「これからを生きる大学生へ、未来を創る人々へ」
〜本を読む人、読まない人、読書に興味がある人、興味がない人〜

全国大学生協連 大築 匡

Vol.4 本棚の迷子たち、そして先輩の問いかけ

私が学生時代を過ごしたのは、ちょうど昭和の終わりから平成にかけてだった。たまり場になっていた学生ラウンジには、友だちや先輩の誰かしらがいて、だらだらと話しながら過ごしていた。世界ではベルリンの壁が崩壊し、東西冷戦が終わり、ソ連という超大国が消え去った。日本では空前のバブル景気に沸いていたらしいが、自分の周りにはそんな気配すらなく、いつのまにかバブルも弾けていたらしいが、あまり実感もなかった。昭和の終わりのニュースは友だちと行ったスキー場で聞いた。特筆すべきイベントもなく、ただ仲間とまったり時を過ごすだけの、そんな学生時代だった。

先輩たちからは、よく「お前、これ読んだか」と声をかけられた。そんなとき、友だちは何かしら難しいことを話していた。マルクスだの、フーコーだの、レヴィ=ストロースだの、浅田彰だの、はては先輩たちが学んでいるらしい専門書だの、大学の先生の著作だの——いやいや、全部は読めないよね。だって大学の授業もあればレポートもあるし、バイトもあるし、麻雀だってしないといけない。正直、場違いなところに来ちまったのかなあと思いつつ、せめて「さわり」だけでも、と図書館や書籍部でぱらぱらとチラ読みして、読みやすそうな新書版の入門書を買い込んでカバンに入れて持ち歩いた。しかし、電車の中ではぐっすり夢の中、大学ではだらだらとおしゃべりに忙しく、とても読めたものではなかった。

そんな怠惰な自分だったけれど、「お前、これ読んだか」という先輩の問いかけはありがたかった。難しい本は読めなかったけど、読んだふりだけはうまくなり、買ったのはいいが本棚の肥やし、積読ばかりが増えに増え、いつか読むぞが尻すぼみ、そのうち読むだろうと思っていたら本棚の中で迷子になり見つけてもらえず埃をかぶっていただけの本たちのなんと多いことか。

それでも、私はあの先輩の問いかけに感謝している。積読でも、チラ読みでもいい。本に触れ、本について語る楽しさを教えてくれたから。

「お前、これ読んだか」と先輩が差し出した本のひとつに、鹿野政直先生の『鳥島は入っているか』があった。それは自分にとって大切な本になった。何年も経ったある日、自宅の本棚に眠っていたその本を手に取り、読み返してみると、栞代わりにレシートが挟まれていた。当時、私たちのたまり場になっていたあの学生ラウンジのすぐとなりにあった、生協書籍部のレシートだった。