読書推進

 第12回 読書マラソンコメント大賞 優秀賞発表

【主催】全国大学生活協同組合連合会 【協力】朝日新聞社・出版文化産業振興財団(JPIC)

「4年間で本を100冊読もう」をスローガンに、全国の大学生協が実施する読書推進運動「読書マラソン」。
今年はライトノベル(ラノベ)から古典まで幅広いジャンルの本の推薦コメントが寄せられ、より読書を“自由に楽しむ"学生が増えていることを思わせる結果となった。

選考で重視されたのは“文字量"よりも“熱量"

「読書マラソン」は、全国の大学生協で実施されている読書推進運動。大学生協に置かれている専用のコメントカードに本の感想を書いて投稿すると、カード1枚につきスタンプが1個もらえ、このスタンプは大学生協で使える割引券などと交換できる。そして、毎年全国の大学から寄せられたコメントから優秀なものを選び、表彰するのが「全国コメント大賞」だ。

今年も11月1日に大学生協杉並会館(東京)で選考会が行われた。はじめに事前選考で残った200点以上の候補から各審査員が8点前後のコメントを選び、そこからさらに優秀作を絞り込むのだが、今年は比較的スムーズに受賞作が決定した。

ただし、各コメントにはっきりとした優劣があったのかといえばそうではなく、200点近くのコメントから各自が8点近くまで絞り込む作業は、かなり困難を極めたようだ。実際、審査員の永江朗さんは200点近い候補をまず30点ほどに絞ったが、そこからさらに優秀な作品を選ぶのにとても苦労したという。

そんな今年の選考で例年以上に重視されたのは“文字量"より“熱量"。「本好きでない人も手に取りたくなる」「読んだことのある本でも改めて読みたくなる」コメントが優秀作に選ばれたのは決して偶然ではない。読書から得た感動をコメントカードでほかの誰かに伝える「読書マラソン」は、同時に「読書リレー」でもあることに改めて気付かされる選考会だった。

コメント
森田佳穂さん (立命館大学3年)

表紙
書名『坊っちゃん』
夏目漱石/新潮文庫

書評

正直者がバカを見る世の中の構造は100年経っても変わっていない。それでも本当のことを書いた古典文学に共感する気持ちが伝わってくる点が高く評価された。書き出しで読者を引き込む言葉選びも秀逸。

●喜びの声

小説『坊っちゃん』の舞台・松山は私の出身地なので、やはり縁はあるものだなと思いました。賞をいただけると聞いてとても驚いたのですが、ふと自分の書いたコメントを思い出して、こんな内容で大丈夫だろうかと不安になりました。ちょっと正直になり過ぎた気もします。
けれども、選ばれたということは、共感してもらえる部分もあったのではと思い、うれしくもありました。ありがとうございました。


コメント
内村佳保さん (早稲田大学5年)

表紙
書名『原爆詩集』
峠三吉/岩波文庫

書評

書き手が詩や言葉の力を信じる力を持てたことで、読み手もまた、詩や言葉の力を信じることができる内容を多くの審査員が評価した。行間を読む感受性の豊かさに、審査員から「うらやましい」との声も。

●喜びの声

このたびは、選んでいただきまして、誠にありがとうございました。


銅賞

書名『寺山修司少女詩集』 寺山修司/角川文庫

森谷 円さん (弘前大学3年)

表紙

少年少女の、きらきらとして、つかめなくて、どこか危うく、ずっと奥まで澄んでいるものを、詩という形に表現した作品たち。夢見ているような詩から、死などを連想させる詩まで、多岐にわたる作品たちの、一見バラバラに見える部分には、じっとよく見ると、若い人間の心が共通してあるのだと感じた。
永遠には続かない少年少女の時代。いずれ失われていく時だから、その時にもっている感覚を言葉にしたようだった。だから誰にも分からなくても良いのかもしれないとも思ってしまう。そんな詩が書ける寺山修司はすごい人だと思った。

銅賞

書名『紀ノ川』 有吉佐和子/新潮文庫

永島奏子さん (津田塾大学3年)

表紙

土と水の香りがする。紀州の、少し湿ったような。それでいて、澄んでいる。ページをめくるたびに、情景が眼前に浮かび上がる。
有吉佐和子の言葉は、まるで和歌山の語り部のように、生々しく鮮やかな色彩の物語を伝えてくれる。物語は、明治時代、祖母である花の嫁入りから始まる。伝統の教育をその身に受け、花は自分の子どもや夫、〈家〉に尽くす。しかし娘の文緒は大正の女で、伝統に縛られることを嫌った。そのまた娘、華子は戦後世代の女だ。〈家〉を知らない彼女は、花に導かれるようにして、伝統に惹かれていく。それはきっと、かつての〈家〉に、たおやかでありながら力強い紀ノ川のような生命力を見出したからであろう。

銅賞

書名『永遠の出口』 森 絵都/集英社文庫

大河原優花さん (横浜国立大学1年)

表紙

これこそ、私が探していた物語だった。物語を読んで、私はいつも思うことがあった。それは、省略されている、ということ。例えば昔話。めでたしめでたし、その後は?
桃太郎は成長した。その間は?
今、私が生きている日々はそういった物語の“省略"された部分。けれどそこを語ってくれる物語はない―、そう思っていた。
見つけていないだけだった。“普通"の女の子が日々を生きて、成長していく。その過程のどこかに、読者である私たちは自らの日々を投影することができる。投影することで、自分は間違っていないんだ、と思えた。

銅賞

書名『たべる しゃべる』 高山なおみ/文春文庫

頼本奈波さん (愛媛大学3年)

表紙

高山なおみさんのステキなところは“明日は何を作ってあげようか"と思うところ。私なら“明日は何を食べようか"と思うのに。それに今は誰かのためにではなくて自分が食べたいものをとにかく作りたい。
だから高山さんのように誰かに対してごちそうしたい、という気持ちに大きな愛を感じる。いつか私も“あなた"に食べてもらいたい料理を作るんだ。


奨励賞

書名『習慣の力 The Power of Habit』 チャールズ・デュヒッグ 渡会圭子=訳/講談社

横尾ちえさん (お茶の水女子大学大学院2年)

表紙

習慣を変える必要があると、真剣に感じていた。どうして朝、起きられないのだろう?
1日9時間も眠った挙句、昼寝をすることすらある。そして、研究が、少しも進まない。起きている時間のほとんどを、やらなければならないが重要ではないことに取られた上に、つまらない娯楽やメールを返すことにも使ってしまう。
ほんとうに自分を変える必要がある。この本を読んで習慣について知っても、行動を変えるには努力が必要だ。省みて分析し、意志の力も使わなければならない。でももう習慣について理解したから、私はそれを変える。

奨励賞

書名『もの食う人びと』 辺見 庸/角川文庫

村上晴香さん (愛媛大学3年)

表紙

高校生の頃、大好きだった国語の先生にすすめられて読んだ。あの頃よりも、この本は今の私たちに必要な事を提示しようとしている。
食べ物、食べ方、食べる量を見れば、その人やその社会が分かる。政治や社会情勢に関して苦手意識があったが、この視点ならなじみやすかった。自分の食べ方はどうだろうか。もう一度、見直したい。


奨励賞・ナイスランナー賞

他にも力作がたくさんありました。選考会で注目されたコメントの一部を紹介します。

アカデミック賞

書名『生物千一夜物語』 ジーン・K・ハンソン、ディーン・モリソン 澄川精吾、池田比佐子=訳/心交社

吉村 栞さん (お茶の水女子大学3年)

表紙

自分って無知だなあと思う場面は至るところである。その最たる例は奇想天外な動物の生態を知ったときではないかと思う。理科や生物の授業で、生き物が環境に適応するために遂げてきた進化に、よくできているなあ、と感心してきた。なのに地球上には、どうしてそんな厳しい茨の道を突き進むのだろうかと不思議に思わずにはいられない生物だっている。これが当たり前だろうと信じきっていた常識が、たった1つの生き物の存在を知るだけで、全く別の色に塗り変えられてしまう。この瞬間、無知を恥じるよりもワクワクした好奇心が出てくるから楽しくてたまらない。

アカデミック賞

書名『「大発見」の思考法 iPS細胞 vs. 素粒子』 山中伸弥、益川敏英/文春新書

成田明未さん (慶應義塾大学2年)

表紙

2008年ノーベル物理学賞受賞者である益川先生と、2012年ノーベル医学生理学賞受賞者である山中先生の対談本です。「大発見」がどのように生まれるのかを考えるとてもいい参考になります。特に面白かったのは世界的2人の研究者の人生フラフラ歴です。益川先生は自ら意識して、山中先生はいろいろな壁にぶつかりながら何度も方向転換をして、フラフラと寄り道をしながらキャリアを積んできたのです。人生を直線でただまっすぐ歩んできたわけではありません。興味があること、本当にやりたいことを考えながら歩んできたんだなと励まされます。

アカデミック賞

書名『外来種は本当に悪者か? 新しい野生 THE NEW WILD』 フレッド・ピアス 藤井留美=訳/草思社

高森悠圭さん (早稲田大学4年)

表紙

生態系は共進化の果てに築き上げられたひどく繊細なものという考えが日本国内では支配的であるが、本書はこの通念を否定する。本書によれば、生態系というものはむしろ変化するものであるという。
アマゾンの熱帯雨林やアフリカのジャングルも、“手つかずの自然"ではなく、人の手が入った末に生まれたものであるというのだ。本書は外来種や人の手の入った自然に対する観念を粉砕し、これまでの常識を一転させる記述に満ちている。この世に新たな常識を打ち立てる一冊である。


ナイスランナー賞

書名『告白』 湊かなえ/双葉文庫

奥田彩加さん (東京学芸大学3年)

表紙

思わず息を止めて読んでしまうような恐怖を感じながらも、ページをめくるのをやめられない。本書は私の苦手とする「ミステリー」である。舞台は誰もが馴染みのある、学校。
担任の娘が殺された。犯人はそのクラスの生徒。最初は、ホームルーム中に犯人探しをするのかと思ったが、違う。担任は最後まで教師としてあり続け、穏やかな口調で予め分かっていた犯人への制裁を行うのだ。
登場人物たちは、皆普通の人である。どこにでもありそうな普通の学級。普通の家庭。そこから生まれた少しの歪みは、あからさまな狂気よりも現実味を帯びる。怖い。

ナイスランナー賞

書名『十年交差点』 中田永一 ほか/新潮文庫nex

鈴木優奈さん (北見工業大学1年)

表紙

「10年」というテーマで描かれる5つの短編集。私にとっての10年と、誰かにとっての10年は本当に同じ長さで、同じ速さで流れているのだろうか。例えば、1週間前に生まれた赤ちゃんにとっての10年はとてつもなく長い。たくさん泣いて首がすわって、喋って歩いて走り回って、友達と喧嘩して仲直りする。
私のこれからの10年。新しくなにを学べるだろう。自分の言動にもっと責任が生じる。世界がこれまでの比でないくらいに広がってゆく。これまでに積み重ねてきたものと、これから積み重ねてゆくもの。どちらも大切にしたいと感じる一冊。

ナイスランナー賞

書名『人生エロエロ』 みうらじゅん/文春文庫

後藤涼佳さん (東京農業大学短期大学部1年)

表紙

「エロ」という言葉は言い換えるだけで一変する。「エロス」では高貴に、「エロティック」でオシャレになる。しかし、この本はそんな高貴でもオシャレでもない。本当に腹を抱えてバカ笑いをするような男子学生ノリのバカバカしい「エロ」である(褒め言葉)。
著者の学生時代から繰り広げられるエロ話はドン引きでも生々しくもなくフフッと読んでいて笑えてしまう。今や「マイブーム」「ゆるキャラ」の立役者だからこそ書ける大爆笑必至の長編映画のような一冊だ。「エロ」以外の懐かしい知識も老若問わずおもしろい。

「ナイスランナー賞」を輩出した50校

ナイスランナー賞とは、最終選考まで残った作品の中から、上位入賞作品を除く200点の作品に与えられる賞。

  • 北海道大学
  • 酪農学園大学
  • 札幌学院大学
  • 北海道教育大学
  • 北見工業大学
  • 室蘭工業大学
  • 東北学院大学
  • 東京大学
  • 早稲田大学
  • 法政大学
  • 慶應義塾大学
  • 東京農業大学
  • 千葉大学
  • 横浜国立大学
  • 横浜市立大学
  • お茶の水女子大学
  • 東京外国語大学
  • 武蔵大学
  • 埼玉大学
  • 跡見学園女子大学
  • 一橋大学
  • 東京学芸大学
  • 津田塾大学
  • 白梅学園大学
  • 明治薬科大学
  • 信州大学
  • 茨城大学
  • 名古屋大学
  • 愛知教育大学
  • 静岡大学
  • 京都大学
  • 立命館大学
  • 立命館中学・高校
  • 大阪市立大学
  • 大阪大学
  • 神戸大学
  • 甲南大学
  • 兵庫県立大学
  • 岡山大学
  • 広島修道大学
  • 梅光学院大学
  • 松山大学
  • 愛媛大学
  • 徳島大学
  • 高知大学
  • 西南学院大学
  • 佐賀大学
  • 長崎純心大学
  • 立命館アジア太平洋大学

ラノベ・古典の隆盛から感じた学生の読書に対するスタンスの変化

永江 朗氏
評論家・フリーライター
永江 朗

今年のコメントに目を通してまず感じたのが、学生の読書の二極化傾向です。ラノベと古典文学のコメントがとにかく多かった。これは学生の読書傾向が偏っているというよりも、現役作家の力不足なのかもしれません。例年よりも堅い内容の本を読んでいる学生が多いわりに、新書が少ないのも印象的でした。最近の新書に安直なビジネスマン向けの物が多いこと、書き手が固定しがちなことも要因なのでしょう。

一つひとつのコメントを読み込んで感じたのは、読書へのスタンスの変化でした。アニメやコミック、ゲームなどとのクロスメディアが盛んに行われている昨今、読書は特別なことではなく「数ある楽しみの一つ」になっているようです。今の学生は古典の名作をやみくもにありがたがって読むのではなく、きちんと自分の視点を持って読む。あるいはラノベを単なる娯楽として読み流すのではなく、本質やテーマを探りながら読む。それは「読書は崇高なもの」「古典は偉い、ラノベは娯楽」といった固定観念から解放された世代の新しい読書スタイルです。彼らのコメントを見て「ラノベ読む学生、あなどりがたし」という思いが強くなりました。

彼らのほとんどは、義務教育で朝の読書運動などを経験しています。乱世を生き抜くために必要なヒントや情報が本の中に山ほどあることを知っている世代だからこそ、手元から離れても心に残る本との出会いを、これからもたくさん経験してほしいですね。 (談)

「100冊はあくまで目標。読書習慣を身につけて」


愛媛大学の青桐書店は、読書マラソンサークル「LA・BOOK」のメンバーと生協が一緒になって立ち上げた“学生が関わる書店"です。青桐は四国や九州に分布し、夏の季語にも使われる植物。別名を「悟桐」といい、松山市出身の俳人・河東碧悟桐の名前の由来にもなっています。この書店名は、「LA・BOOK」のメンバーがアイデアを出し合って決めました。

原則として、青桐書店の運営を行うのは「LA・BOOK」のメンバー。彼らが読んだ本のなかから“ほかの学生にもすすめたい本"がセレクトされ、青桐書店に並びます。選書の基準を広く設定したことで様々なジャンルの本が集まりました。

読書マラソンは「大学生活の4年間で100冊を目指して本を読もう!」という趣旨で始まった企画です。4年間で100冊を達成するのは簡単なことではありませんが、あくまでもそれは目標。まずは自分のペースで読書を楽しむ習慣を身につけてほしいですね。

一冊の本を読み終えた学生がその本についてコメントし、そのコメントが別の学生とその本の橋渡しになる―。そんなつながりこそが、読書マラソンのだいご味かもしれません。本を読んで得た感動や本の魅力を、他人に伝わるように精いっぱい表現するという読書マラソンでの経験が、学生の将来への助力になることを願っています。

愛媛大学生活協同組合 生協ショップひめか 高野将宏