「これからを生きる大学生へ、未来を創る人々へ」
〜本を読む人、読まない人、読書に興味がある人、興味がない人〜

全国大学生協連 大築 匡

Vol.6 専門書との格闘、読むという筋トレ

「大学に入って本を読むのが嫌いになった」という学生と出会った。
全国大学生協連が毎年12月に開催している「全国総会」の中の、読書推進活動についてのテーマセッションで同席した学生から飛び出した一言だった。
読書推進活動について語りあう場なのに、なんとも率直すぎる大胆な発言だなあと思いましたが、もちろんそれで彼女の話は終わらない。
「・・・だから少しでも本を好きになるようなきっかけを生協の学生委員会活動で作れたらいいと思う」
そんな思いでテーマセッションに参加したそうです。
ちょっと興味がわいたので彼女が読書嫌いになったきっかけを聞いてみたところ、
「最初の授業で先生から参考書リストを渡されて、大学生だからこれくらい読まなければダメだと言われて気おくれしてしまい、読書に苦手意識をもった」とのこと。
なるほどなあ。先生も学生に本を読んで勉強してほしくてリストを渡したのだろうけど、その思いは見事にすれ違い、学生の読書意欲をそぐ結果となってしまっている、ということか。
もちろん、学生の中には参考書リストを片手に書籍部や図書館に行く人もいるのだろうけど、そうではない学生も多いのではないだろうか。

こんなエピソードを思い出したのは、出版社からの近刊情報を目にしたからです。
書籍担当者から送られてきた資料には『専門書を読む 教員と学生でつくる10講座』ミネルヴァ書房、とある。4月18日取次搬入予定だそうですので、店頭に並ぶのは4月末頃でしょう。
内容紹介には「文章を読んで理解すること(させること)の難しさに改めて直面した学生の苦悩、教員の呻吟…。その結末は。」などと書いてある。
私の手元にはこの本があるわけではないので、あくまでも近刊情報から勝手に読み取ったことでしかないのですが、この本の著者である先生たちは、読書推進をめぐって不幸なすれ違いを何度も経験してきたのではないだろうか。先生たちはそれでも諦めずに学生たちに向き合い、学生たちもその先生方の熱意にこたえて難しい本になんとか食らいついてきたのではないだろうか。「苦悩、呻吟」という言葉がそんな想像を掻き立てる。(勝手な妄想なので間違っていたらすみません・・・。)

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専門書や教養書と言われるような本を読むのは、ふつうにエンタメ小説を読むことよりはちょっとだけハードルが高い。
まず使われている言葉がわからない。専門用語は、日常語にはない特殊な概念を表現しているので、その定義を正確に理解しないと文章そのものの意味がわからない。巻末注記を丁寧に追っていきながら読んでいくのだが、そうすると今自分が読んでいるページと巻末を何度も往復することになるので、だんだん内容が頭に入ってこなくなる。集中して論旨を追いながら読まないと、文字を目で追っているだけになり、頭の中では全然違うことを考えていることになりがち。読解力や思考力だけでなく、記憶力と集中力、ついでに言えば重い本を持つので腕の力も必要だ。寝落ちしないだけの根性も。
つまり、難しい本を読むことは疲れるのです。
でも、その疲れはちょっと強めの筋トレをしたような心地よさでもあると思う。エンタメ小説もいいけど、たまには歯ごたえのある本を読んだ後の達成感を、ぜひとも学生時代に味わってほしいと思う。
確かに専門書を読むための最初のハードルを越えるのは難しい。しかし、トレーニングも最初の数か月続けられれば、そのあとは習慣化して継続できるようになる(はず)。まあ、私はそう言いながらダイエットのためのトレーニングは何度も挫折しているのですが・・・。専門書や教養書を読むための最初の一歩を踏み出すことができるよう、大学の先生には学生さんたちを上手に導いてほしいなあ、と思います。