読書のいずみ

読書マラソン二十選!

授業や就活、研究などで忙しい日々を送っているみなさん、読書をしていますか。今回も昨年の全国読書マラソンコメント大賞に寄せられた素敵なコメントのなかから、編集部が選んだ作品を20点をご紹介します。熱中症予防に水分をとりつつ、今夏も活字のシャワーで心に潤いを、脳に刺激を!

『あかねさす』
加藤千恵/河出文庫

『あかねさす』

「恋する気持ちは昔も今も変わらない」? 少なくとも古典を読んでそれに共感できたためしが無かった……、この本を読むまでは。作者のフィルターを通して語られる新古今和歌集は、まるで現代の私の気持ちを代弁してくれているよう。歌集としても、短編小説としても楽しめます。読めば和歌も恋も、きっともっと好きになれる一冊です。

(名古屋大学/鈴はら)

『世界から猫が消えたなら』
川村元気/小学館文庫

『世界から猫が消えたなら』

幼稚園の時に大事にしていたおもちゃ箱、小学生の時に作った秘密基地、すべて私にとってかけがえのないものだったのに、私たちは成長と引き換えに、多くのものを失っていった。失うことは恐怖であるけれど、日が経つにつれて、大切なものは増えて、その重みは人を苦しめる。年を重ねるほど大切な “モノ" は “ヒト" へと変わる。果たして私は大切な人へと “愛" を伝えているだろうか。少しの言葉で人は傷つき、人は喜ぶ。目の前から愛する人が消えてしまう前に、伝えたい言葉はもう決まっている。

(立命館長岡京高校/たまちゃん)

『さがしもの』
角田光代/新潮文庫

『さがしもの』

私は本に恋している……読み終えて、すぐに思った。本屋や図書館の棚の間を、背表紙をながめながら歩くときのワクワク。眠りにつく前にベッドのなかで「あと1ページだけ」と思いながらページをめくるドキドキ。こんなにも心を動かすものはないだろう。しかも、それは一瞬のことではない。今は何とも思わない本が、5年後10年後にはお気に入りの一冊になるかもしれない。面白い本に出会えた時の喜びはもちろんだが、たまたま隣に座った人が同じ本を読んでいたときの嬉しさには言葉では表すことができない。そんな気持ちに気づかせてくれたこの本を、10年後に読み返すのが今から楽しみだ。

(愛知教育大学/ゆうゆう)

『図書室のキリギリス』
竹内真/双葉文庫

『図書室のキリギリス』

この本を読んで、小学生の頃、司書の先生に本をすすめてもらったことを思い出した。そういったこともあって、今では司書を目指している。そんな私にとって、この本は司書の現実と理想をみせてくれる、とても素敵な一冊だった。はじめのうちは、ただ、本が好きで司書になりたいと思っていたが、司書は本好きだけでは務まらない。本だけでなく、人ともつながっていけることが司書になる上で魅力なのではないだろうか。

(同志社大学/関 詩紘)

『トリガール!』
中村航/角川文庫

『トリガール!』

以前から鳥人間コンテストには「いつか水面に落ちて壊れてしまう機体を必死で飛ばす」というイメージを持っていた。軽率かもしれないが、なんであんなに全力になれるのか分からなかった。でも、この本と出会い鳥人間コンテストへの考えは完全に変わった。空を飛ぶということは、重力に逆らうこと。だから飛行できてもいつまでも続かず、いつかはまた地上へ落ちる運命なのである。それでも自分たちの作った機体を1cmでも長く飛ばしたいと願う仲間たち。飛ぶことは一瞬かもしれない。でも、それまでみんなで努力してきた日々は一生の宝物となるだろう。純粋でひたむきな彼らを、読者として力強く応援してほしい。

(岡山大学/あさみ)

『夏美のホタル』
森沢明夫/角川文庫

『夏美のホタル』

誰もが心の中に持つ原風景、夏の日、主人公慎吾は恋人夏美と共にかけがえのない人々と出会う。そして始まる自然の中での生活。美しく、切なくも温かいそんな作品である。人は一人では生きていけない。だからこそ支え合い、助け合い、励まし合いながら生きているのだ。そんな当たり前すぎて忘れてしまいそうになることを思い出させてくれた。本書を読み終えると、今まで出会った人々に「ありがとう」、そう伝えたくなった。

(梅光学院大学/バンブー)

『おまえじゃなきゃだめなんだ』
角田光代/文春文庫

『おまえじゃなきゃだめなんだ』

それなりに女性としてちやほやされてきた。それなりの男性を選んでもきた。でも、なぜ私はこんなにも幸せじゃないのだろう。見た目や評判を気にするのは誰だって同じ。でも、今、あなたのまわりにこう言ってくれる人はいますか?
「おまえじゃなきゃだめなんだ」。本当の幸せって何? 自分らしい生き方って? 
最後に主人公がたどりついた答えは、きっと私たちの背中をやさしく押してくれます。

(神戸市外国語大学/ my)

『サラバ! 上・下』
西加奈子/小学館

『天翔る』

主人公垰歩の人生にわたしは夢中でついていった。「僕はこの世界に、左足から登場した。」この言葉から、わたしと垰歩の旅が始まった。歩は生まれながらにして端正な顔としなやかな体を手にし、皆から愛される術を知っていた。なので、わたしはこの歩という船に安心しきって乗っていたのだ。この旅がこんなにも波瀾万丈なものになるとは予想すらしていなかった。家族、友情、愛、そして信じるということ。全てに疑問を投げかけ、最後に見えたものに心が震えた。

(鹿児島大学/ハウル)

『天翔る』
村山由佳/講談社文庫

『スペードの3』

生きるのがつらいとき、どうするだろうか。心に傷ができたら、どうするだろうか。人生という長い道のりの中で、立ち止まるときもあるだろう。そんなとき、この本を読んでみてほしい。彼女は馬と共に前に進むことを選んだ。何度立ち止まっても、前を向く。少しずつだけど、前へ進む。彼女のまっすぐな思いがきっと背中を押してくれる。

(甲南大学/マタタビ)

『命売ります』
三島由紀夫/ちくま文庫

『命売ります』

これは “愛の物語" だ。主人公の羽仁男が命を売っていたにもかかわらず、なぜ急に命が恋しくなったのかを考えた結果、たどり着いた答えが“愛の物語" だった。少女漫画に出てくるような甘酸っぱい恋愛ではなく、深く、濃く、ねじれた愛……。
いずれも自分のために死んでいく女を目の前にして、はじめて羽仁男が感じた本物の愛。まさに彼が求めていた愛なのだ。人はいつも愛を求めているから、ふと寂しさでいっぱいになった時に死んでしまいたくなる。いつでも、どこでも、誰でも、愛されたいんだ。

 

(同志社大学/ぶぅ)

『僕は、そして僕たちはどう生きるか』
梨木香歩/岩波現代文庫

『僕は、そして僕たちはどう生きるか』

学校に通っていた時、顔のない「みんな」の影に私はいつも怯えていた気がする。いじめ、なんてたいそうなものじゃない。もっと笑い声にあふれていて、明るい場所で行なわれる、やわらかい「同調」への圧力。みんな一緒に、みんな仲良く。主人公はそんな「普通」のなかで、親友の心を殺してしまう。殺していることに気がついていたのに、流されてしまう。私はずっと、そんな群れのなかで、首をしめられていたと思っていた。けれど違うのだ。顔のない「みんな」は鏡をのぞきこめばそこにいて、加害者だった自分の無邪気さに、私は怯える。

(千葉大学大学院/ m.f)

『海炭市叙景』
佐藤泰志/小学館文庫

『海炭市叙景』

朝6時半に起きて、9時から大学の講義を受け、12時半に昼食でメロンパンを食べ、午後4時には帰宅する。なんとなく過ぎる1日であっても、何も考えないでは上手いこといかないのだから、不思議である。この1冊を読んだらこんな風にふと自分の1日について振り返ってみたくなった。善し悪しはともかく、生きているんだなとぼんやりと思えて、そのぼんやりがとても心地よく感じられた。とてもリアルで生々しく、一瞬を切り取っているのにその人のこれまでの人生を読み取ることが出来そうで、手に取れば人々の生活の息遣いが聞こえてきそうな一冊だった。

(立命館大学/森杏奴)

『希望の地図』
重松清/幻冬舎文庫

『希望の地図』

僕は「被災地」にいたが、「被災者」ではない。家族を失った人もいれば、家、宝物、友人、故郷の街並み……数え切れないほどのものを失った人がいるからだ。同じ被災地にいたということがただ、恥ずかしくなるばかりである。でも、まだ間に合う。
未来への希望、亡くなった人の思いを背負って、これからの未来を創造していかなくてはならない。震災から4年が経ったが、「被災」は今も続いている。過去から受け取ったバトンを、僕も含め日本中のみんながつないでいかなくてはならない。

(東京学芸大学/ヨコッチ)

『イレギュラー』
三羽省吾/角川文庫

『イレギュラー』

村が水害に遭い仮設住宅での生活を余儀なくされたニナ高の野球部は、決して品行方正なスポーツマンたちではありません。中でもエースのユーキは反抗的な態度をとりますが、一本筋の通ったかっこよさがあります。青春小説の枠にとどまらず、災害というやりきれない現実の上に紡がれる物語には、差別や偏見、貧困など、様々なことを考えさせられました。それでも読了後「明日も頑張ろう!」という気持ちにさせてくれる、清々しい物語です。

(京都大学/あさちゃん)

『鉄の骨』
池井戸潤/講談社文庫

『鉄の骨』

人生には、様々なストーリーが同時に存在している。仕事、恋愛、家族。全ての舞台で時間は流れ、時にそれは思わぬところで交わりをみせる。自分の中の正義感と現実の間で葛藤する主人公。それぞれの生活の中で次第に世界観が変わってゆく恋人。
談合という「必要悪」をテーマに添えながらも物語は渦を巻きながら展開し、一冊の中にそこはかとなく切なさが残されていく。

(九州大学/はる)

『火星の人』
アンディ・ウィアー(小野田和子=訳)/ハヤカワ文庫

『火星の人』

約1億5千万平方キロメートルの荒野——火星の上にたった一人で取り残された男の、絶望的なサバイバル。ただ、それだけ。500頁を超える紙幅を費やして描かれるのは、宇宙飛行士マーク・ワトニーの過酷な生存闘争。ただそれだけだ。だが、たったそれだけで、この小説はすさまじく面白い。たぶんそれは、生きるということが、生き延びるというその行為自体が、そもそも面白いことだからだ。ワトニーはそれを、決して絶えることのないユーモアと共に私たちに教えてくれる。私たちは生きている。なにもなくとも生きていく。でもたまには、自ら「生きる」ことの面白さも思い出すべきだ。

(帯広畜産大学/阿部屠龍)

『野心のすすめ』
林真理子/講談社現代新書

『野心のすすめ』

あまり良い印象を持っていなかった「野心」という言葉。ギラギラしていて野心家などと称される人には、近づきたくないとさえ思っていました。けれど、著者の言う野心を持っている人とは、好奇心旺盛な努力家で、なんとも魅力的な人物でした。
もちろんそれは著者自身でもあるのですが。コンプレックスさえも味方につけて、毎日を楽しみに生きる。そして、身の程よりも少しでも上を目指す。そういう生き方のモトが野心だとすれば、私の野心も育てていこうと思いました。

(松山大学/たぬき)

『読書力』
齋藤孝/岩波新書

『読書力』

私は、自分では人よりも本を読む方だと思っている。だから、この本のはじめを読んだ時、「読書の魅力なんて言われなくてももう分かっている」と思っていた。しかしページを読み進めるにつれ、その考えが間違っていたことを知る。この本を読んで私は、自分が今まで気づいていなかった読書と自分の関係性について知った。読書は想像していた以上に深い影響を私に与えていた。そして、今までこの本を、新書をほとんど読んでいなかったことを恥じ、残念に思った。この本は、読書の魅力を知らない人たちにはもちろんだが、読書を愛する人たちにこそ、読んでほしいと思う。そして、読書の魅力を再発見してほしい。

(愛媛大学/サヤ)

『友だちリクエストの返事が来ない午後』
小田嶋隆/太田出版

The Moonlight Palace

我々が頭を抱える多くのことの一つは人間関係、なかでも友だちについてではないだろうか。この本は、友だちがどういう存在なのか、またどうやって作られるのか、そしてどうなっていくのかを著者のエピソードと交えながら教えてくれる。ちょうど地元の友だちとの関係に悩んでいた私は、この本にかなり救われた。現代では「友だちが多い=人間として魅力がある」という考えから、コミュ力という言葉が重視されている。しかし、それで本当にいいのだろうか。それに無理して合わせる必要はあるのか。友だちは自分にとってなんなのか。はりつめていた空気を、笑わせながら抜いてもらった、そんな気分になれる。

(立命館大学/田口さくら)

『りんごかもしれない』
ヨシタケシンスケ/ブロンズ新社

The Catcher in the Rye

最初は、ふふっかわいいと笑ってしまう。きっと絵本ってそういうもの。でもこの絵本は、かわいいだけじゃないのです。ページをめくっていくと、不思議な世界に迷い込めます。不思議でかわいいりんごの世界に。
目の前にある何かひとつで、私たちはこんなにも考えられる。それをこの本は思い出させてくれます。ほら、あなたが今読んでいるこの紙は、ただの紙じゃないかもしれない。言葉を食べちゃういたずらっ子かもしれないし、聞こえないくらい小さい声で音読してくれている恥ずかしがり屋さんかもしれない。考える面白さは、日常をわくわくでいっぱいにしてくれる。

(愛知教育大学/よじ)