読書のいずみ

読書マラソン二十選!

~第9回全国読書マラソン・コメント大賞受賞作品~

2013年で9回目の開催となった「全国読書マラソン・コメント大賞」。 第9回もたくさんのコメントが寄せられました。今回の二十選では、コメント大賞選考会で選ばれた、金賞・銀賞・銅賞・アカデミック賞とナイスランナー賞の一部のコメントをご紹介します。

主催:全国大学生活協同組合連合会
協力:朝日新聞社・出版文化産業振興財団(JPIC)

『キケン』

『キケン』

有川浩/新潮文庫

この本キケンです! 青春やり直したくなっちゃうから。
この本キケンです! 本気でバカになる楽しさ知っちゃうから。
この本キケンです! 最高の仲間を見つけたくなっちゃうから。
上野が火をつけたのは、爆弾だけじゃない。読んだ人の心なんだ。本を閉じたら、思わずどこかに、何かに突っ走りたくなる。もちろん、仲間と一緒にね。長くて短い、下手したら一瞬で終わってしまいそうな大学生活。どうせなら、彼らみたいにキケンなくらい刺激的な日々を送らなきゃ損じゃない?

(法政大学/大森郁枝)

銀賞

『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』

『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』

辻村深月/講談社文庫

地元に帰る度思う。地元に残った幼なじみと地元を離れた私。まるで別な世界を生きているように、見えているものがまるきり違うみたいに思える。おばあちゃんになってもずっと友達でいようと誓ったあの日がいつだったのかもう思い出せない。久しぶりと言う数が増える度、私の中に残るのは、昔に戻ることはないという喪失感だけ。将来の夢? ボーイフレンドの話? メークにネイル。目の前にいる彼女の興味は、私を通り過ぎてもうどこか、私の知らない場所にある。けれども私たちは、全く別の世界で全く別なものを見ているわけじゃなくて、ただ、それぞれの尺度で同じ世界を生きている。ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。そこにあるのは絶望じゃない。希望なんだ。

(小樽商科大学/A.K)

銀賞

『たんぽるぽる』

『たんぽるぽる』

雪舟えま/短歌研究社

小説や詩を読む人に比べ、短歌を好んで選ぶ人はどれほどいるだろう。この本は、「短歌なんて高校の教科書以来」なんて人にもおすすめできる親しみやすさがある。しかし作品の魅力はそれだけにとどまらない。 かわいらしいタイトルと、表紙。初めてそれを見たとき、私は「またいつものか」と正直思った。ちまたにあふれる「自然の美しさやおだやかさで生きるよろこびを表した直球の作品」に飽きつつあったころだった。しかしページをひらいて表題作を見つけ、私の予想はみごとに裏切られた。 “たんぽぽがたんぽるぽるになったよう姓が変わったあとの世界は” 私は結婚をしたことがないが、その瞬間、あたたかい素朴な喜びが、心に染みていった。この歌集は、そんな日常生活によりそった幸せ、さびしさ、愛に満ちている。

(同志社大学/利田芽生)

銅賞

『パンとスープとネコ日和』

『パンとスープとネコ日和』

群ようこ/ハルキ文庫

身体にしみ入る食べものがある。  おいしいサンドイッチに、おいしいスープ。どれも素材の味を感じるごはん。亡き母の遺した町の食堂を、アキコはそんな店にした。内装も、器も、メニューも、派手ではないけれど、“気に入ったもの”を信じたお店。 脳ではなく、心で味わう。無農薬だから、栄養素が良いから…それもいいけれど、一度そんな堅いことは忘れて、舌に、鼻に、心に、任せてみる。幸せも、悲しみも、自分に素直に。 この小説を読む時の私も自分に素直に。 時々ふと目を閉じれば、優しいネコの鳴き声と、優しいスープのにおいが、私の世界の空気も優しくしてくれる。

(早稲田大学/とも。)

銅賞

『四畳半神話大系』

『四畳半神話大系』

森見登美彦/角川文庫

正直、大学とはもっと奇妙奇天烈なものだとばかり思っていた。怪しげなサークルや秘密機関が裏で踊り狂い暗躍し、常識の枠を軽くはみ出た奇人変人が10人に1人の割合ぐらいで潜み、サークルと中央団体の手に汗にぎる攻防戦、謎に満ちたアルバイト募集の広告が掲示板を埋めつくすなど、大学入学前にこの本と出会った私は、勝手に妄想をふくらませ、期待に胸をたかならせていた。ところが実際はそんなこともなく、なんとも平和で穏やかな日常をおくる今日この頃。大学ってこんなものだったのか……? いや違う、私がまだ実態を深く知らないだけだ! と夢を捨てずに、今日も今日とて「もう一つのキャンパスライフ」にふけっていくのであった。

(立命館大学/ねこなべ)

銅賞

『桐島、部活やめるってよ』

『桐島、部活やめるってよ』

朝井リョウ/集英社文庫

おい、おい。これ、俺やん。自意識過剰かも知れないが本を読んでいる途中に私が思ったことだ。今、高校生である私から見ると目を逸らしたくなるほどの現実がここには詰まっている。学校内での格差、将来への不安、青臭くて切ない恋。大人から見たら鼻で笑われそうな、ちっぽけだけど大きな悩み。重圧と不安で押しつぶされそうになる毎日。私たちが過ごす戦場が残酷に、しかし、一縷の光をもって描かれている。これは明日も戦場へ赴く私たちの背中を押してくれる一冊だ。

(立命館高校/やまこう。)

アカデミック賞

『文明が衰亡するとき』

『文明が衰亡するとき』

高坂正尭/新潮社

世界史上、たった2つの千年帝国であるローマとヴェネツィアを通して文明の衰亡を見る。 どちらの国にも共通するのは、国として豊かになると、社会保障にあてる国費が増加し、やがてそれが賄いきれなくなることで、社会不安が増大していくということである。 この本でも語られるように、これはモロに現代日本の抱える問題であり、恐らくそれが顕在化するのは私たちの世代だ。文明の衰亡とは、私たちの世代にとっては、決して遠いコトバではない。

(名古屋工業大学大学院/シーザー)

アカデミック賞

『暇と退屈の倫理学』

『暇と退屈の倫理学』

國分功一郎/朝日出版社

最近の人は誰でもスマホを持ち、ツイッターとかフェイスブックとか、本当にどうしてそこまでいつもできるの?という感じである。でもこの本を読むと少し納得する。人はそもそも定住してなかったから、退屈には対応していない生き物だったのだ。だから退屈すると不安になって、暇つぶしを一生懸命探そうとする。しかし、いくらやっても満足しないようなものばかりでは、渇望が増す一方なのである。人よ、ちょっと立ち止まって、スマホを本に持ちかえよう。料理でも、ファッションの本でも良いから、少し勉強しよう。それらを楽しむ方法を知ろう。そして待とう。一瞬でも心を満たす何かがくる瞬間を。

(早稲田大学/けしゃ)

アカデミック賞

『悲劇の誕生』

『悲劇の誕生』

ニーチェ(西尾幹二=訳)/中央公論新社

私たちはなぜ、音楽を聴くと感動する事ができるのでしょうか。芸術とは何だろう。その本質は一体どこにあるのか。この本の中では、そういった数々の疑問に対し若いニーチェが導き出した「答え」がつまっています。ギリシャ神話や当時の学問のあり方に対する批判もあり、一見してとっつきにくそうな内容ですが、その文章には読者を飲み込む圧倒的な力があります。ニーチェの「若さ」によって彩られる文体には疾走感すらあり、本を閉じた後は奇妙な余韻が残りました。目には見えない音楽の力、そして悲劇の正体にペンひとつで迫ったこの本は、まさに名作だと思います。

(琉球大学/Y.M)

アカデミック賞

『ふしぎなキリスト教』

『ふしぎなキリスト教』

橋爪大三郎・大澤真幸/講談社現代新書

キリスト教を「わかっていない度合い」は、近代化した社会の中で、日本がトップとまえがきにある。なるほどな、と思う。日本人にとって、日本の神様は仲間のようなものだが、一神教のGodは全知全能、そしてGodを信じるのは守ってもらうため。宗教が安全保障だなんて、島国の人間にはあまりピンとこない。けれども、ヘーゲルの弁証法は三位一体説を下敷にしているとか、近代的民主主義は宗教の産物であるなどと説明されてみると、「わからない」ではすまないと思う。西洋の中核にあるキリスト教を理解しなければ、今地球がぶつかっている困難をのりこえるのは難しいようだ。

(早稲田大学/つむじ風)

ナイスランナー賞は、総数200点が選ばれました。今回はその中から10点をご紹介します。

ナイスランナー賞

『長いお別れ』

『長いお別れ』

レーモンド・チャンドラー(清水俊二=訳)/ハヤカワ文庫

『ギムレットにはまだ早すぎる』という言い回しはこの本が元である。カクテルも少しは飲むようになったし……とこの本を手に取った。甘かった。何が甘いか、というのは自分の心構えのことだ。本の内容については苦い。それもくせになる苦みだ。ストーリーはいかにもな探偵もの。主人公は一匹狼だが情に厚い。それ故に友人絡みの事件に関わっていく。まとめるといかにもという感じだが、チャンドラーの手にかかると苦く、そして甘やかな描写となり、私の心をしめつける。そして上質なお酒を飲んだ時のように酩酊してしまう。悪酔いはしない。けれど全てを味わえてもいない。もう少し寝かせて、また読もう。そう思った。

(広島大学大学院/rio)

ナイスランナー賞

『あのとき始まったことのすべて』

『あのとき始まったことのすべて』

中村航/角川文庫

「ブラジルで一匹の蝶が羽ばたくと、それがテキサスでトルネードになる。」あのときの何気ない出来事が、何らかの形で今につながっている。これは「つながり」の物語である。誰にでも、何かしら持っている「つながり」を見つけ、思い出す話である。旧友に久しぶりに会いたくなった。会って昔のことを話して、当時の羽ばたきが今どんなトルネードになっているのか確かめたくなった。反対に、ずっと先、自分がもっともっと大人になった時には、もしかすると今起こった出来事が全く別のところでつながっているかもしれない。あのとき始まったことのすべては、そうやってきっと、いつかの自分に返ってくるのだろう。

(同志社大学/皐月遥)

ナイスランナー賞

『幻想郵便局』

『幻想郵便局』

堀川アサコ/講談社文庫

大切なあなたへ
そばにいる時は、話をしなくてもいいって思うのに、いなくなってからもっと話をしておけばよかった、また会いたいって思うのは勝手でしょうか。だから、現世と天国をつないでくれる幻想的な郵便局――登天郵便局――が近くにあったらいいなとすごく思うのです。あなたは消えてしまったのではなくて、どこかで見てますよね。自分の恥ずかしい姿を見せないように今を大切に生きていきます。

登天郵便局さん、この想い、届けてください。
(愛知教育大学/keito)

ナイスランナー賞

『有頂天家族』

『有頂天家族』

森見登美彦/幻冬舎文庫

これは人ではなく、狸の話。人と天狗と狸をめぐる三つ巴のお話だ。阿呆ばかりが出てくるが、阿呆であることこそが良きことに思えてくる。ついふきだしてしまうような阿呆っぷりに、とても愉快な気分になってくる。かと思えば、父の偉大さ、母の慈愛の深さ、兄弟の有難さが胸にしみ、ほろほろと泣けてくる。おもしろいおもしろい!と読んでいると思ったら、号泣している自分に驚く始末。家族とはこんなにも良いものなのだなあ……とあたたかな思いにさせてくれる。私は一度読んだ本を読み返すことはほとんどない。けれど、こればかりは、肩の力を抜きたいときにまた読みたい。懐しい思い出と家族のあたたかさに浸るように。

(東京薬科大学/ぽんで)

ナイスランナー賞

『神様のカルテ』

『神様のカルテ』

夏川草介/小学館文庫

「一に止まると書いて、正しいという意味」。高校生の時にこの言葉に出会えたことは私にとって大きなことだったと思う。どうしても、人は前に進みたがる。それは決して悪いことではないし、間違っていることでもない。しかし、ずっと走り続ければ、疲れてしまうし、見えなくなってしまうこともある。一度立ち止まってみることができる人こそ本当の強さをもっている人ではないだろうか? 一止さんに出会ってそう考えることができた。
「一に止まると書いて正しい」。一度止まってみることも正しいことだと、この本とそして、一止さんと出会って思えることができた。そして、大切な人が前に進むことだけを考えて疲れてしまっていたら、私は声を大にしてこう言いたい。 「一に止まると書いて正しい」という意味なのだ!!

(明治学院大学/Sun)

ナイスランナー賞

『デミアン』

『デミアン』

ヘルマン・ヘッセ(高橋健二=訳)/新潮文庫

ここちよいリズムだ。彼の名はマックス・デミアン。思わず口ずさみたくなる。魅力的な名前だ。謎めいたものわかりのよさ、魔法のようなふるまい。物語の芯を惑わすように、一貫して絡みつづける。デミアン、と心の中でよんでみる。その、静かで圧倒的な存在は、最後の最後に私に驚きと、さわやかな風をもたらしてくれた。清濁合わせて包容する潔さを君は教えてくれた。だけどわからないところもある。君に聞きたいことがあるんだ。あの、虚ろでまっすぐな瞳をしている瞬間、君はどこにいたのか。どうして兵隊になんか志望したのか。言葉にしない方が美しいこともあるけれど、君とは面と向かって話してみたいよ。もう一度読み返すには、時間が必要だ。だけど信じてる。デミアン、私の中にも君はいた。

(早稲田大学/二十一世紀旗手)

ナイスランナー賞

『さようなら、私』

『さようなら、私』

小川糸/幻冬舎文庫

いつからか私は、少し先まで見越して勝手に落ち込めるほどになった。過去が増えていくたび、染みとなった部分ばかりみて、前に踏み出せなくなっていった。いや、違う。いまの私は言い訳をすることに無感覚になっているだけだ。世界はちゃんと動いていて、私が動き出すのをじっと待っていてくれる。その過去は確かにあったものだけれど、その過去との付き合い方は、悲しむだけではない。人は必ず進めるのだ、何歳になっても。私も主人公たちと共に、明るい未来を信じたくなる。

(千葉大学/ばんび)

ナイスランナー賞

『乱反射』

『乱反射』

貫井徳郎/朝日文庫

バタフライ効果という言葉がある。ある場所での蝶の羽ばたきが、離れた場所の将来の天候に影響を及ぼすというものだ。同じような意味のことわざに、風が吹けば桶屋が儲かる、というものもある。これらは喩えであり、実際にはありえないと思っていた。しかし、この本で語られる哀しい事故とその真実に、自信がなくなる。ありえない? ――本当に? 「自分だけなら……」「1度だけなら……」「これくらいなら……」――そう自分に言い訳したことがない人など、果たしているだろうか。それを糾弾されたとき、素直に非を認めて謝ることができるだろうか。本書を読み終えたとき、過去の自分に恐怖した。忘れてはいけない。自分の行動には、どんな些細なものでも責任を持たなくてはならない。誰もが、自覚のない殺人者になり得てしまうのだから。

(横浜国立大学/ヘキサン)

ナイスランナー賞

『若様組まいる』

『若様組まいる』

畠中恵/講談社文庫

理不尽極まりないのである。生まれながらにして新時代の仇敵などとは。己のせいじゃない。悪い訳じゃない。でも、もしあの人に生まれていたらもっと上手に生きることができたのか。己で納得して道を選べるだけ幸せなんてことは分かってる。けど、この決断で本当にいいものか、自信はない。それでも。
それでも、一番欲しかったものを諦めて、覚悟を決めろ。ここで倒れ伏してなるものか。時世の風を受けて立つ旧時代の「若殿様」たちは平成の世に生きる私に力強い生き様を見せつける。どんな時も、誰かが、誰もが悔しくて不安で、心細い。
かような者の前にいざ、若様組まいる。

(立命館大学/まつこ)

ナイスランナー賞

『箱男』

『箱男』

安部公房/新潮文庫

箱の内側と外側、愛することと憎むこと、書くことと読むこと。一番近いはずの表裏に横たわる無限の空間の存在を気付かせてくれる。自由を手にしたはずの現代社会で、本当は僕たちは縛られながら生きているのではなかったか。世界を「見る」目を育む一冊。

(名古屋大学/鈴崎捷梨)