読書のいずみ

読書マラソン二十選!

いつも頑張っているあなた、これから読書マラソンを始めてみようと思っているあなた、去年挫折してしまったあなた、今年は新たなジャンルの本に挑戦してみようかなと思っているあなた……『読書のいずみ』編集部は今年もみなさんの読書ライフを応援します。

和書編

洋書編

『愛の国』
中山可穂/角川文庫

『愛の国』

読み終わりたくないと思った。押し寄せる感情をコントロールできず、ページをめくる手を休めることもできないでいるのに。一文、一言、すべてが愛おしくて、ずっと物語が続いていくことを願っていた。そんな小説は、初めてだった。舞台は近未来、ファシズムが支配する日本。現実にはこうならないでほしい、とリアルに感じてしまう社会で描き出されるのは、愛の苦しみと、マイノリティの孤独。残酷で美しい、希望と絶望、祈りと死。込められているテーマはいくつもある。しかし一言にまとめると、やはり「愛」になるだろう。わたしが言葉にするとこんなにも薄っぺらくなってしまうが、それ以上の言葉を持っていない。壮大な、愛の物語。本書の表現は、これに尽きる。
ラスト、わたしは主人公に泣きながら別れを告げた。さようなら、ミチル。出会えて、良かった。

(横浜国立大学/ヘキサン)

『阪急電車』
有川浩/幻冬舎文庫

『クローバー・レイン』

何気ない行動、何気ない言葉、ふとした出来事があなたに変化をもたらした――そんな経験はありませんか? 人生を左右してしまうような大きなものから、沈んだ気持ちを前向きにさせてくれるようなささいなものまで、ふりかえってもなかなか正確には思い出せないけれど、「確かにあの時」と思える“出逢い"。そんな出逢いの物語がつまった一冊です。片道15分しかない電車の中を舞台にしているせいか、自分にもそんな出逢いがこないかドキドキしています。映画化もされていますが、個人的には原作の方が、より温かい気持ちにさせてくれるような気がして好きです。連続性はあるものの、一話完結としても読めるので、オススメです。

(信州大学/半都 綾)

『ラプラスの魔女』
東野圭吾/ KADOKAWA

『ラプラスの魔女』

謎の力を持った少女、植物状態の少年、刑事、大学教授、映画監督……。複雑に絡み合った人間関係がヒモを解かれた時、一体どんな現実が待ち受けているのか。読み終わった時は、今まで感じたことのない、言葉では簡単に表すことのできない感情が押し寄せてきました。家族とは何なのか、人一人の命の重さとは何なのか。今までの東野圭吾さんの作品とは何か違った世界を見せてもらえたような気がします。この本を読んだ仲間たちと語り合いたくなる、そんな一冊でした!!

(弘前大学/でこぽん)

『さいはての彼女』
原田マハ/角川文庫

『さいはての彼女』

持っているだけで、お守りのような心強さをくれる本がある。『さいはての彼女』はまさにそんな本。文章の力強さ、表現の豊かさ、美しさ、そしてキャラクター一人一人の性格。中でもハーレーに乗る少女ナギは物語の中で一際輝くような存在だ。一度は他人との間に「線」を感じ、それに怯え、苦しんでいた。でもナギの父は、そんな線はナギ自身が引いたものだとさとし、それを越えてゆけ、そして生きてゆけと力強く、あたたかく背中を押す。その思いが、ことばが、紙のページをとびこえて私の心につよく響いた。父の思いと共にまっすぐ生きているナギの姿を心におもい浮かべるたび、私も前を向いていこうという気持ちになる。

(東京外国語大学/ Tiiya)

『海のふた』
よしもとばなな/中公文庫

『海のふた』

「 同じ形があるんだよ」
心に傷を負って、海のある町に療養にやってきたハジメちゃんが、ノウウミサンゴを見ての一言。それは「脳みそ」のような形をしたサンゴだった。人の体の中に自然と同じ形をした物がある。見過ごしてしまえばなんてことのないことと向き合うと、おどろくべきことに出会うことがある。そんな日常のよろこびをハジメちゃんは私に教えてくれた。同じ形であることに意味はあるのか。きっとあるのであろう。

(東京農業大学/ハナ)

『世界中が夕焼け』
穂村弘・山田航/新潮社

『世界中が夕焼け』

幼い頃、仏壇のろうそくに手をのばしたことがある。透き通りながらも、青、橙、黄と移り変わる色彩が綺麗で、わたしは火をつかんでいた。「呼吸する色の不思議を見ていたら『火よ』と貴方は教えてくれる」この歌を読んだとき、わたしはあの火のことを思い出した。熱い、怖いと感じた記憶はない。ただ美しいとしか思っていなかった。その後、同い年くらいの男の子が心配してばんそうこうを貼ってくれたから、わたしは「火」を危ないものと知った。綺麗な色としか思っていなかった火が、危険な側面を持つものだと知った瞬間。もう傷は消えてしまったけど、あの日から彼に教えてもらった火がわたしの中に灯り続けている。

(千葉大学/じん)

『夜の国のクーパー』
伊坂幸太郎/創元推理文庫

『夜の国のクーパー』

まず疑うのではなく信じることも一つのやり方であること。異なる生き物同士が心を通わすことができること。なんの取り柄もないと思っている人にだって、誰かのために貢献できること。この本は、時に私が感じる「自分にはできない」という言葉が先入観であることに気づかせてくれた。「できない」のではなく、自分が「やらなかった」ことに。もし、この世界に私を必要としてくれる人がいたら、その人のために尽くし、助け、役に立ちたい。そしていつしか「クーパー」に私もなれる日を夢見て。

(南山大学/スピカ)

『短歌ください その二』
穂村弘/ KADOKAWA

『短歌ください その二』

「コンビニのおでん仕込まれ幾千の大根しみる列島の朝」
この短歌を読んでハッとした。わたしはコンビニの朝勤で毎朝大根が仕込まれているのを見ているのに、こんなスケールの大きな一体感を感じたことなんてなかった。ただの大根の歌から、全国各地で頑張る日本人の姿さえ連想した。この本に載っている短歌は全て一般人の作品だ。日常を、各々特有のフィルターで切り取って解釈した世界に引き込まれる。読み進めるうちに私オリジナルの心のフィルターも開眼したらしく、世界を特別な感傷をもって眺めるようになった。そうか、短歌って人を優しくするんだね。これから毎朝おでんを漬けながら「列島」の人々にエールを送りそうだ。

(東京外国語大学/うさのん)

『スペードの3』
朝井リョウ/講談社

『スペードの3』

朝井リョウのこれまでの作品は、言ってみれば「怒る」作品だった。物事を俯瞰したつもりになって周囲の人間を見下す者や、他人から評価されたいだけで内容が伴わない者。そうした人たちへの怒りのパワーが、作品からひしひしと伝わってきた。けれども、この作品で印象的なのは、「怒り」よりもむしろ「許し」である。エゴにまみれた欲望をもつことや、他人が評価するような物語性を自らの背景にもっていないことを、作者は許している。「それでいいのだ」という力強い許しのことばは、私たち読者に対しても向けられているにちがいない。

(京都大学/つむじ風)

『汚れつちまつた悲しみに……』
中原中也/集英社文庫

『汚れつちまつた悲しみに……』

灰がかった色の詩、私には中原中也の詩がそんな風に見えます。けれども、雪のように優しくて、もろくて、灰色の中身は透き通った白なのです。暗めの過去を想う詩が多いのに、彼の詩は何故かいつも心が温かくなります。場所も時代も違うのに、彼のとなりに静かに立って同じ景色、故郷を見ている気分になります。彼が短い人生の中、悩んで悩んで悩んでつむいだ言葉のカケラ。私はそっと丁寧に赤子を抱くように、大切にこの本を読み返すのです。

(立命館大学/中村章太郎)

『生の深みを覗く』
中村邦生=編/岩波文庫別冊

『生の深みを覗く』

チョコが好きだ。とりわけデパ地下に売っているような、いろんな味の一口サイズのが沢山入ったやつがいい。アンソロジーを読むことは、そんなチョコを食べることに似ている。いかにも苦そうなチョコも、他のチョコのついでにかじってみれば甘いソースがとろけ出す。堅苦しそうで避けていた作家も、他の作家たちにはさまれていれば挑戦しやすいし、そういう作品に限ってとてつもなく面白い。また古今東西の作品が織りなす共鳴もアンソロジーならではだ。ダークチョコとミルクチョコを交互に食べると味わいが変わるように、複数の作品を合わせて読むことでそのメッセージも変わってくるような気がする。そして私は未知なる味を求めて、再びアンソロジーをめくるのだ。

(北海道大学/松竹梅)

『忘れられた巨人』
カズオ・イシグロ(土屋政雄=訳)/早川書房

『忘れられた巨人』

カズオ・イシグロの10年ぶりの新作。それに見合う以上の価値を持った作品だと思う。手探りの序から、徐々に霧が晴れていくように事実が見えてくる。表面上はいつまでも、アクセルとベアトリスの物語に違いない。だが、一歩離れたところから改めてこの物語の問いを考えてみると、その大きさに身震いがする。なにが幸せなのだろうか。知ること? 本当に、そうなのだろうか。今の全てを壊してまで欲することなのだろうか。霧が晴れた世界に、なにを見るのか。大きな、大きな問いを秘めた巨人のように、静かな物語だ。

(早稲田大学/かりんとう)

『それでも人生にイエスと言う』
V.E.フランクル(山田邦男・松田美佳=訳)/春秋社

『それでも人生にイエスと言う』

1946年の講演の翻訳である。「愛されている人間は役に立たなくても、かけがえがない」として、フランクルは「非生産的」な生活を送る人のかけがえのなさを語る。それはこの講演において、またフランクルの思想においてほんの一部にすぎないが、「一億総活躍社会」という言葉に薄気味の悪さを感じる今、自分の違和感を説明する言葉を与えられた気持ちになった。全員が生産的でなければならない社会が「一億総活躍社会」だとすれば、その社会は役に立たない者が排除される社会へとまっすぐにつながっている。もし、排除されて収容所送りになったときには、この本をもとに生き延びたい。

(お茶の水女子大学大学院/壁紙の花)

『職業としての小説家』
村上春樹/スイッチ・パブリッシング

『職業としての小説家』

皆さんは小説を、誰のために書くのか、どのように書くのか、そしてなぜ書き続けるのか、気になったことはありませんか? これらの問いに対する作家たちの答えは十人十色でしょう。そこが小説の魅力のひとつなのだと思います。本書は村上さんがどうやって小説を書いてきたかを語った本であり、それはほとんど、どうやって生きてきたかを語っているに等しいものです。そのため、小説を書こうとしている人にはもちろん、生き方を模索している人、つまりほとんどすべての人に総合的な示唆と励ましを与えてくれると思います。生き方に正解はないということを暗に示してくれることによって。

(東北大学/ K.N)

『サンドイッチの歴史』
ビー・ウィルソン(月谷真紀=訳)/原書房

『サンドイッチの歴史』

サンドイッチはすごい。世界中の誰もがあらゆる場面でサンドイッチを食べている。学校でも病院でも戦場でも広場でも家庭でもサンドイッチは食べられる。のんびりしながらも多忙な中でもそれは可能だ。必要なのは食欲と片手だけで、もう片方の手は何をしたって自由。だからこそサンドイッチは正式な食事のしきたり、我々を解放できたのだ。そんなサンドイッチを語る著者のサンドイッチに対する愛情には脱帽である。ところで私は、ペンを進める度にサンドイッチが食べたくて仕方がなかった。大変おなかが空く本なのだ。長い歴史や世界を感じながら食べるサンドイッチは、今までとちがう味がするはずである。

(立命館大学/田口さくら)

洋書編

和書編

The Cat in the Hat
Dr. Seuss / Random House

The Cat in the Hat

アメリカの絵本作家と言えばDr.Seuss。彼の代表作がこの“TheCat in the Hat"。あいにくの雨で遊びに行けない兄妹のもとを訪れたのは、帽子をかぶったネコ(?)。家の中をぐちゃぐちゃにしたり変な友達をつれてきたり……お母さんが帰ってくるまでに家に平穏を取り戻せ!というお話。さすがに絵本は幼稚……と思うことなかれ。奇想天外な展開、そして言葉遊びを楽しむのに年齢は関係ない。ポップな絵を眺めるだけでも楽しめる。プレゼントにもおすすめ。

(東京大学/任冬桜)

The Fault in Our Stars
John Green / Dutton Books

The Fault in Our Stars

ヘイゼルの、肺の中には水たまり(water)。心の中には彼(Waters)がいる。16歳のヘイゼルがガン患者支援サークルで会ったのは、元患者のオーガスタス・ウォーターズ。二人を結ぶのは一冊の本。思いは水の都アムステルダムまで届くのだけれども……。散りばめられた言葉とメタファーは、星。眠りに落ちる時のように、ゆっくりと、そして一気に、魅了されてしまう。あのタイム紙が「天才的」と評した若者小説の最高峰に、心を委ねてみてください。

(東京大学/任冬桜)

Confessions of a Shopaholic
Sophie Kinsella / Bantam Dell

Confessions of a Shopaholic

“Shopaholic" とは……? そう、「お買い物中毒」。お買い物大大大好きのレベッカ。ルームメイトに家賃を肩代わりしてもらったり、銀行マンから逃げ回ったり。それでいて金融雑誌でライターしてるって……あきれるかと思いきや、彼女、憎めないキャラなんですね〜。むしろ共感してしまいます。中毒性、あり。イギリス英語のスラングが出てきますが、辞書を引けば読めるレベルだと思います。邦訳版や映画版もあるので英語でなくても楽しめます。

(東京大学/任冬桜)

The Moonlight Palace
Liz Rosenburg / Lake Union Publishing

The Moonlight Palace

Agnes Husseinはシンガポール最後の王族の末裔として産まれた。しかし王家は貧窮を極め、一族の住むKampong Glam Palaceは老朽が進み、今にも崩れ落ちそうなほど。見る影も失った王族の周りには、彼らの特権を奪おうとたくらむ勢力が渦巻く。友情、恋、そして裏切りなど多くを経験しながらAgnesは自分の家族、そして一族の誇りであるKampong Glam Palaceを守るために奮闘する。シンガポールの複雑な歴史に基づきながら、1人の少女の成長物語を美しく描き出した作品。

(東京大学/ A.R)

The Catcher in the Rye
J.D. Salinger / Back Bay Books

The Catcher in the Rye

これぞ、青春小説。邦題は「ライ麦畑でつかまえて」。一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。学校から退学処分を受けた16歳のホールデン。ニューヨークをさまよいます。大冒険を冒しているようでやはりまだ16歳。妹の前では優しいお兄ちゃんです。妹の問いかけに対して、青く尖った言葉の本心をゆっくりと語ります。うん、確かに、そんなことを考えていたなぁ、と思わずにはいられません。友達に話しかけるような英語で読みやすい名作です。

(東京大学/任冬桜)