読書のいずみ

『時代小説だって、面白い! 』

1.“子ども”を描く

野間 前作『つくもがみ貸します』(以下、『貸します』)はお紅と清次のふたりを中心に展開されているお話だったので、次は出雲屋のお紅と清次が結婚をして子どもが生まれるまでの話だろうと思っていました。でも、新刊の『つくもがみ、遊ぼうよ』(以下、『遊ぼうよ』)では、二人にはなんともう子どもがいて、さらに鶴屋にも可愛い子どもが誕生していて、今回はその子どもたち(市助と十夜とこゆり)と付喪神との話だったので、とても驚きました。前作では清次と付喪神が相棒のような関係でしたが、今回の子どもたち三人と付喪神は、なにやら友人のような、時には孫と祖父母のような関係に見えました。

畠中 子どもたちが遊ぶ時というのは、時に遊び相手に対して遠慮がない、考えが及ばずやりたい放題にやってしまう。いちいち理性的には動かないですよね。それに付喪神がどう反応するかなと考えたら、こういう形になりました。

野間 子どもというのは、物が動けば興味津津……。

畠中 そう。相手が嫌がっているのが分からず触りたい、見たい、興味津津、というのが子どもかなと思いまして。

野間 いきいきとした子どもの動きは、私たちにとても伝わってきました。私が付喪神だったら隠れたいなと思うくらいです。子どもたちにはやんちゃな一面がありつつ、すごく物事の見方が大人びていたりもしますね。

西山 今回の人間と付喪神との関係からは、どちらかというと『しゃばけ』で描かれているような家族的なつながりをすごく感じた気がします。そういったつながりを描かれたのは、畠中さんご自身のなかで何か心の動きがあったからなのでしょうか?

畠中 毎回、書く時には新しいことを少しずつ入れたいなと思っています。今回は初めて子どもを主人公にしたいと思いました。子どもを主人公に据えた時に、その子どもがどう動くか。そしてそれに付喪神がどう対応するかを考えたんです。付喪神たちのスタンスは前作と変わらないのだけど、一線を引いていた人間側の対応が変わったので、そこに引きずり込まれたというかたちですね。

西山 たしかに子どもたちを中心にして、大人たちと付喪神の関係が随分変わったなという印象を受けました。

畠中 こういう思想があるから、というのではなく、子どもたちのあの動きによって否応無しに変わらざるを得なかったんですね。

野間 子どもたちが自然に付喪神と溶け込んでいるなと思いました。もし物が動いて喋ったら、大人だったら一旦考えてから付き合い方を決めると思うのです。でも、子どもたちにはそれが自分の遊び相手だという認識があるので、「物」と「人」という境界をつくらずに溶け込んでいく、というように描かれているなと感じました。

畠中 物が動いたり、たとえば野間さんが着けているペンダントが「芋、芋、芋」と喋ったりすれば、きっと子供ならすごく楽しいと思うんです。 楽しければ夢中になって遊ぶし、そうやって遊んでいる姿を親たちが見れば、今まで引かれていた一線が嫌でも崩れていくと思うんですね。喋る量も増えるでしょうし、食べられるものも増えるでしょうしね。

野間 お話の中で、最初は子どもたちが自分のお八つを分けていたけど、あとからきちんとお紅から付喪神たちの分ももらえるようになりましたよね。

畠中 おなかが空いて「ぐるぐる」と鳴ると、「しょうがない」といっておせんべいを増やしたり、ね。毎日毎日のお話のなかのひとコマという感じで。はい。

インタビュアーによる畠中恵さん 著書紹介

『つくもがみ、遊ぼうよ』

『つくもがみ、遊ぼうよ』

角川書店/1,470円
『つくもがみ貸します』に続く本作は、出雲屋・すおう屋・鶴屋の子どもたちが主人公! 大人とは口をきかない付喪神も、子ども相手にたじたじで……。ときに友人、ときに孫と祖父母な関係の彼らから目が離せない!(野)

『つくもがみ貸します』

『つくもがみ貸します』

角川文庫/580円
鍋釜布団に褌まで何でも貸します損料屋。ここ出雲屋には奇妙な品が揃っているそうな。ほら、またつくもがみたちの噂話が聞こえてきた。ちょっぴり切なく暖かく……最後はキュンときちゃうかも。(西)

『つくもがみ貸します』

『しゃばけ』

新潮文庫/578円
江戸有数の大店の一人息子・一太郎は体が弱いのが玉に瑕。過保護な妖怪たちに囲まれながら、町を騒がす事件を解決! 大人気シリーズ第一巻、時代物に抵抗がある人にもオススメの一冊。(西)

『けさくしゃ』

『けさくしゃ』

新潮社/1,575円
お江戸で話題の戯作者は見目も麗しき旗本のお殿様?! 物を書くにも命がけなご時世に、彼の物語はどこへ行くやら。当時の出版事情も垣間見える新感覚時代ミステリー。(西)

『ちょちょら』

『ちょちょら』

新潮社/1,680円
間野新之介は、「平々々凡々々」といわれるほど並みな男。ある日、亡き兄と同じ江戸留守居役に抜擢された彼は、不審だった兄の死の理由を探り始める。並みな男の並々ならぬ努力の日々を応援せずにはいられない!(野)

『アコギなのかリッパなのか』

『アコギなのかリッパなのか』

新潮文庫/578円
大学生の佐倉聖は、引退した大物政治家の事務所でお茶出しから珍事件の解決までこなす万屋事務員。彼がこき使われることに同情しつつも、こき使われることに憧憬してしまう。いったい、なぜ?(野)

『アイスクリン強し』

『アイスクリン強し』

講談社文庫/580円
文明開化の蹄の音にお目見えしたのは甘~い西洋菓子。風琴屋には今日も元幕臣の警官たち「若様組」がやってきて……。移ろう時代の中で若者たちが織り成す青春群像劇。(西)

『ゆめつげ』

『ゆめつげ』

角川文庫/580円
小さな神社の神官である弓月に備わる「夢告」能力は、全く役に立たない代物。なのに突如舞い込んだ人探しの依頼が、こんな大事になるなんて……。登場人物たちの“絆”輝く物語。(西)

『百万の手』

『百万の手』

創元推理文庫/840円
「夏貴、頼みがある」焼死した親友の携帯電話から聞こえてきたのは、まぎれもなく、彼の声だった。消火しても、消えることなく膨らみ続ける謎という名の炎。それに立ち向かう夏貴。火元は一ヶ所とは、限らない。(野)

『つくも神さん、お茶ください』

『つくも神さん、お茶ください』

新潮文庫/515円
「“読む”というのは、書き手が建てた“本”という家を訪問するような行為ではないかと、思ったりする。」(本文より)畠中さんの読書観や創作裏話、旅の話が詰まったエッセイ集。時々現れる『しゃばけ』口調がクセになる!(野)

2.お気に入り

西山 付喪神というのは100年の時を経てなれる妖怪ですが、畠中さんはものを大切にして、長く使われるタイプですか?

畠中 ものを集めるのが好きです。そういう人は男性のほうに多いと聞いたんですが、私もわりと好きなんです。でもそうするとどんどんたまってしまうんですね。まずいなあとは思うのですが……。なるべくあちこちに手を出さないようにしています。

西山 特に付き合いの長いものはありますか?

畠中 お金がない頃から集めているもののなかに酒盃があります。日本酒を沢山飲むほうでもないのですけどね。最初はワイングラスを集めたいと思って始めたんですが、ワイングラスは背が高いから場所を取るんです。そのかわり酒盃は背が低いのでそちらにしようと思って、まずはガラスの酒盃を集めはじめたんですよ。それが物語の中にも出てきたりしましたね。

野間 どのようなところで買われるのですか?

畠中 いろいろですね。錦糸町にガラス業者が集まっていまして、年2回ガラスの市が開催されるんですが、そこに若い作家さんたちの作品がたくさん並ぶんです。そういうところで買って、お正月に下ろします。新年のお酒は毎年新しい酒盃でいただくんですよ。

西山 その酒盃が喋り出したら面白そうですよね。

畠中 「毎年替えるな~、俺が一番なのに(ガチャガチャ)!!」なんて言ったら面白いですよね。清次がさっさと売り払ってしまいそうですが。「うるさいっ!」と言って(笑)。

野間 酒盃を選ぶ時は見た目で選びますか? または色ですか?

畠中 色もありますが、フィーリングで選びますね。

野間 『貸します』の佐太郎が「蘇芳」という色が好きで屋号も「すおう屋」にしたという話がありましたが、畠中さんはどんな色がお好きですか?

畠中 ブルーグリーンみたいな色が好きですね。ちょうど野間さんのペンダントのような色。わりと明るめのブルーグリーンが好きです。絵をやっていたので、色見本をいろいろ見ていました。色はわりと好きなんです。

野間 登場人物が来ている着物の柄や色も細かく描写されていますよね。それは頭の中でイメージをして文字にしているのですか?

畠中 こんな着物を着ているのかなぁとふと思いついたり、資料にも江戸独特の柄とか色がいろいろ出ていますので、そういうものを普段から見て取り入れたりします。江戸時代は、流行についても資料にわりと残っているんですね、役者さんが流行らせたものとか。ですから時代を色で出せたりするんです。

野間 それでは、もし畠中さんがお持ちの道具のなかに付喪神がいたとすると、その道具は何を想像なさいますか?

畠中 そうですね。『しゃばけ』というデビュー作を書きかけている時に、近所で臨時に開いていた骨董屋さんで墨壺を見かけたんです。墨壺はその時お金がなくて買えなかったんですが、あれはあったら家に置いておきたいですね。

野間 墨壺は『しゃばけ』では重要な役目を担っていましたよね。

(収録日:2013年3月14日)

畠中恵さん サイン本を5名にプレゼント

『つくもがみ、遊ぼうよ』

畠中さんのお話はいかがでしたか?
畠中恵さんの著書『つくもがみ、遊ぼうよ』のサイン本(単行本)を5名の方にプレゼントします。
応募受付は2013年7月31日まで
当選の発表は賞品の発送をもってかえさせていただきます。

Profile

畠中 恵(はたけなか・めぐみ)

畠中 恵(はたけなか・めぐみ)

■略歴
高知県生まれ。名古屋育ち。名古屋造形芸術短期大学ビジュアルデザインコース・イラスト科卒業。2001年、『しゃばけ』で第13回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞してデビュー。「しゃばけ」シリーズは、新しい妖怪時代小説として読者の絶大な支持を受け、一大人気シリーズに。

■著書
『ぬしさまへ』『ねこのばば』『おまけのこ』『うそうそ』『ちんぷんかん』『いっちばん』『ころころろ』『ゆんでめて』『やなりいなり』『ひなこまち』、イラストブック『みぃつけた』(以上、「しゃばけ」シリーズ、『ちょちょら』『けさくしゃ』(新潮社)『つくもがみ貸します』『ゆめつげ』(角川書店)、『こころげそう』(光文社)、『アイスクリン強し』『若様組まいる』(講談社)、『こいわすれ』(文藝春秋)など多数。

※畠中恵さんへのインタビューは、まだまだ続きがございます。
続きをご覧になられたい方は、大学生協 各書籍購買にて無料配布致しております。
続きは「読書のいずみ」2013年6月発行NO.135にて、是非ご覧ください。