読書のいずみ「座・対談」

出会いから生まれる物語

村山早紀さん(児童文学作家) VS  熊崎菜穂さん (金沢大学人間社会学域3年)

1. よろこびの循環

熊崎 ハードカバーの愛蔵版『コンビニたそがれ堂セレクション(以下、『セレクション』)』が完成しましたね。早川司寿乃さんのイラストがついている文庫が大好きでしたが、この愛蔵版も素敵な装丁です。傑作選を編むにあたって、収録作品はどのように決められたのですか?

村山 ポプラ社での最初の担当編集者であり「風の丘のルルー」シリーズなどを担当した編集者のセレクトです。短編集を編むのがとても上手な人なので、お任せして選んでもらいました。

熊崎 私は「あんず」が大好きです。猫の話ですが、読んだ時には泣いてしまって。だから『セレクション』に収録されていて、うれしかったです。

村山 よかった。「あんず」は最初に決まったの。まず「あんず」だよねって。これは、好きだと言ってくれる読者の数がナンバーワンといっていいくらいみんなに愛されている作品なんですよ。

熊崎 『コンビニたそがれ堂』は最初ハードカバーの児童書でした。それが文庫になり、今回の『セレクション』が出来上がったのは、村山さんや編集の方たちが心を込めて時間と手間をかけながら読者に愛される作品になったからだと思うのですが。

村山 それは逆で、読者さんが支持してくださったから、この美しい本ができたのだと思います。みんながいるから、私もこうやって仕事が続けてこられている感じがします。私はみんなが好き、書店員さんも大好きだし、読者さんももちろん大好きだし、編集の人も装丁を担当してくれている人も印刷会社の人も、みんなのことが好きだから、その好きという気持ちが循環して還ってくるようなものですよね。だから美しい本がうまれてくる。

熊崎 村山さんは日頃、読者や一緒に本を作っている人をどのように意識して書いていらっしゃるのでしょうか。

村山 コミュニケーションなんです、結局は。自分のなかだけで完結するものを書いているわけではなくて、誰かに投げかけることで自分がこの世界に生きていることを実感しているところがあるんです。生きていてもなかなか世の中って良くなっていかない、どこかでは悲しいこととかが起きているじゃないですか。それでもやっぱり真面目に働いていると、世界の一部、片隅だけでも照らすことができる……自分の書いたものでみんなが幸せになる。そんな仕事ができたらいいなといつも思っています。

熊崎 本が循環するとよろこびが循環するんですね。私は『コンビニたそがれ堂 空の童話』がとても好きなんです。本を書く人がいて、本を作る人がいて、売る人もいて、それを読む人やプレゼントする人がいる……。これは主人公が子どもの頃に読んだ「空の童話」という本がキーアイテムになっていますが、私も小学生のときに村山さんの『天空のミラクル(以下、『ミラクル』)』を読んで、それからほかの児童書も読むようになりました。子どもの頃、本を読んだときに生まれた感情とか記憶は、いつまでも私を救う力になってくれているなと思っています。

村山早紀さん 著書紹介

『はるがいったら』

『コンビニたそがれ堂 セレクション』

ポプラ社/本体1,500 円+ 税

心から願えば現れる不思議なコンビニ、たそがれ堂。魔法も奇跡も、夢や未来や誰かを想い歩きつづけた先にあるもの。大切な記憶のつづきにある今を、やさしく包みこむ物語。

『はるがいったら』

『ルリユール』

ポプラ社 /本体1,500 円+ 税

紙の手ざわり、インクの滲み、重ねた数は、しあわせの重み。本の守護者たるルリユールと少女の、物語と記憶を綴じ直すファンタジー。本を愛するすべてのひとへ。

『はるがいったら』

『かなりや荘浪漫』

集英社オレンジ文庫 /本体550 円+ 税

夢がある。血を吐いてでも歌いたいメロディ、はばたきたい空の高みを、まっすぐに見つめたくなる。漫画家のたまごの主人公が描きとめる景色は、痛いほどにまぶしい。

『はるがいったら』

『カフェかもめ亭』

ポプラ文庫ピュアフル /本体620 円+ 税

海風に吹かれる古き良きちいさなカフェ、かもめ亭にようこそ。不思議な話、怖い話、なつかしい話、しあわせな話。色とりどりの物語を、とっておきの一杯といっしょにどうぞ。

『はるがいったら』

『海馬亭通信』

ポプラ文庫ピュアフル /本体580 円+ 税

やまんばのお嬢さんが、風早の街へおりてきた。海馬亭で過ごす日々は、あたたかく愉快で、すこしせつない。どんなに時が過ぎても見守ってくれる彼女を、きっと忘れないでいよう。

『はるがいったら』

『その本の物語 上・下』

ポプラ文庫ピュアフル/ 本体(上)620 円 + 税、(下)660 円 + 税

ふたりだけの秘密の本を、今もう一度。苦しくても、悲しくても、泣き笑いその道を歩きつづけた魔女の子・ルルー。その勇気とやさしさの物語は、闇夜の星のように輝く。

『はるがいったら』

『竜宮ホテル』

徳間文庫/本体629 円+ 税

休業中のクラシックホテルが、若き作家の新たな住まい。人間に幽霊にあやかし、わけありな面々が微笑み合い暮らす毎日。いたわりとぬくもりが、愛おしくてたまらない。

『はるがいったら』

『花咲家の人々』

徳間文庫/本体629 円+ 税

植物と会話ができる一族、花咲家。草花みたいにさりげなく、そっと手を添えるように誰かを大事にできたらいい。やわらかな祈りが胸に芽吹き、あしたへ向かう力になる。

『はるがいったら』

『黄金旋律』

PHP文芸文庫 /本体724 円+ 税

少年は荒野をゆく。過ちを、傷を、そして希望を抱き、ひとすじの光の見える方へ。荒廃した大地が広がる未来を舞台にしたSFであり、壮大な冒険のプロローグ。

『学校のセンセイ』

『はるかな空の東』

小峰書店/本体2,000 円+ 税

夜は三つの月が浮かぶ、剣と魔法と歌の世界。はるかな空の下を風とともにゆく旅人たちは、みな強くも弱く、だからこそ愛おしい。耳の奥で遠い歌が鳴る、うつくしいファンタジー。

『学校のセンセイ』

『天空のミラクル』

ポプラ社Dreamスマッシュ! /本体840 円+ 税

あやかしが見える少女の冷えた心は、風早の街で静かにほどけてゆく。誰かが好きで、大事にしたくて、しあわせでいてほしいと願う心は、こんなにも尊く、そして強い。

『学校のセンセイ』

『シェーラひめのぼうけん 』全10 巻

童心社フォア文庫 /本体 各560 円+ 税

砂漠の国のシェーラひめは、とびきり可愛く、心やさしい力持ち。絶望も過ちも痛みも描ききるからこそ、彼女と仲間たちの冒険は読者の光になる。何度でも読み返したいシリーズ。

<紹介文:熊崎菜穂>

2. 風早の街

熊崎 「コンビニたそがれ堂」は風早の街の神様である風早三郎さんのお店で、なんでもそろう魔法のコンビニです。このアイディアはどのように思いつかれたのでしょうか。

村山 はじめはJAの子ども向けの「ちゃぐりん」という雑誌から短編のご依頼をいただいたのですが、農家・農業関係だから“稲穂”→“お稲荷さん”という連想からお稲荷さんがコンビニを開く話にしよう、という流れで出てきました。

熊崎 風早三郎さんはおちゃめでかわいらしい感じで、ハンサムなお兄さんだけど、ちょっとキツネっぽくて……。たまにねここちゃんがバイトしていたりして。

村山 三郎さんは狐ですからね。化け猫ねここも好きなキャラクターだから、もう少し登場させたいですね。ねここ視点で、もうちょっとホラー味の強い「たそがれ堂」を書いてみたいなと思っています。

熊崎 どんどんホラーを入れてください。楽しみです。

村山 三郎さんをまつる神主さんの家系も設定ができているので、いずれそれもちゃんと書きたいなと思っています。

熊崎 いいですね。全部読みたいです。 ところで、『コンビニたそがれ堂』だけでなく『カフェかもめ亭』、『海馬亭通信』、『竜宮ホテル』などいろいろな物語で“風早の街”が舞台になっています。妖も神様も人以外のものも街の暮らしに溶け込んでいて、それらがひっそり関わったり見守ったりしているこの街がとても好きで、憧れで、日常の延長線にあるという感じがとても素敵だなと思います。村山さんにとってこの“風早の街”に住む人々はどんな存在でしょうか。

村山 もう20年以上も描いている街だから、自分そのものですね。自分の内的世界、それでいて社会の縮図でもあるし、箱庭みたいな感じかな。私は親の仕事の都合で、幼いころから青森から鹿児島まで全国を転々としていました。数ヶ月から1年刻みで移動を続けていたので、私には故郷がないんです。故郷といえる場所があることに憧れていたので、それで自分で作ってしまおうと、発想はそこにあったと思います。小学校を卒業する頃から中学二年生まで2年間は千葉の市川で暮らしていてね、2年というのは私にとっては珍しく長い期間だったので、市川という街にとても愛着があって好きなんです。千葉がそもそも好きなんですね。小学校に入学したときも千葉県内の小学校で、「風早南部小学校」という名前の学校でした。“風早の街”はそこから地名をもらったんです、実は。

熊崎 “風早”という名前はとても素敵ですよね。

村山 綺麗ですよね。幼心に好きな学校でした。そんな感じで千葉にすごくいいイメージがあったので、こころのふるさとは千葉県。私のなかでいつか帰りたいところ、という思いがあります。だから、“風早”のベースは千葉県、関東です。

熊崎 そうだったんですね。『ミラクル』を読んだときには、村山さんのお住まいがある長崎がベースなんだなと思っていました。

村山 そうですよね。いろんなところに書かれているプロフィールに「長崎生まれ、長崎在住」と書いてあると、みんな長崎にずっといるって思うから、あちこち転々と移動しているとは思わないですよね。親が長崎出身なので高校からは長崎に住んで、もう長くなりました。海とか低い山とか人情とか、長崎にも愛着を感じるようになりました。

(収録日:2015 年3 月5 日)

※村山早紀さんへのインタビューは、まだまだ続きがございます。 続きをご覧になられたい方は、大学生協 各書籍購買にて無料配布致しております『読書のいずみ』2015年6月発行NO.143にて、是非ご覧ください。

村山早紀さん サイン本を5名にプレゼント

『その手をにぎりたい』

村山早紀さんの著書『コンビニたそがれ堂 セレクション』(ポプラ社)のサイン本を5名の方にプレゼントします。本誌綴込みハガキに感想とプレゼント応募欄への必要事項をご記入の上、本誌から切り離して編集部へお送りください。

こちらからも応募ができます。

応募は2015年7月31日消印まで有効。
当選の発表は賞品の発送をもってかえさせていただきます。

Profile

夏川 草介

■村山早紀(むらやま・さき)

■略歴 
1963 年生まれ。長崎県出身。
活水女子大学文学部卒業。
児童文学作家。
学生時代より各種コンテストに投稿。大学卒業後、地元FM 局などでアルバイトののち、専業作家となる。

■著書
『シェーラひめのぼうけん』シリーズ(童心社フォア文庫)、『はるかな空の東』(小峰書店)、『竜宮ホテル』シリーズ(徳間文庫)、『コンビニたそがれ堂』シリーズ(ポプラ社)など多数。近著に、『コンビニたそがれ堂 セレクション』(ポプラ社)、『かなりや荘浪漫』(集英社オレンジ文庫)がある。