春は桜の木を企画しましたが、実はあまり集まっていません(笑)。
読書会はどうしても本を読んでいる人にしか参加してもらえませんでした。読マラの本来の目的である読書推進が達成できていないので、もっと多くの人に読書をアプローチするためにどうしたらいいかをみんなで意見を出しあったところ、今回のクリスマスツリーの案が持ち上がったのです。食堂のメニュー横にツリーを置いたことも功を奏したのか多くの方が参加してくださり、想像していたよりもみんなが本を読んでいることがわかりました。今は、そういう人たちのために次に何ができるかを模索しています。
クリスマスツリーのイベントを通して、ほかにどのような反応がありましたか。
自分たちはイベントを頑張ってやっていますが、効果は目に見えてわかるわけではありません。アンケートをお願いしてもそれはそれで敬遠されてしまいますし。もっと潜在的なニーズを知ることができたらいいなと思っています。
クリスマスツリーには理系のコースの学生が書いてくれたカードも飾ってあったので、理系でも結構本を読む人が多いということが分かりました。それを知ることができたのはよかったです。
コロナが明けて一般の方も学内に出入りできるようにったので、子どもたちもクリスマスツリーに気づいて参加してくれました。嬉しかったですね。かわいらしいイラストや人魚姫とかが描かれているものもあって、ほっこりした気分になりました。
ところで、読マラの皆さんは普段はいつ活動しているのですか。また、学年ごとの構成を教えてください。
今年は1年生が10人入りました。2年生が5人。3年生が3人。4年生が4人。実際に活動しているのは1年生から3年生です。
活動日は週に1回、木曜日のお昼休みに学生会議室に集まって会議をしています。
活動の進捗報告や日程調整といったこまごまとしたことや、新しいイベント案の話し合いとか。書評誌やPOP作成など個人作業が多いので特に顔を合わせる必要はないのですが、やっぱり対面ならではの、ちょっとした雑談から何かが生まれることもあるので、できるだけみんなと会うことを大切にしています。
このほかに、夏休みには一泊二日の合宿があります。去年は熱海に行きました。合宿では春学期の活動の振り返り、成果と課題を出したり、後期の活動について話しあったり。授業期間中にはできない棚本とか書評誌のテーマとか特集案を出しあいます。たとえば、書評誌のテーマは、例えば43号で言うと、「委員の栞紹介」というものがありましたね。委員は読書をする際にどんな栞を使っているのか、という。でもこの栞企画は身内だからこそ楽しいと思うので、もしかしたら組合員向けではなかったかもしれませんが。
委員が集まる毎週の会議では、本に関することも話したりするのですか。
毎回ではありませんが、読んだ本の話とか。先輩方がおすすめの本を持ってきて「好きに読んで」と置いていってくださることも時々あります。新しい本と出会えたりその人を知るきかっけになったりするのでいいですね。学年が違ってもいっぱい話すので、みんな仲がいい方だと思います。好きな本、好きな作品について交流することもあります。
好きな作家さんへの愛を語ってくれる人もいますよね。
いいコミュニティですね。こういったコミュニティがあると、今度みんなに会ったらこれを話そうと考えながら本を読みますね。
お二人が活動を通して楽しいと感じること、目指す形などがあればお話しいただけますか。
活動の中で一番楽しいのは、本を読んで自分の中にだけあった思いを書評やPOPに表現できるところです。もともと自分から発言するタイプではありませんでしたし、本はずっと読んでいますが「この本いいね」と話せる仲間もあまりいなかったので、こうやってアウトプットしたものを見てくれる人がいるということはいいなと思います。また、イベントを通して委員以外の人たちにも自分たちと同じように思いを伝える場があることを感じてもらい、それがいい効果につながれば嬉しいです。
読書って、ひとりで本を読んで楽しむだけじゃなくて、その感想を誰かと共有するのも楽しいですよね。それは大学とか大学生協というコミュニティがあるからこそできることだし、そこが活動としても面白いところなのかもしれませんね。
私は、読マラに入ったおかげで、考えながら本を読むことができるようになってきたなと感じています。委員会に入らなかったらコメントカードを書かなかっただろうし、そういう意味で読マラに感謝をしています。活動もそうだし、コメントを書いていてもそうなんですけど、書いた文章を読んで「なんでこうなんだろう」「なんでこう思ったんだろう」と自問自答するようになり、いろいろ考えることっていいなと思いました。ただ考えるだけの行為なんですけど、自然と考える力が鍛えられてきている気がします。
もちろん本を読むことは楽しいですし、読書によって人生が充実していると感じるので、そういう感覚をもっと多くの人にも知ってもらいたいなとも思います。読マラのコメント大賞などを通して本に興味を持ってもらうきっかけになってもらえたら望外の幸せですね。だから、ちょっとしたことでも真摯に取り組もうと思っています。
誰かにきっかけを与えられるって、すごいことですね。松尾さんが読マラに入ったきっかけは何でしたか。
私のきっかけは、新入生の時に見た棚本と合格袋に入っていた書評誌です。これを自分でも作ってみたいと思いました。もともと本が好きでしたので。私もこんなふうにきっかけを与えられたらいいなと思います。
これから組合員とやってみたい取り組みはありますか。
たとえばクリスマスツリーは広く浅く、交流会は狭く深く組合員にアプローチしているのですが、私はその中間を狙えたらいいなと思っています。クリスマスツリーでみんな本が好きだということは認知したので、その先を。組合員がもっと本に関して能動的になってみようと感じられるその過程をサポートできたらと思います。まだ具体的な案が浮かばなくて、もどかしいですが。
私は、今年は交流会を復活させたいなと思っています。以前、読書の交流会のことを「すごくいい」と言ってくださった方がいたんです。いろんな本と出会えて、読んだ時の気持ちや自分の意見を交流できる場があるのはすごくいいと。改めて考えると確かにいい活動だなと私も思うので、やはり「止める」という選択じゃなくて、ハードルを下げた形で交流会みたいなことをできたらいいのかなと思います。ふらっと立ち寄って、ちょっと話して、帰るという。そういう、気軽な交流ができたらいいなと思います。
学芸大生協のお店の中には書籍コーナーがあって、そこには読マラの棚もあって、それも含めて生協の書籍コーナーの魅力、大学生協に本があってよかったなとか、お二人の生協書籍コーナーの「ココがいい!」と思っているところがあれば教えてください。
正直言うと、棚本で紹介した本の売れ行きはあまり良くないんです。なので、効果は実感できていないんですけど、生協には委員会の人たちや生協職員さんなど身近な人が紹介したり選んだりした本があって、より本を身近に感じる場所。普通の書店よりも本と人のあたたかさを感じる空間だなと感じています。だからもっと生協を利用してくれたら嬉しいです。
大学に本屋さんっぽいところがあるっていいなと思います。実際に自分もコメントカードを提出して生協割引券をもらって「ぐふふ」って思いながらぐるぐる店内を廻るのですが、生協は扱っている本の種類が様々で、ゆっくり眺めながら「こういう学術書があるんだ」と図書館にはない発見もあって、私にとっては心が安らぐ場所です。
書籍部は教科書販売の時期にはドッと人が来ますが、それ以外はあんまり人が来ないんですよね。2階に来ない限り棚本も見てもらえないので、どうすればいいのかなと。読マラの活動だけでなく、書籍部に対しても何かできたらいいなと思っています。
実は今作っている棚はインパクトが強いんですよ。テーマが「後味が悪い本」というもので、春とか夏とか爽やかな季節に対して後味が悪い本という、そのギャップが面白いですよね。これをきっかけに棚本を知ってもらえたら嬉しいなというのもあります。(取材当時は)まだ途中ですが、面白い棚になるのではないかと思います。
毎日使っているお店に書籍コーナーがあるのは大学生協ならではですよね。そこに自分たちが作ったPOPがあるとか自分が書いたコメントカードが紹介されていることで身近に感じやすいのは大学生協の魅力です。それを広めていける活動ができたらいいですね。
今回、たくさんの新1年生が加わったそうですが、仲間を増やすにあたって新1年生がどこに魅力を感じてくれたのかとか、自分たちの強み・魅力みたいなものがあれば聞きたいです。
新入生にまだ読マラに入ったきっかけを聞けていないので何とも言えないのですが、去年の新入生に書いてもらったきっかけを見てみますと、「本が好き」という理由はもちろん、ほかにも「新しい本を知りたいから」「本にかかわる活動がしたかった」「本について語れる場所が欲しかった」「本を通じたコミュニティに入りたい」「活動自体が面白そうだった」「図書館司書を目指す上で本に関係する活動の経験が欲しかった」、さらには「何かしら運営をしてみたかった」という人もいて、いろいろなきっかけで入る人がいますね。読マラの強みって何でしょうね。「本が好きだから読マラに入る」という人が多いので、もしかすると、それほど活動内容に注視しているわけではないのかもしれません。
私の場合は「本が好き」ということと、もともと他のサークルに入るつもりがなくて。活動内容はあまり気にしていませんでした。でも入ってみると、書評誌とか棚本とか、結構ちゃんと活動をしているなと思います。入るきっかけにはならないかもしれませんが、学生主体でこんなに本格的な活動ができるのは読マラの魅力の一つではあるのかなと思います。
お二人が活動を通して自分の生活の中で感じた変化とか、 ここが豊かになったなと感じることはありますか。
私はやはり本の世界が広がったのが一番大きいですね。以前は自分が好きなものとかタイトルを見て面白そうだなと思う本ばかり読んできたので、偏りがありました。でも、読マラでいろんな本を読んでいる人たちと好きな作家さんについて交流したり、交流会や書評誌、棚本で紹介された本の中に読んでみたいと思うものを見つけたりして、今では人から勧められた作品や新たなジャンルにも手を出すようになりました。
書評はちゃんとその本のことを知らなければいいものを作れないので、私はこの活動を通してしっかり本と向き合うことができているなと思います。書評もPOPも大きさや文字数の制約があり、その中で自分が感じたことを効果的に伝えなければなりません。その本が言いたいことやその本質をくみ取って、どう形にするかということを考えなくてはならないので、本質に歩み寄る力はついてきたのではないかと思います。そういう思いも多くの人に感じてほしいですね。
最後の質問です。全国の大学生協の組合員に向けて読書に関するメッセージがあればお伺いしたいです。
本っていろんな人が書いていますよね。それぞれの視点や時代背景が様々だし、過去の話とか未来の話でも自分とは違う人間になることができて、自分とは違う人の目線でモノを見ることができるものなのかなと思います。そこで気づきがあったり、それをきっかけに日常生活で新たな視点を得ることができたりすることもあります。活動の中でも、本がただの娯楽ではなくて、その本の著者が伝えたいことをより深く知りたいと思うこと、またそこから気づきがいっぱいあったので、そういうことをみなさんにも味わってもらいたいなという意味で、私は読書をお勧めしたいです。
読書が趣味だよというと、すごいねとか、頭いいんだねと思われたとかするんですよ。私からすると、「いや、そもそも読書ってそんなにハードルが高いものではない」と思うんです。私にとって読書をするのは、すごく当たり前なことだと思っています。だから、もし本を読まない人がいたら、「読書は全然苦しいものではない」ということを伝えたいです。
2024年5月20日 東京学芸大学生協にて