読書のいずみ

読書マラソン二十選!

2013年開催の第9回全国読書マラソン・コメント大賞に寄せられたコメントの数々。みなさんにすべてのコメントをご紹介できないのがとても残念ですが、今回は『読書のいずみ』編集部がこの宝の山から見つけた、選りすぐりの作品をご紹介します。秋の夜長にお気に入りの一冊が見つかりますように。

『恋せども、愛せども』
唯川恵/新潮文庫

『銀の匙』

娘・理々子、雪緒、母・篠、祖母・音羽は血のつながっていないワケあり家族だ。しかし彼女らの絆は、きっと“普通”の家族より強い。そんな母・篠と祖母・音羽は結婚することになる。娘2人は驚きをかくせないながらも応援し、「恋愛は年齢に関係ない」と考える。複雑な生い立ちの2人であるが、我を見失わず、人と接し、恋とは何? 愛とは何? と考える娘2人に私も彼女らを見習って、自分のやりたいことを見つけ、素敵な恋愛をしてみたいと感じた。

(お茶の水女子大学/みんはる)

『不道徳教育講座』
三島由紀夫/角川文庫

『風立ちぬ』

タイトル通り、中の項目は不道徳な言葉で一杯だった。子供時分から人は道徳的であるべきと教えられて育った人間からすれば、友だちを裏切るとか、嘘をつけだとか、とんでもないことだと思うだろう。しかし、実のところ不道徳であることは案外難しく、加減だって必要だし、頭を使わなくてはならない。本書は不道徳であれと教える講座であるからには、先人の教えを含め、ちゃんとした理屈がある。正直者が馬鹿を見ることもある。不道徳な人間になるのではなく、ちょっと利口に生きるために覗いてみるのも良いかもしれない。

(甲南大学/蒼薔薇)

『よろこびの歌』
宮下奈都/実業之日本社文庫

『みんなのうた』

宮下奈都がつづる繊細な青春の日々。そのひとつひとつの言葉が、ぴったりと私に落ちてきて、共感せずにはいられないところがたくさんあった。みんながそれぞれ“ぐるぐる”と悩んだりして、それぞれ進んでいく道がある。私たちまだまだこれからなんじゃないの。これから“夏だなぁ”!! 自分の道をあきらめるな。そんなエールのこもった作品だった。

(兵庫県立大学/P2)

『しろいろの街の、その骨の体温の』
村田沙耶香/朝日新聞出版

『左京区七夕通東入ル』

中学の教室に「個性」なんてものは存在しない。そこにあるものは外見の良し悪しによって格付けされた生徒と、「かっこいい」男子が「ブス」な女子を笑いものにする残酷な人間関係のみだ。こんなこと、わかっちゃいると思っていた。でも面と向かってそんな光景が繰り広げられるのだから、なかなかきつい。「私の黄ばんだ皮膚の中でも、死んだ骨が揺れている」そんな主人公の身体感覚に胸が締め付けられる。だけど救いもある。最終的に彼女は自分のことを「美しい」と思えるようになるのだ。教室という監獄から解き放たれ、ひとり立ちした彼女の姿は本当に美しい。読後、自分の心臓が静かにふるえているのを感じた。

(東京大学/ひろ)

『サクラ咲く』
辻村深月/光文社文庫

『河岸忘日抄』

“中学生から”と書いてあるから、といってあなどることなかれ。辻村作品は、読書好きであれば、年齢なんて関係ない! 中学・高校と地味だった(大学生の今も、だが)わたしは、作品中のどの物語にも胸打たれた。運動部や生徒会で活躍している人が周囲が理想とする「中学生」「高校生」だと感じていた。のんびり、マイペースに本を読むなんて地味。理想像には1ミリもあてはまらない。でも、それでもいいではないか。教室でおとなしくしていて何がいけないのか。いけないことなんてない。それがわたしの中学・高校生活なのだから。地味だと言われても、「中学・高校は(実は今も)本を読むのが好きでした」と堂々と言おう。学校生活は、生徒の数だけあるのだから。

(昭和大学/笛吹きまいまい)

『毎日が奇跡 上・下』
ジェームズ・ヘリオット(大熊栄=訳)/集英社文庫

『あのとき始まったことのすべて』

イギリスの片田舎ヨークシャー。獣医のヘリオット先生は第二次世界大戦での従軍ののち、再びヨークシャーへ帰ってきた。時代は小規模の農場主が減り、獣医学もめまぐるしく進歩していく頃。それでもまだまだ様々な性格の農場主と先生とのやりとり、美しい自然と時にきばをむく自然とのかかわりは健在。「毎日が奇跡」という、あたりまえでありがたいことに、あらためて気づかされた。

(帯広畜産大学/イール)

『銀河ヒッチハイク・ガイド』
ダグラス・アダムス(安原和見=訳)/河出文庫

『待ってる 橘屋草子』

地球は「ある究極の疑問」を計算するために作られた銀河最大の「機械」だった!! とてもテンポよく、シュールなジョークを連発しつつ軽快に進んでいく内容にただただ圧倒されます。地球が銀河バイパス建設のために破壊されたり、人間よりもイルカのほうが利口な生物だと判明したり……。果てしなく無意味で、どこまでも有意義な時間をこの本とともに過ごせました。読み終わると、とてもポジティブな気持ちになれます。全世界、全宇宙の哲学者たちが思い悩む究極の疑問に答えをたたき出した、文字通り究極の一冊です!

(琉球大学/Y.M)

『パーク・ライフ』
吉田修一/文春文庫

『おさがしの本は』

読み終わったあとの全てが繋がってゆく感じが、私にすがすがしさを残していった。日比谷公園での主人公・僕と、苦手なタイプの近藤、ちょっと、いや、かなり変わった気球おじさん、そして不思議な女性の間で繰り広げられるお昼時の出来事が描かれている一冊だ。そして、何気ない一日を過ごしているあなたにぴったりの、何か大切なものを気づかせてくれる本だ。ぜひこの本と一杯のコーヒーを持って、あの公園に……。

(山形大学/こった)

『MOMENT』
本多孝好/集英社文庫

『太陽の坐る場所』

「死ぬ前に、ひとつだけ願いを叶えてくれる」時間という制約の中、沢山の欲望は削ぎ落とされ、最後にひとつだけが残る。いわば、その人の「芯」のようなものが、この物語には詰まっている。願うものがいて、それを叶えようとするものがいる。彼らのやりとりは、時々笑えて、和んで、でもやっぱりどうしようもなく虚しく、そして切ない。その虚しさや切なさの感情の中で、ふと、「自分なら何を願うのだろう」そういったことを考える。しかし、いま考えていることは削ぎ落とされてしまうものなのかもしれない。時間の制約、命の終わりを自覚してはじめて、自分の本当の願いが見えてくる。そして、きっとそれこそが私の「芯」であるのだろう。

(岡山大学/まよ)

『遠野物語』
柳田国男/岩波文庫

『ナラタージュ』

普段耳にしない“神話”の中でも、古事記や日本書紀に登場する神様とは少し異なる趣をもつ山の神や座敷わらしなどの存在は、さりげなさの中に強いメッセージ性が隠されている。効率性だけでは割り切れない自然界の強さがひしひしと伝わってくる。実のところ、今も昔もそう変わらないのではないか。この作品を読んでからは、山の遭難や海で行方不明者が出たというニュースが流れると、つい山神が人にいたずらをしたり、神隠しにあった人の話が頭をよぎるようになった。人間は、人間でしかない、どうにもならない域というのがある。このことを心得ずにはいられない。生々しい話から微笑ましい話まで楽しめる、少し詳しい昔話のようだ。

(横浜国立大学/ひょっこり)

『春にして君を離れ』
アガサ・クリスティ(中村妙子=訳)/ハヤカワ文庫

『失敗学のすすめ』

砂漠の真ん中にある宿で足止めを食った主人公は自分の過去を振り返る。良妻賢母を自負していた主人公が思い出せば思い出すほど、自分がそうであると盲目的に信じていただけなんじゃないかと怯えるようになっていく。僕もこの本を読んでいて本当に自分のしてきた“良い事”が正しかったのだろうかと末恐ろしくなってしまった。誰かの笑顔、感謝の言葉に僕の知らないエピローグがあったとしたら……。一旦本を閉じて、僕はまた読みだす。やっぱり誰かの裏側って気になってしまうものだから。

(武蔵大学/ぺー88)

『蛇にピアス』
金原ひとみ/集英社文庫

『武器としての決断思考』

ピアッシング、身体改造、刺青、犯罪……この時代のブラックな部分を全て詰め込んだかのような作品。でも、だからこそリアルだし、人間味がある。人は知らず知らずのうちに「自分が生きている」という実感を求めていることに気づかされた。若さゆえに不器用な主人公の感情の変化に注目です。

(十文字学園女子大学/髙塚愛美)

『マツリカ・マジョルカ』
相沢沙呼/角川書店

『君たちはどう生きるか』

とにかく装丁に一目ぼれ。すごくかわいい、そしてお洒落。特にお気に入りは「花布(はなぎれ)」。本の中身の背の上下についている布です。紫色の表紙に対して花布は金色。うっとりです。さらに、しおりは濃紫なので本書を上からのぞくと「薄紫(表紙)→金→濃紫」という大変素敵なコントラストです! ジャケットの絵も妖艶な雰囲気で素晴らしいし、ジャケットを外して現れる表紙もとても素敵です。もちろん、中身も期待を裏切りません。マツリカさんの口調がとてもよいです。マツリカさんと話してたら数学が得意になりそうだなと思いました。理路整然としているから。あ、帯も大変お洒落です!

(早稲田大学/たま)

『夜のピクニック』
恩田陸/新潮文庫

『若きウェルテルの悩み』

物語の舞台となるのは、朝から翌日の昼まで夜通し80kmを歩くという、年に一度の北高の学校行事「歩行祭」である。歩き続けることによる疲労、クラスメイトの噂話。誰と誰が親友だとか、誰が誰を好きだとか……。歩行祭の間、高校生の登場人物たちがしていることといえば、歩く、話すだけなのに、歩くことによる疲労の経過や会話の流れがとてもリアルだった。もし、こんな行事があったら私は誰と、どんな話をしながら歩いたのかな……と想像したくなるような物語であった。

(奈良高専/カフェ・オ・レ)

『あした吹く風』
あさのあつこ/文春文庫

『いのちのヴァイオリン』

ページをめくって一瞬ひやりとした。「これ、官能小説?」タイトルと作者、表紙に描かれる少年の姿からきっと爽やかな作品だろうと決めつけてレジへ直行した私は1ページめの大胆さに絶句し、次へ進むのを躊躇した。登場人物は17歳の少年功刀鈴と34歳の歯科医、来野美那子。それぞれ暗い過去をもつ2人は恋に落ちる。違和感を覚えながら私はこの歳の差カップルの行く末を追った。追ううちに2人を愛おしく思う私がいた。世間は眉をひそめるけれど、うん。こんな恋があってもいいかも。なんとも形容しがたい、でも決して後ろ向きではない心情で私は2人を祝福した。

(鹿児島大学/ちょろ助)

『晴天の迷いクジラ』
窪美澄/新潮文庫

The Precious Present

「クジラを見に行こう」人生のどん底で死を意識した3人が向かったあの町。別にクジラがどうこうしてくれるわけではないのはわかっている。自分たちに今、何が一番必要なのか? 愛? お金? たった一言「死ぬなよ」と言ってくれるだけでよかったんだ。ふさぎ込んでいる自分を奮い立たせ、勇気をくれる本でした。

(大阪経済大学/34)

『大和古寺風物誌』
亀井勝一郎/新潮文庫

THE MISSING PIECE

憧れの奈良に必ず持っていきたい一冊。この本をバッグにしのばせて春の奈良をゆっくりと散歩したい。著者はそこに古寺があるから、塔があるから行くのだと言う。それが奈良の持つ魅力なのだ。仏教について詳しくない、歴史を知らないなど、奈良は気にしない。ただただ、悠久の時を抱き、私たちを迎えてくれる。著者は古代の天皇達の人生に触れ、そこにも美を見いだしている。彼らの愛や苦しみを感じるとき、ふと、古代人が私たちの横を通り過ぎるような錯覚に陥るのだ。神代の歴史を受け継ぐ彼らの人間味あふれた姿を思い浮かべると、1400年の時を近く、遠く感じ、思わず目眩がしそうになる。

(北海道大学/あかっち)

『ブラフマンの埋葬』
小川洋子(小説家)/講談社文庫

『国土と日本人』

世界がこんなに愛情に満ちているとは知らなかった。謎の小動物ブラフマンとの出会いから、主人公の日常は始まる。あるいは非日常なのかもしれない。あるいはどちらでもいい。ブラフマンへの愛情の注がれ具合は、こちらまでもが深い愛情に満たされ、不安のないブランケットにくるまれて眠ることを許される。大きくは変わらない、けれど少しずつ変わっていく生活へのゆるぎない愛情。世界とは日々の繰り返しなのだ。その日々の終結までを描ききった、鮮やかな追憶。

(東京外国語大学/ヤマダ)

『3センチヒールの靴』
谷村志穂/集英社文庫

SUPERBIRD

社会人になったら世界がぐんと広がるんだろうなぁと妄想しております、ふふふ。自分で働いて、お給料と自由とをいただく生活。ずばり、そんな景色に憧れております。ここに登場する女性たちは、もうバッチリ充実していそうなのですが、心の奥には「思春期真っ只中!」みたいな女の子たちが潜んでいます。何でもないのに急に泣き出したり、必要以上に格好をつけたり根拠がないのに大きな期待をかけたり。大人になったからって、早速スマートに生きていくわけではなさそうです。どの場面も他人事とは思えません。あらら、私のライフプランの参考資料がまた一つ増えてしまいます。

(千葉大学/ばんび)

『図書館の神様』
瀬尾まいこ/ちくま文庫

『日本はなぜ世界でいちばん人気があるのか』

ふと図書館の窓から外の景色を見てみると、青空と人の動きがあって、にぎやかな声が聞こえてきた。なんてことはない。それだけのことだった。けれど何かが引っ掛かり、私は思い出した。『図書館の神様』だ。先生の質問に垣内君はテキト-に応え、嘘つき呼ばわりされる。なぜすぐわかる嘘をつくのと言われ、すぐわかるからそれは嘘ではない、なんて垣内君は返す。何というやつだ。ま、確かに。永遠に嘘とわからない嘘も悲しいけど。その会話が面白くてよく覚えていた。雨の降った次の日で景色が澄んでいたという描写も私の心に残っていた。実は昨日雨が降ってきれいな青空が広がっている、なんてことはない。それだけのことなのに嬉しい。ほんのわずかな重なり。自分の好きな場面との重なり。それだけのことが嬉しい。図書館の神様に感謝。

(立命館大学/もっちゃん)