【主催】全国大学生活協同組合連合会 【協力】朝日新聞社/出版文化産業振興財団(JPIC)
大学生の、大学生による、大学生のための読書推進の取り組み「読書マラソン」。
学生たちが自分の手と言葉でつづった本の紹介コメントには、今を生きる若者のリアルな思いが詰まっている。
このなかから、あなたの生涯の一冊が見つかるかもしれない。
大学生に幅広い本との出合いを提供するため、「4年間で本を100冊読もう」を合言葉に全国の大学生協が展開している「読書マラソン」。生協店舗に置いてある専用のカードに読んだ本のおすすめコメントを書き込むと、カード1枚につき1個ずつスタンプがたまり、その数に応じて生協利用券などの特典と交換することができる。このなかから特に優れた作品を選んで表彰する「コメント大賞」の選考会が、11月1日に東京の大学生協杉並会館で行われた。
応募作全6059点のなかから、第一次選考を通過した261点と、専門書が対象の「アカデミック賞」候補27点について、審査委員が一人ずつ推薦作と推薦理由を述べていく。「単なる感想文ではなく人にすすめるコメントになっているか」「実際にその本を読んでみたいと思わせる力があるか」「コメントを書いた本人の気付きや行動変化につながっているか」といったポイントに沿って討議が重ねられ、何回かの投票を経て徐々に点数が絞られていく。長時間に及んだ選考の末、最終的に全委員の賛同によって金・銀・銅賞その他が決定された。
早稲田大学の永江朗教授をはじめ複数の委員が指摘したように、今年はいつになく全体のレベルが高く、最終選考に残った作品にはいずれも大きな差はなかった。また、今の大学生が置かれた状況への不安を反映したコメントも目立ったが、そのなかでも前を向いて進んでいこうとする明るさや力強さのある作品が高い評価を得た。読書マラソンは現在も継続中で、コメント募集は年間を通じて行われている。今後もぜひ多くの大学生に参加してほしい。
石川千秋さん(お茶の水女子大学 1年)
書名『県庁おもてなし課』
角川書店/著者 有川 浩
冒頭に置かれた「ない」という否定的な言葉の連続。しかしその後の思考を経ることで、末尾の「ない」は全く違った印象を与える。その構成の鮮やかさと、余韻を残す最後の一文で審査委員の心をつかんだ。
まず、このような素晴らしい賞をいただけることをとても光栄に思います。ありがとうございました! 「自分が今までに読んだ本よりも、まだ読んでいない本の方が多い」という話を先日読み、本当に、「本の海」という表現がぴったりなくらい、本の世界は無限に、豊かに広がっていると感じます。そのなかで、一冊の本に出会うことは、人と人との出会いと同じく一期一会で、一種の運命のようなものだと思います。
読書マラソンのコメントを通じて、幸せな出会いがより多くの人に共有されれば嬉しいです。また私自身も、もっと本の海にどっぷり浸かっていきたいです。
大宮明香さん(東北学院大学 3年)
書名『絶望名人カフカの人生論』
飛鳥新社/著者 フランツ・カフカ(頭木弘樹編訳)
マイナスとマイナスをかけ合わせてプラスに転じるような「逆説的な面白がり方」がユニークと好評を得た。その一方で、「絶望」を語る言葉に大学生が共感する背景には、彼らが置かれた厳しい状況があるとの声も。
この度はとても素晴しい賞をいただき、ありがとうございます。
最近は沢山の本を読むことだけで満足し、その後のあらすじや感想を考える、読み返して新しい発見をする、それらを文章にまとめるといったことを全くしていませんでした。
今回、久しぶりにコメントをまとめてみて、一冊の本と向き合うこの行程の難しさや面白さに気づくことができました。
これから暫くは新しい本に手を出すことをやめて、一度読んだきりで本棚に収めてしまった本をじっくりと読み返していこうと思います。
西田 かおりさん(東京工芸大学 4年)
書名『舟を編む』
光文社/著者 三浦 しをん
同じ著作を取り上げたコメントは他にもあったが、「作品の魅力をコンパクトに伝えている」「本人のなかで何が変わったかが明確」という二点で評価が高かった。「自分は言葉が好きだ」と いう素直な気付きがいい。
この受賞の知らせを聞いて、本当に驚きました。何故なら、わたしが本を読み始めたのは大学1年次の時からで、ことばで何かを表現することにあまり自信がなかったからです。読書マラソンは大きなきっかけでした。
知らない世界を知る、それが近くなっていき、自分のものになる。それは自分の行動範囲が少しずつ広がっていくような感覚で、今まで経験したことのない種類の感動を知りました。最近、興味があり韓国語を独学で勉強しています。
違う言語で本を味わい、心に響く感動を人々と共有できたらと想像するだけでわくわくします。これからの新しいことばとの出会いが楽しみです。わたしは今、ことばが好きです。素敵な賞を頂き、本当にありがとうございました。
大園芽生さん(津田塾大学 4年)
守田一郎様、あなたの恋文読ませて頂きました。「恋文の技術」なんてタイトルだからどんなスペシャルテクニックかと期待して読んだのに、書いてあるのはひねくれ者でヘナチョコなあなたのおばかなお手紙ばかり。そして九通に及ぶ伊吹さんへの失敗作。あまりにひどくて思わず電車の中で吹き出しちゃったじゃないですか。でも十通目は、あれは確かに恋文でした。あ~、私も手紙書こうかな、あの人に。。
悩める女子大生
藤本元子さん(千葉大学 3年)
淡々と、けれども台風みたいなスピードとエネルギーで、描かれる一族の繁栄と衰退。読み終わった後、自分は何年分年をとってしまったのかとぼんやりし、いけない、どこか遠い国でおばあさんの語りを聞いたかのように、フィクションには到底思えなくなっていた。
物語の終わり、一族最後の赤ん坊が
「愛によって生を授かったのはこれがはじめて」と記述されており、思わずゾクリとした。では、それまでの血脈は何だったのか。誰も愛し合わずに、誰もが孤独のまま、生き、死んでいったというのか。
これは架空の話だ、と言い聞かせる。けれどこんなにも生々しいのは、根底にドクドクと流れ続けた孤独、それが、私の中にも流れていると知っているからではないのか?と気がついて、軽い目眩がした。
竹田知世さん(早稲田大学 2年)
松葉杖がなくちゃ歩けない「きみ」と、病気の「きみ」、どうしても意地をはっちゃう「きみ」に、いつも補欠な「きみ」…。人は誰も完璧ではなくて、失敗もする。時には大切な誰かを傷つけたり、いつの間にか1人ぼっちだったり。
いっぱい悩んで、いっぱい泣いて、でも、だからこそ嬉しい時、心から笑えるんだと思う。だからこそ、大切な友だちの存在が大きいんだ。1人じゃ辛いことも、友だちと一緒なら立ち向かえる。
ちょっぴり下手クソな「きみ」たちのそれぞれの物語。次の「きみ」は誰だろう。次の「きみ」を支えるのは誰だろう。なんだか少し疲れちゃった時、きっとこの本がきみの心も温めてくれる。
佐々木 織さん(名古屋大学大学院 2年)
建築とは更新してゆく作業なのかもしれない。
時代をうつし、過去の営みを受け継ぎ、これからへとつながってゆく。家を建て、壊し、建てる。壊れても、なお建ててゆく。それは、人の肯定してゆく生き方に重なるように思えるのだ。人の暮らしを包み、まさに建築は人生とともにある。その建築に対する筆者の語り、そしてひとつひとつの建築は味わい深く、視点や発想のひろがりを与えてくれる。
「僕にとって建築をつくることは、現実を押し広げることである。」と筆者は、人間の生がより豊かになる可能性を見出している。その姿勢は筆者の生き方であるとともに、建築に希望の光を感じさせてくれるのである。
布施京悟さん(山形大学 2年)
最近、「幸せ」や「プラス思考」を求める人が増えてきている。心の不安は社会的な広がりを見せてきている。この本は、人としての幸福のあり方を考える上で大きな助けとなる。私が特に驚かされたのが、「幸福=苦痛の回避」という考え方であった。えてして私達は、所有や名声を幸せと結びつけがちであるが、この本では、そんなものは人間の一大迷妄だと否定している。それは「幸福」 ではなく「快楽」であり、快楽の追求は苦痛を伴うからやめろと言うのだ。私は衝撃を受け、目からウロコボロボロだった。それから私は、もう一度幸せについて考えてみた。すると、今までの日常の何でもないことが急に輝きだした。寝ること、食べること、寒さをしのげること。幸せは日常の平穏にこそあったのだ。私の心から幸せが失われる前にこの本に会ってよかった。もしかするとこの出会いが一番幸せかもしれない。
田中万貴さん(帯広畜産大学 3年)
「獣医さんは動物のことなら何でも知ってて、どんな病気でも治せる、動物のプロフェッショナルだ」と私は幼い頃から信じきっていた。飼っているウサギの具合が急に悪くなったら、どこの獣医さんでも診てくれると思っていた。しかし、ウサギを含む珍獣の診察はアマゾンへの冒険のようなものだったのだ。大学でも学ばない未開拓の地へ足を踏み入れる獣医師は日本でも僅かしかいな
い。そんな中この本からは「どんな動物でも救いたい」という獣医師の熱意がひしひしと伝わってくる。その想いが、ページを捲る私の手を止めなかったのかもしれない。
動物を飼ったことがある、飼おうとしている全ての人に読んでほしい。人間の身勝手で飼われ、病気になってしまう動物を1匹でも多く救うために。
吉越 文さん(東京大学 1年)
第2次世界大戦下、強制収容所へと送られるユダヤ人精神科医の著者。愛する家族も、人間としての尊厳も奪われ、偶然が生死を支配する極限の状況において、彼は人間の光と闇を克明に描き出す。命をつなぐだけの食べ物にさえ事欠く中で、一片の紙に記録をとり続けた著者の熱い心と冷静な眼差し、人間に対してなお抱く希望が、辛いとき、苦しいときに前に進む力を与えてくれる。読んだ後も動悸が止まらない。
畑本彩乃さん(山口大学 3年)
言葉というものが怖いと一番痛感する時は、誰かからの言葉にショックを受けた時だ。「あの人だからそんなつもりで言ったんじゃない」と頭で理解しようとしても、傷ついた感情がついてこない。同時に、自分も何気なく人を言葉で傷つけているのではないかと恐怖でいっぱいになる。言葉の重みにたえきれずに、口を閉ざしてしまうほうが楽ではないか。この本を読むとほのかに心が温かくなる言葉がいろいろうつる。辛い浮世で紡がれる言葉はシャボン玉のようだけど、きっと誰かの胸中に残るものもあるだろう。自分が言って楽しくなる言葉から、まずスタートしたいと思った。
ナイスランナー賞とは、最終選考まで残った作品のなかから、上位入賞作品を除く200点の作品に与えられる賞。
評論家・早稲田大学
文学学術院 教授
永江 朗氏
若い人たちの言葉の力が低下している、文章を読み解いたり、自分の言葉で表現したりすることが苦手な人が増えているといわれますが、このコメント大賞を見る限り全然そんなことはありません。日頃からツイッターなどに親しんでいる影響も大きいのだと思いますが、コメントカードの短い文章のなかに、人を引きつける書き出しがあり、読ませる論旨の展開があり、ちゃんとオチまでついていたりする(笑)。そういう技術はむしろ今の大人よりたけている気がします。
震災からある程度の時間が経過した今年になって、その体験を踏まえたコメントが昨年よりも増えたことも印象的です。しかもテーマ的には直接関連のない本を、震災後の自分の生き方と結びつけて読んでいる。未来に明るい展望を持ちにくい世の中で、学生たちは大人が思うよりずっと真剣に、自分たちのこれからを考えているのだと思います。
感覚的に理解しやすい現代作家の人気が高い傾向はあいかわらずですが、欲をいえば、もう少し骨のある古典などを読む人が増えてくれるとうれしいですね。わかりにくいし共感もしにくいけれど、読み通すことで他では得られない知識や感動を与えてくれることが古典の魅力で、そういうものほど後になって「読んでおけばよかった」と思うものだからです。そのことは、年を取れば必ずわかります(笑)。
僕は、「困っていること」がある人にはいろいろな本を読んでほしいと思っています。本を通して時代も国も違う人たちと「対話」することは、自分の問題を解決するのヒントを与えてくれるからです。(談)