読書のいずみ

読書マラソン二十選!

第10回全国読書マラソン・コメント大賞の応募コメントのなかから、とっておきの20点を編集部が選びました。 なが〜い夏休みが終わり、暑さでバテ気味の頭と体に、 活字の栄養を補給しませんか。

『ピンクの神様』
魚住直子/講談社文庫

『コルシア書店の仲間たち』

女友達の人間関係は面倒くさいとか、女はコワいとか、そういう単純な言葉では片づけられない、女たちの日常がリアルだ。幼児でも思春期でも学校でも職場でもママ友でも「人間関係」は必ず存在し、それぞれに悩みはつきないのだろう。周りの人と少し上手くいかなくなったとき、人を信じられなかったとき、自分を肯定するのにも考えを変えるのにも役立ちそうな本だ。「表」と「裏」のギャップにうんざりしても、それがその人の全てではない。

(横浜国立大学/みん)

『天国までの百マイル』
浅田次郎/朝日文庫

『クローバー・レイン』

“ろくでなし”と“人でなし”、辞書で引いても違いはパッとしないふたつの言葉ですが、この本を読んでろくでなしは物理的に貧しい人で、人でなしは精神的に貧しい人だと分かりました。四兄弟の末っ子、主人公の安男は会社を倒産させ、妻にも逃げられて、世間一般でいう、どうしようもない人です。しかし重い病を患った母を救ったのは、ろくでもない奴と思われていた安男であり、その奮闘ぶりに心を打たれました。お金や地位などを持つと心が貧しくなることがありますが、多くの人はそのことに気づきません。この本はどんな状況でも、人として忘れてはいけない、大切なものが何かを教えてくれました。温かい心を持っている人は美しい。

(慶應義塾大学/しゃん)

『聖なる怠け者の冒険』
森見登美彦/朝日新聞出版

『楽園のカンヴァス』

「あくびとは、内なる怠け者たちの咆哮である」——怠けることに全力を注ぐ聖なる怠け者、小和田君はそう語る。大冒険よりも小冒険を好む小和田君は今日も今日とて怠けた休日を過ごそうとするのだが、「正義の味方」ぽんぽこ仮面によって大冒険へと巻き込まれてしまうのだった。困っている人に手を差しのべる正義の味方にして京都の街を自由に闊歩する怪人ぽんぽこ仮面。そして聖なる怠け者、小和田君。彼らが織りなす大冒険の行方は如何に。長い土曜日が幕を開ける! さて諸君、我々はぞんぶんに怠けながら、彼らの勇姿、ひいては怠けぶりを堪能しようではないか。

(愛媛大学/通行人)

『僕は長い昼と長い夜を過ごす』
小路幸也/ハヤカワ文庫

『背表紙は歌う』

『一期一会』が人生を変える! この物語の主人公は“50時間起きて、おおよそ20時間眠る”睡眠障害を抱えている、町工場の三人兄弟の次男だ。さらには少年期に母は行方不明、父は強盗に殺されてしまう過去を持つ。そんな主人公がある日ふとした拍子に手にしてしまった約2億の裏金。そして本来それを手にするはずだった『強奪屋』から自分の命をひいては兄弟、実家を守るため、「大家といえば……親も同然」の『種苗屋』ナタネさんのバックアップのもと、逃げたり、交渉したり……。奥が深くて人間味があって。ピンチな場面がやけに軽く感じられるような本だった。ひとりじゃなければ人生だいたい面白い!!

(茨城大学/ fil)

『君が降る日』
島本理生/幻冬舎文庫

『煙突の上にハイヒール』

「おまえは、友達だろ」それはつながっているものをいっそう強くするどころか、どこかで突き放す一言だと、今さら痛感した”ーー野ばらは、くるしい。つむった目の裏に浮かんでくるのは、あの人の笑顔や、視線の先にいるあの子、何度も見送った背中。相談にのるフリをして、傍にいて、期待して、逃げて、傷ついた自分がいる。心地よい関係を壊してでも、伝えればよかった。「友達」じゃない、「特別」になりたかった。

(秋田大学/みぃ)

『世界音痴』
穂村弘/小学館文庫

『夜の国のクーパー』

ほむらさんはかわいい人だ。かよわい人だ。そこらの女子の方が強くてがつがつしてると私は思う。世の中にはじっと見ていると不思議なもの、散歩していると発見した気になるもの、気づかないだけで周りにはふわふわ浮かぶ奇妙なものがあふれている。さあ今こそ毎日のドキドキを取り戻すため、頭の中の無駄なメモを放り投げて、ピントの合わない眼鏡をかけて街を歩こう。きっとあなたも面白くてかわいい人になれるはず。

(同志社大学/ねね子)

『ダニエル先生ヤマガタ体験記』
ダニエル・カール/集英社文庫

『何もかも憂鬱な夜に』

1960年カリフォルニアに生まれ、英語教師として来日し山形県にやってくる。日本語に「ん」から始まる単語はないと思っていたダニエルさん。山形弁の「ンダ」を「ウンダ」なのかに戸惑う。外国人が少なかった当時、山形県の中学をあちこち教えに行く中で、なぜ英語が必要なのかと、習おうとしない学生にいらだち悩む。テレビで活躍しているダニエルさんと山形弁に苦労しながら生きてきた教師生活を自身の生い立ちから綴った内容。山形を嫌いにならんといて!

(山口大学/梵天丸)

『ミラノ霧の風景』
須賀敦子/白水社

『何もかも憂鬱な夜に』

ふとした瞬間に、イタリアの美しい鐘楼の鐘の音が、霧にけぶる街並みが、鮮やかに私の心にささやきかけてくる。それは全て、この本のせいだ。若いころの著者のイタリアでの日々、そのそばにはいつも友人たちがいた。読んでいるうちに、大学生活に追われてずっと会っていない友人たちを思い出して、切なさがこみあげてくる。鮮やかなイタリアの風景に、私の故郷の素朴な景色が重なる。私が故郷で最後に友人に会ったのは、いつだっただろう。慌ただしい日々の中でも、故郷や友人へのいとしさを、この本は思い出させてくれる。

(福島大学/野下弥生子)

『下町ロケット』
池井戸潤/小学館文庫

『燃えつきた地図』

研究者がもつ夢って何だろう? 新しいものを生み出したくなったとき、それが現実のものになったときの感動ってどんなものだろう? 「三、二、一、——。その瞬間、佃は目を開けた!」期待で胸がいっぱいになる私と主人公を、そのロケットは見事に裏切ってしまう。「お金だけが全てじゃない。でも、お金がなければこの町工場は……。」自分が研究者になったら、いつか必ずこんな葛藤があるんだろうな。私がなりたいと思っている研究者って、きっと主人公のような人なのかな。いや、もしかしたら、私はお金のことしか、上手くいく確率のことしか考えない、夢のかけらもない研究者になるかもしれない……。もう一度、家族を、仲間を、そして自分の可能性を信じて前に進もう。その挑戦する気持ちは、絶対に無駄にはならないって、私の心の中でいつも分かっていたことだから。

(富山大学/りさっぺ)

『ジェントルマン』
山田詠美/講談社文庫

『アルケミスト』

私は普段どんなジャンルの本でも手当たり次第読むような雑食読書家なのだが、この本には度肝を抜かれた。一般的に使われている「ジェントルマン」という言葉の意味が、白々しく空虚に思われた。恋人の「人への説明不可能な真理」を暴いている。恋とは盲目で「人のふりみて我がふり直せ」が笑えるくらい通用しない衝動なのだと気づいた。そんなふうに、一生の間で本気で人を愛せるのはあと何回なんだろうと思った。何に突き動かされるわけでもなく、「あの人があの人だから」という理由だけで走り出せるのは。

(愛知県立大学/ハナイート)

『水族館ガール』
木宮条太郎/実業之日本社文庫

『人間失格』

水族館を舞台にしたお仕事青春小説——一言で表すとこうなる。しかし、この小説は一言では語りきれない魅力たっぷりつまった一冊である。何といっても水族館を違った視点で見ることができる! 今まで綺麗だなー、可愛いなーなんてのんきにイルカやラッコを見ていたが、これを読んでしまうと、もうそうは言ってられない! 水族館の職員がいかに大変か、知れば知るほど現場の世界に引き込まれていく……そして、ああやはり水族館はロマンスの花も咲くのか(笑)。

(京都府立大学/ runner)

『妖怪アパートの幽雅な日常 1』
香月日輪/講談社文庫

『ガラスの街』

幽霊って霊感があるから見えるんじゃない。存在を「知って」「意識する」から「見える」んです。なんだか少し気持ち悪いですね。でもこれって、日常的に起こっている秒針の音のように些細なこと。何かを「知って」「理解する」と「視点」が変わる。「見える範囲」が広がると「あたりまえ」が更新される。あらあら大変、どうしましょう。これを読んでいるということは、あなたは「知る」をしてしまった。一瞬目をとめたものの大して興味が湧かなかったあなたは、いつか帰り道ふらっと本屋に立ち寄るかもしれない。電車のヒマ潰しに面白い本はないかと文庫棚を流し見て足を止める。手に取った一冊に覚えた既視感に首をかしげる。かもしれない。でも、「知る」ということは、やっぱり少し、気持ち悪い。

(法政大学/大豆)

『天の梯』
高田郁/ハルキ文庫

『桜の園/三人姉妹』

『みをつくし料理帖』の最終巻。相次ぐ不幸に見舞われながらも、江戸でひたすら人の気持ちを温かくする料理を作ることに心血を注いできた女料理人、澪。彼女が料理を通して、一人の女としてもたくましく成長していく物語です。様々な人の思惑が、時に寄り添い、時に反発しつつも、人の心を動かす力を持つ澪の料理を軸にして、温かく、まるく収まっていく様が描かれています。人の幸せを一心に考える澪だからこそ、その周りには愛情が溢れていて、この巻ではその愛情がとうとう昇華し、澪に返ってきます。軽く読めて、かつ心がほっこり温まる、そんな素敵な物語でした。

(東京外国語大学/よしお)

『君は永遠にそいつらより若い』
津村記久子/ちくま文庫

『ガラスの街』

まずこの本は、タイトルが良い。“君は永遠にそいつらより若い”なんともいえない暗い救いや喜びが隠されているように感じる。普通の顔をして日々を過ごす人が時折見せるほのぐらい闇、孤独。そのバランスを崩してしまう人が、自ら死を選んでしまう人なのかもしれない。人はいくつもの顔がある、生きたいと強く思うとき、同時に死にたいとも思ってしまうような複雑さを合わせ持っている。弱くて震えている人が強い目を持っているのと同じように。

(同志社大学/ねね子)

『ふがいない僕は空を見た』
窪美澄/新潮文庫

glee THE BEGINNING

どうしようもない痛みを抱えた主人公たちの「生」と「性」を描いた5つの物語が連作として収録された一冊。「性」という「やっかいなもの」を抱えて翻弄され、ぼろぼろになりながら、それでも必死に自分に対して誠実であろうともがきながら生きる登場人物たちの姿勢と、それを丸ごと受け止め描ききる著者の筆力に圧倒され、勇気を得た。「悪い出来事もなかなか手放せないのならずっとかかえていればいいんですそうすれば」——その先を見届けるために、生きてゆくのだ、人間は。

(慶應義塾大学/柚子)

『いつまでもショパン』
中山七里/宝島社文庫

glee THE BEGINNING

岬洋介は、ずるい。あんな演奏をされてしまったら、自分がもう、ショパンなんて弾けなくなるではないか。いくら弾いても、あなたがワルシャワで弾いたノクターンには、到底及ばないのだから。彼のピアノを、生で聴いたわけではない。しかし、文字から、文章から、音楽が溢れていたのだ。それは、読者の心をゆさぶるどころのものではなかった。岬のピアノは、ショパンのピアノそのものだ。物語を通して、ショパンの息づかい、感情を、時を超えて、いや、フィクションとノンフィクションの壁を超えて感じることができるのだ。岬洋介、あなたは本当に、ずるい。

(昭和大学/笛吹きまいまい)

『注文の多い注文書』
小川洋子・クラフト・エヴィング商会
/筑摩書房

Forrest Gump

クラフト・エヴィング商會って知っていますか? いや、ここだけの話、あるらしいんですよ。「ないもの」が。「ないものあります」って宣伝文句を聞いたことがありませんか? え、うさんくさい? まあ、うわさ話だけでは信じられないのも無理はありません。だけどほら、ここに確かにあるんですよ。これはね、商會に届けられた注文書、納品書、受領書をまとめた本なんです。写真も美しいでしょう? 「人体欠視症治療薬」も「肺に咲く睡蓮」も「バナナフィッシュの耳石」も、ほかにもいろんな「ないもの」が、この店にはあるんです。……いや、あったんですよ。

(金沢大学/水無月)

『アンネの日記 完全版』
アンネ・フランク(深町真理子=訳)
/文藝春秋

FIVE CHILDREN AND IT

最初の版は、アンネの日記の性の興味の部分、母親に対する批判が省かれたものだった。しかし完全版は、アンネの好奇心旺盛な、生き生きとした姿が見えてくる。初対面でのペーターの悪評価から恋におちていくところ、姉のマルゴーがペーターに興味を持っていないか心配するところなど、誰もが経験することが赤裸々に綴られている。言葉の表現も素晴らしく、ユーモアもある、そんな彼女が、隠れ家で光も遮られ、自由もなく爆発しそうな不満を抱えながら、日記に思いの丈をぶつけている。自分に向かいながら対話していくことで、見事に成長していくのがわかる。日記は途中で終わってしまうが、彼女の言うとおり「望みは死んでも生きること」その通り。アンネは今も生きている。

(愛知県立大学/黒猫)

『幸福な王子』
オスカー・ワイルド(西村孝次=訳)
/新潮文庫

All BECAUSE OF A CUP OF COFFEE

気づかなかったら無視できたのに。知らなかったら苦しまずに済んだのに。でも知ってしまったら、手を差しのべずにはいられない。ぱっと頭に浮かんだのは、「見て見ぬふりをするのは、見ないよりも罪が重い」というフレーズ。感謝されなくてもかまわない。人助けって損得だけじゃないよね。だけど……どうしてこんなに報われないの? でも、困っている人を見捨てて後悔するよりも、助けて後悔するほうがずっとすがすがしい。そう思えるから、彼らのように私自身も、人にやさしくなろうと思う。

(東北大学/ヒツジ)

『高慢と偏見』
ジェイン・オースティン(阿部知二=訳)
/河出文庫

FIVE CHILDREN AND IT

初めて出会った時に嫌いだと感じた男性を、いつの間にか好きになるということは今でもよくある話だ。昔でも変わらない、18世紀イギリスの恋の話。どうして人間はこうも高慢に満ちて、 誤解や偏見に埋もれてしまうのだろう。それはやはり人間だからであって、絶望してはいけない。 その中で、いかに陽気に生き生きと生きてゆけるかが大切なのだ。

(山形大学/とり)