「これからを生きる大学生へ、未来を創る人々へ」
〜本を読む人、読まない人、読書に興味がある人、興味がない人〜

全国大学生協連 大築 匡

Vol.9 車窓と文庫本

ゴールデンウィークの予定はいかがでしょうか?
まだ予定が決まっていないという人は、近場にちょっとした小旅行に出かけてみませんか。
住み慣れた街から電車で少し離れるだけでも見知らぬ風景の中で新たな出会いや発見が、きっとあるはずです。
そしてそんな時にカバンに1冊の文庫本を忍ばせて出かけてみてはいかがでしょうか。

ずいぶん前のことになりますが、ふと思いついてJR中央線を各駅停車に乗ってひたすら北上したことがあります。東京都から山梨県、長野県を通り抜け、新潟県までたどりつき、そのまま日本海沿いを島根県まで進みました。とくに目的があったわけではないのですが、縄文のヴィーナスや火焔型土器の展示を見て縄文時代に思いをはせ、ヌナカワヒメの伝説が残る土地から出雲大社まで旅行をしました。神話の時代に人々が行き交ったであろう道をたどった経験は、30年以上経った今でも鮮明に思い出せます。
青春18切符を使い、その日のうちに行けるところまで進んでは宿を探し、また翌日になったら鈍行列車で進む。
駅から駅の間はひたすら車窓を眺めて過ごすのですが、過行く景色に飽きたら途中の町の本屋さんで手に入れた文庫本を読んでいました。残念ながら、何の本なのかはもう忘れてしまったのですが…。

普段は読書に集中できない人でも、電車の揺れに身をまかせながら読むと、文章が体に染み込んでくるような思いがすると思います。旅先での読書は若いときにしかできない特別な体験です。見知らぬ土地の静かな夜に文庫本のページをめくる時間はなんとも贅沢な時間だと思えるはずです。もちろん、友達や家族と過ごす旅行も楽しい経験だと思います。けれども、一人で旅をすることで自分と向き合う時間を持つことも得難い経験です。そのとき、傍らに文庫本があれば、旅の時間がより一層豊かな思索のひとときになることでしょう。持っていく本は何でもいいでしょう。推理小説でもSFでも、歴史や時代小説でも構いません。哲学や純文学、歴史学や自然科学のエッセイでもいいでしょう。私のように途中の町で出会った本でもいいと思います。それがどんな本だとしても、あなたの旅を忘れられない思い出の旅にしてくれるはずです。