読書のいずみ

読書マラソン二十選!

〜第11回全国読書マラソン・コメント大賞 受賞作品〜

★2015年6月1日〜10月10日まで開催されたコメント大賞の応募数は5,439通。今年は古典文学・名作といわれる作品から最新刊まで、個性豊かなコメントが多数寄せられ、11月2日に行なわれた選考会では選考委員も力が入りました。今回は、選考会で選ばれた金賞・銀賞・銅賞・アカデミック賞と奨励賞、そしてナイスランナー賞の一部のコメントをご紹介します。

主催:全国大学生活協同組合連合会
協力:朝日新聞社・出版文化産業振興財団(JPIC)

『方丈記』

『方丈記』

鴨長明(浅見和彦=校訂・訳)/ちくま学芸文庫

スクエアハウスじいさん。これは、どんなお話だと思うだろうか? 四角い家に住むおじいさんの話? そう、それこそが「方丈記」だ。「方丈記」は鴨長明が約800年前に書いた随筆である。古典の随筆というと、筆者の個人体験についてあれやこれや書き連ねているイメージがあるが、「方丈記」はそうではない。彼が多く取り上げたのは、当時起こった災害である。800年以上前に災害に直面した人々の姿が克明に描かれており、さながらニュースのリポートをきいているかのようだ。日本は今も昔も災害大国だ。それが身に染みてわかる。スクエアハウスじいさんの名リポート。災害を今経験している私たちこそ、耳を傾けるべきものなのだ。 

(福島大学/山本)

銀賞

『豊饒の海 全4巻』

『豊饒の海 全4巻』

三島由紀夫/新潮文庫

出会ってしまった。これからの生き方を変えてしまうような本に。世の中には青春を礼賛する小説があふれている。しかし、これほどまでに若さの持つ美しさを純粋に切り出し、赤裸で傷つきやすい姿のまま提示してみせたものがあっただろうか。それは脆く儚く、些かグロテスクでさえある、純粋な美の姿である。一生のうちでこんなにも危うい時代を、今、まさに生きているのだと突きつけられて、正直、次の一歩を踏み出すのが怖くなった。しかし、このきらめきの一瞬に、立ち止まっているひまなどない。諸行無常なこの世という広大で豊饒な海を前にすると、一抹の泡のように儚い試みかもしれないが、それでももがき、進み続けよう。それが唯一、若い今の私になしうることだと、この本が教えてくれたから……。今、この本に出会えて、よかった。

(東京大学大学院/しらたま。)

銀賞

『子規句集』

『子規句集』

正岡子規/岩波文庫

道を歩いているとふとした瞬間に目に見える景色をずっと留めておきたくなる。例えばそれは雪のように白い花であったり、気が滅入るくらい灰色な曇天であったり年季の入った道祖神であったりするかもしれない。だが無理に言葉にしようとするとそれらの風景はいびつな形で残ってしまう。だが、子規の句は彼がその目で見た風景を結晶のように見事に切り出し、透き通った輝きを放つ。病に伏して尚、生み出された子規の俳句は、不器用な僕の心を捉えて放さない。

(信州大学/冬木旅人)

銅賞

『若様組まいる』

『若様組まいる』

畠中恵/講談社文庫

十五歳の頃は、二十歳になれば自分はもっとすごい何かになれる気がしていた。今はどうにもならないことでも、大人になればなんとかなる気がしていた。しかし、実際に二十歳になったところで、自分は自分以上のものにはなれないとわかった。長瀬の感じた無力感に、共感した。明治の世では、悪事を働いた訳でもないのに旧幕臣だというだけで、本人の能力に関わりなくいびられる。大学に行きたくとも金がなく、老いた家臣のことを考えると、職の選択肢はひどく限られる。百年以上も前の時代設定なのに、若様達からは、厳しい状況に置かれている現代の若者の姿が透けて見える。そして、厳しい状況を強かに切り抜けていく彼らに、私は勇気をもらったように感じたのだ。

(愛知教育大学/きりみ)

銅賞

『華氏451度』

『華氏451度』

レイ・ブラッドベリ(伊藤典夫=訳)/ハヤカワ文庫SF

本は生きている。活字という鼓動に耳を澄ます時、私は彼らと一つになって、思考の血潮を旅する。時にはたぎる動脈に胸を焦がし、時には絶対零度の静脈の中で青白い唇を噛み締めながら。言葉の荒波に巻かれてもなお、それでも私は彼らの身の奥深くに秘められた、心臓に手を伸ばす。そして力強く拍動するその魂と手のひらが重なった瞬間、新鮮な酸素が肺に吹き込まれたような、そんな清々しさに心が透き通っていくのだ。有象無象の混み合った世界の中で自分を見失っても、本の呼吸を感じてさえいれば、私は私が生きているということを決して忘れないのだ。これは生きることの真意を失った世界で本を燃やし続けた男が、己の駆逐した本によって息を吹き返す、そんな話。今、あなたの胸に生命の火炎が昇る。

(立命館大学/輝羅)

銅賞

『やせる石鹸』

『やせる石鹸』

歌川たいじ/ KADOKAWA

まさか、踊り始めるとは思わなかった。前半は、和食の店で働く「巨デブ」の仲居が商社のプロジェクトに抜擢され、英語と料理の知識を武器に活躍し自信をつけていく話。ところが後半の章に入ると、彼女は突然ダンスを始める。そして6人の仲間との猛特訓の甲斐あって、YouTubeを通じて世界中で人気を博す。突拍子もない話だけれど、主人公のがんばりには共感してしまう。人はすぐに「〜しさえすればラクになれる、人生はよくなる」と思い込む。でもそうじゃない。主人公は思う。「自分はもう、自分の居場所を自分で作ることができる」。その自信こそがきっと、誰の人生をもラクにするんだ。

(お茶の水女子大学大学院/壁紙の花)

アカデミック賞

『ナチ・ドイツと言語』

『ナチ・ドイツと言語』

宮田光雄/岩波新書

「 正義は作れる」私はこの本を読んでそう思った。あまりにも過激なナチ思想を、アドルフ・ヒトラーは巧みなレトリックや宗教的権威づけをもって喧伝し、やがて民衆はそれを熱狂的に迎えることとなる。彼の言葉、語り口のどこに民衆の理性を失わせ、ナチズムが正しいと思わせる魅力があったのだろう。この本ではこの疑問に答えてくれる詳細な分析が述べられている。都合の良い「正義」にはご注意を! それは飾り立てた「破滅」かもしれない。

(東京外国語大学/ Ludoviko)

アカデミック賞

『社会を変えるには』

『社会を変えるには』

小熊英二/講談社現代新書

デモや社会運動というと何だか得体の知れない不気味で怖いものだというイメージを抱きがちかもしれません。実際、私もその1人でした。ですが本書を読むと、そうした否定的なイメージはあながち間違いではなく、歴史的に形成されてきたものであるということがわかります。さらに読み進めていけば、デモや社会運動に対するイメージは肯定的なものへと変化していくはずです。「デモをやって何が変わるのか」という問いは多くの人が抱く疑問だと思いますが、その答えの1つは「デモができる社会が作れる」ということです。この本は社会運動の変遷から、民主主義とはなにかを巡る古今東西の思想まで幅広く論じたオススメの1冊です。自分の無知に気づかされ、視野を広げられること間違い無し。

(東北大学/ K.N)

アカデミック賞

『風土--人間学的考察』

『風土--人間学的考察』

和辻哲郎/岩波文庫

「風土の性質はすなわちそこに住む人間の性質である」という学術的で壮大なテーマを論じた本書に最初は及び腰だったが、読み進めていくうちに知的な興奮が止まらなくなる。しかしその一方で、社会のあらゆる問題はその端を風土に発しているとあまりに鮮やかに論じられてしまうと、この社会に山積するたくさんの課題に対して私は無力だと言われているようで、現在抱える進路の悩み、迷いとも相まって落ち込まずにはいられない。いつか私なりの答えを持って風土論と対峙できるようになったとき、私はこの本を本当に読んだと言えるのだろう。私はこの本の挑戦を受けて立つ。

(大阪大学/黒田早織)

奨励賞

『城』

『城』

カフカ(池内紀=訳)/白水Uブックス

私たちにはそれぞれ名前がある。またそれぞれ何かしらに属している。しかしこの物語の主人公のアイデンティティーを示すのは英字一文字のKという名前と測量士という職業だけ。長旅を経てやっと辿り着いた村にKの居場所は無い。村の城から測量士として雇われたはずなのに仕事も無い。その肝心の城に行くことさえ許されない。Kの立場であったら、自分と相手のどちらを疑えばよいのか悩むだろう。果たして「自分」とは一体何者なのか? 時代が進むにつれて職業や団体など存在証明を示すものは増えている。一方、最近ではマイナンバー制度といったものも物議を醸している。現代はアイデンティティーの複雑化と簡易化、矛盾する両面が交錯している世の中なのだ。著者はこの本を通して曖昧な「存在」について警鐘を鳴らしているように思える。

(お茶の水女子大学/ガラスの風景)

奨励賞

『向田邦子全集 第1巻』

『向田邦子全集 第1巻』

向田邦子/文藝春秋

収録作品は短編小説集「思い出トランプ」。日常に潜む嫌悪、憎しみ、殺意……。そして少しうしろ暗い追憶。読めば思い当たることばかりでも読むまでは気づかないような微に入り細にわたる描写、それでいて冗長さを感じさせないリズム感のよい文章に、ページをめくる手が止まりません。トランプの札をめくるときのようにハラハラしながらも読み進み、読了したときには各短編の主人公がはっきりとした存在感をもってあらわれます。人は誰でも平凡な毎日のなかに他人には言えないことをもっている、そんな当然のことのほのあたたかさを感じた一冊でした。

(慶應義塾大学/あるぎにん)

奨励賞

『夏の庭』

『夏の庭』

湯本香樹実/新潮文庫

死から学ぶこと。それは、私にはまだよくわからないことである。この本は小学6年生3人組が、人の死を見たいと集まり、そしてその人の死を迎えることで大きく成長する話である。彼らの学んだことは、深い悲しみではない。未来へ生きるパワーを学び、力強くそれぞれの道へ進んでいくのだ。私にとって死とは、ただ1つの恐怖の存在であったが、この本を読んで少しだけ気がラクになった気がする。誰もが向き合わなければならない死は、どのような出会いがあるのだろうか。

(立命館長岡京高校/ジラフ)

ナイスランナー賞は、総数200点が選ばれました。今回はその中から8点をご紹介します。

ナイスランナー賞

『早稲女、女、男』

『早稲女、女、男』

柚木麻子/祥伝社文庫

どうやら早稲田には男、女、そして早稲女という性別があるらしい。年中デニムにすっぴん、一人旅が好きでいつも男子と喧嘩してばかりの典型的な“早稲女"の早乙女香夏子は立教大の親友に日本女子大の後輩、学習院大の妹、慶應義塾大の会社の先輩、そして旅先で出会った青山学院大の子に出会うことによって本当の気持ちに気づいていく。みんなには女らしくないと言われる香夏子だけども私は自分の弱さを認めることができる彼女が好きだ。だって私だって自分から逃げてしまっている女だから。

(広島修道大学/ Poco)

ナイスランナー賞

『幸せの条件』

『幸せの条件』

誉田哲也/中公文庫

“農業って、すごい。" 何となく、農業は“きつい"とか“儲からない"とか、マイナスなイメージが強い気がする。でも、決してそんなことはない。農業は科学だ。ビジネスだ。人と人とのつながりだ。この本には、そんな農業の魅力が、たっぷりと詰まっている。ただ漫然と生きてきた主人公・梢恵が農業を体験し、農家の人たちと触れ合うことで変わっていく姿にとても前向きな気持ちになれる。大切なのは“誰に必要とされるか"じゃない。自分が、“何を必要とするか"なんだ。この本はきっと、あなたに“幸せの条件"の探し方を教えてくれるだろう。

(東京農業大学/あさみ)

ナイスランナー賞

『正しいパンツのたたみ方』

『正しいパンツのたたみ方』

南野忠晴/岩波ジュニア新書

私は今年の春から大学生になった。一人暮らしをすることになり、家から運んできた荷物の中には、国・数・英等のメイン教科の教科書はなく、サブ教科として扱われている家庭科の教科書が入っていた。やはり、自分自身、家庭科は生きるために大切な教科であり、これからの自分に最も大切であると感じていたのだろう。実際に、自炊や掃除、お金の管理等を自分でやってみて、本当に親のありがたみを感じる次第である。お父さん、お母さんありがとう。また、これらのことを自分でやることで自立できるようになっていくということを凄く感じた。この本は家庭科の授業の重要さを考えさせられ、自分を振り返れる一冊であった。

(新潟県立大学/にかちゃん)

ナイスランナー賞

『放蕩記』

『放蕩記』

村山由佳/集英社文庫

「母」とは一体何なのか。結婚し、子を産んだら一人の“人間"でもなく“女"でもなく“母"にならなければならないのか。子供や夫を優先し、家を守り、理不尽なことはせず、母として常に正しくある。私は、そんな立派な母になれるとは到底思えない。しかし、自分の母には"私の理想の母"であることを無意識に求めている。そして、そこから少しでもずれていると不満を抱く。私はもう幼い子どもではない。“母"の後ろに見え隠れするものを求め、受け入れなければならないのだ。そう頭では分かっているのだけれど、抗ってしまう小さな私の心。

(愛媛大学/ 03)

ナイスランナー賞

『ムーン・パレス』

『ムーン・パレス』

ポール・オースター(柴田元幸=訳)/新潮文庫

かつて彼の頭にあった美しい庭園は次第に枯れていった――これほどまでに<ハゲ>を美しく言いかえた表現が今まで文学史上にあっただろうか。否、私は知らない。これはマジメでシリアスな作家ポール・オースターが書いた(今のところ)唯一のコメディである。526ページにもわたる長編に青年の魂の遍歴から3世代までの手に汗にぎる冒険譚が描かれ、舞台も現代のNYから、かつての西部、シカゴへと<語り>によって縦横無尽にかけめぐる。「万策尽きた人間が、声を限りに叫びたくなる。至極当然の話ではないか」。読後のあなたにもきっと叫びたくなるハズ。

(法政大学/ NIL)

ナイスランナー賞

『何者』

『何者』

朝井リョウ/新潮文庫

これまで解いてきた問題には必ず誰かが用意してくれた答えがあった。けれど就活は違う。テストみたいに単純で明確な評価軸はない。「内定」を目指して、何が正解かもわからないまま自由に自分を表現しなければならない。表現の仕方によっては、「意識高い」なんて揶揄されることも、することもあるだろう。けれど、理想の自分に近づくためには、カッコ悪くたって、イタくたって、あがくしかない。あがけ、あがけ。この本はとても酷な方法で、そんなエールを送ってくる。

(東北大学大学院/ Subtle)

ナイスランナー賞

『それから』

『それから』

夏目漱石/岩波文庫

流されるままに、生きるのは良くないことだと思っていた。なんとなくではなく、“自分の意志"を持てと言われた。しかし、代助にとってそれは、友を裏切り、社会に背くことだった。三千代への愛を突き進む彼は狂気さえ感じる。一体いつから三千代が好きで、一体いつから3人の関係は崩れ、一体いつから“こんな風に"なったのか? 全部“それから"である。

(東京学芸大学/リブロ)

ナイスランナー賞

『絶望』

『絶望』

ナボコフ(貝沢哉=訳)/光文社古典新訳文庫

なんて悲劇! なんたる皮肉! でもなんだかユーモラス! この本は、絶対に映画化できないに違いない。それでも主人公ゲルマンのうだうだしたひとりごとや、「言葉の魔術師」ナボコフのエッセンスを感じてもらいたい。だから、ぜひ読んでほしい。読めば、きっとあるとき「絶望」して、そして笑うにちがいない。

(早稲田大学/ゆうり)