読書推進

 第14回 読書マラソンコメント大賞 優秀賞発表

【主催】全国大学生活協同組合連合会 【協力】朝日新聞社・出版文化産業振興財団(JPIC)
写真:北海道大学生協 学生組合員のみなさん(北海道大学生協書籍部クラーク店にて)

「4年間で本を100冊読もう!」をスローガンに、全国の大学生協が実施している読書推進運動「読書マラソン」。14回目を迎えた今年の「コメント大賞」は、例年以上に幅広いジャンルからレベルの高い推薦コメントが集まった。

ハイレベルな作品の数々に例年以上に難航した審査会

 「読書マラソン」は、全国の大学生協で実施されている読書推進運動。大学生協に置かれている専用のコメントカードに本の感想を書いて投稿すると、カード1枚につきスタンプが1個もらえて、その数に応じて大学生協で使える割引券などと交換できる。さらに寄せられたコメントの中から優秀なものを選び、表彰する「全国コメント大賞」も毎年行っている。14回目を迎えた今年も、11月1日に大学生協杉並会館(東京)で選考会が開かれた。
 応募総数3,266点から1次選考を通過した138点と、専門書を対象にした「アカデミック賞」の候補39点が、評論家でフリーライターの永江朗氏をはじめ、大学生協職員や現役の大学生らによって選考された。例年、受賞作は比較的スムーズに決まることが多いのだが、今年はレベルの高い作品が多く、選考は難航を極めた。選考委員からは「優秀賞に選びたいコメントが多すぎる」との意見が挙がる。そして何度も協議や投票を重ね、「どんな本か読んでみたくなる」「文章の構成や表現がいい」といった評価を得たコメントが選ばれた。
 コメントを書くことを前提にした読書は、深く本を読み込むことにもつながり、多角的な考えが生まれるきっかけにもなる。さらにインプットとアウトプットをつなげて考える習慣を持つことは、社会に出てからも役立つはずだ。読書マラソンを通じて、より多くの大学生にこうした経験を積んでもらいたい。

コメント
益本佳奈さん (立命館大学3年)

表紙
書名『時をかけるゆとり』
朝井リョウ/文春文庫

書評

「この本を読んだことで人生がどのように変化したかが具体的に書かれていて、どんな本か読んでみたいと思った」「この本を本当におすすめしているのだという気持ちが伝わってきました」などの声が挙がった。

●喜びの声

この度は「読書マラソン」コメント大賞に選んでいただきありがとうございます。うれしさよりも驚きの方が大きく……正直なところ「大丈夫かな?」という気持ちです。つたない文ではありますが、大好きなこの一冊を、大きく紹介できたことをうれしく思います。


コメント
母里真奈美さん (東北学院大学4年)

表紙
書名『さよならクリームソーダ』
額賀澪/文春文庫

●喜びの声

驚きました。まさか自分が選ばれるとは思っていませんでした。私は、金賞・銀賞関係なく、本に対する他人のコメントを読むのが好きです。そこは、本への熱意と書いた人自身の性格がよく表れる、1つの物語だからです。私のコメントが多くの人にこれから読まれることを光栄に思います。最初で最後の銀賞をありがとうございます。私のコメントを推していただいた方に感謝いたします。


銅賞

書名『ぼちぼちいこか』 マイク・セイラー 今江祥智=訳/偕成社

川口黎子さん (帯広畜産大学6年)

表紙

この本は小さい頃の寝る前の絵本読み聞かせレパートリーの1冊だった。就学前の気楽なお子ちゃまであった私はカバ君の愉快な失敗と母のネイティブな関西弁とを何も考えずに楽しんでいた。しかし半年程前、間もなく最終学年へと進級しようという頃、すなわち就活を目前に控えた頃にふと再読した時にはそんな楽しみ方はできなかった。本屋で見かけ、懐しさからつい立ち読みしていると、子供の頃は面白いとだけ思っていた内容がグサグサと刺さること刺さること。「あれになれるやろか」→「アカンかった」、「これになれるやろか」→「ムリやったわ」の繰り返しに就活戦線でことごとく返り討ちにあう自分の未来をかさねてしまい、読み終える頃には私の心は落ち武者かハリネズミのようになっていた。。。しかしこれだけ刺されまくったからこそ、最後の焦らずマイペースで「ぼちぼちいこか」というフレーズが心にしみるのだろう。

銅賞

書名『マイ国家』 星新一/新潮文庫

中村日向香さん (法政大学1年)

表紙

彼の物語はいつも銀色の味がする。それはとっても香ばしくて、私の胃袋を刺激する。彼はいつも少し未来の話をする。辺りにスパンコールが散りばめられているような、目のチカチカする物語。それはとってもフルーティーで、やっぱり私の胃袋を刺激する。異質なのにどこか人間的。無機質なのに生温かい。だから引き込まれる。直線では終わらない。斜め46°から入り込んでくる文字たち。この現実の闇を映し出した夢の世界。奇妙奇天烈。奇想天外。最初は全く見えないのに、最後の最後で私の目をこじ開ける。後味の悪い、でも爽快な、アベコベパラダイス。私の脳内、いつの間にか宇宙。君の脳内も、あっという間に銀河系。ゾワッとワクワク。ドキドキバキューン。美味しすぎるから、もう止まらない。

銅賞

書名『おとな小学生』 益田ミリ/ポプラ文庫

赤道春瀬さん (岡山大学4年)

表紙

ずっと子どものままでいられたらなあ、なんて思ってはや幾年。いつのまにか大学卒業間近である。最近は子どものころの記憶も薄れてきてしまった。だけど先日、こんな話を聞いた。「子どもの感性を失えば、つまらない大人になってしまう」。がーん……。このままではいけない、そう思っていたときこの本に出会った。読んで、いろいろ思い出した。たとえば、当時ふたごのねずみの絵本がすきだったこと。海に行く話は、貝がらが宝石のように美しかったなあ……。よかった、子どものころのきもち、まだ残ってる。ときどきそっと思い出してみよう。これからもよろしくね、小さい私。


アカデミック賞・ナイスランナー賞

他にも力作がたくさんありました。選考会で注目されたコメントの一部を紹介します。

アカデミック賞

書名『管理される心:感情が商品になるとき』 A.R.ホックシールド 石川准、室伏亜希=訳/世界思想社

藏田典子さん (京都大学大学院2年)

表紙

「ありがとうございました」とびっきりの笑顔を駆使し、誰かのために生きている。レジ打ちのアルバイトをして、何年経つのだろうか。私たちは適切な感情を求められる。結婚式では喜んだフリ、お通夜では悲しんだフリ、いつから演技者になったのだろうか。また、客室乗務員や店員に対して、「笑顔」を期待するのはなぜだろうか。私たちは知らない間に、つくり笑顔をする事に慣れ、また、笑顔で接客することを要求しているのではないだろうか。このような感情まで搾取してよいのか。私はこの本を通じて、感情労働のありふれた社会に疑問を持つようになった。感情は自分のモノである。世間が求める適切な感情と違っていたとしても、私は自分の感情に従って生きたいと思う。

アカデミック賞

書名『寝ながら学べる構造主義』 内田樹/文春新書

豊田陽子さん (岡山大学4年)

表紙

この本を読むまでは、自分の思考や感情は自分の内側から出てくる自由なものだと思っていた。しかしこの本を読んで、本当は社会システム等といった自分の外部にあるものが自分の内面を操作していると知り、ショックだった。自分の外的環境が自分の想いを決めるのであれば、意識的に勉強したり見聞を広めたりして少しでも自分の内面を豊かにしたいと感じた。勉強しなかったがために自分の考えが貧弱なままであり、ひょっとしたら貧弱であるということさえ気付けずに一生を終えてしまうかもしれないのは、あまりにも勿体無さすぎる。


ナイスランナー賞

書名『夢があふれる社会に希望はあるか』 児美川孝一郎/ベスト新書

西山祐平さん (名古屋大学2年)

表紙

小学生の時、簡単には宇宙飛行士になれないと父に教わった。中学生の時、ずっと好きだった女の子に振られた。高校生の時、第一志望校は諦めろと担任の先生に肩を叩かれた。これまで幾多の挫折を味わってきた僕たちは、夢があふれる社会が希望に満ちているばかりではないことを知っている。けれど、俯く顔を上げた先にいる、がむしゃらなあいつの姿は、目を背けたいほどにバカバカしくて、でもやっぱり羨ましいほどにキラキラしている。夢の両義性を自らの人生に突きつけ、夢との向き合い方を学べる一冊である。

ナイスランナー賞

書名『言えないコトバ』 益田ミリ/集英社文庫

佐藤綾花さん (長崎純心大学3年)

表紙

言葉は、時代を越えて変わっていく。昨日まで使っていたものが、1日にして古くなってしまうことさえある。近年、日本語の乱れが話題になっているが、一方で表現の幅が広がっていると考えられないだろうか。案外、身の回りには「このコトバが登場するまで、一体、なんて言ってたんだっけ?」という言葉が見つかる。著者は「新しいコトバを取り入れている人に会うと柔軟性」を感じると言うが、たしかにそうかもしれない。私たちは日々、無意識の柔軟性によって新たな言葉の文化をつくり、反対にこれまでの文化を殺してしまっているのかもしれない。この本の中の言葉は、果たして未来でも通用するのだろうか。

ナイスランナー賞

書名『ハーモニー』 伊藤計劃/ハヤカワ文庫

伊藤羽寿樹さん (北海道教育大学2年)

表紙

「死」は「生きている証」である。「それは脳死状態を指すのか」とか「生きていた証の間違いじゃないのか」といった風旛之論が飛び交うだろう。だからこそ問いたい。「死」という圧倒的な事実を前にして「生きている」ことの絶対的論拠はどこにあろう。「完璧」と謳われた、システムや共同体なるものが「完全」であることを証明できる人間はどこにいよう。彼女は、やさしさが絡みついたこの世界が「不完全」であることを、人間の「死」を通して証明したのだ。「生」という事象において「完全」なものは「死」だけであることを証明したのだ。進んだ時代が常に正しいとは限らない。彼女の意思を「完成」された文字に起こしたこの一冊が、現代社会への警鐘となるだろう。

ナイスランナー賞

書名『人間失格』 太宰治/新潮文庫

片桐知佳子さん (慶應義塾大学3年)

表紙

大丈夫だよ、なんて軽々しく言うな。誰が自分の葛藤を知っているのだ。もがき、闘い、血反吐をはけども、失格の烙印が押される-。生が描く痛み、無垢な発狂、「罪と蜜」。この愛しくて狂おしい物語は、万の顔をもつにちがいない。

ナイスランナー賞

書名『ビロウな話で恐縮です日記』 三浦しをん/新潮文庫

中村菜々聖さん (大阪市立大学2年)

表紙

あなたは日記を書いたことがあるだろうか。ちなみに私はない。理由は単純明快、「誰かに見られたら恥ずかしいから」だ。だって日記って他人に見せることを前提として書くものじゃないし、自分の、人には見せられないような部分を書き記したものだもの。私の日記が家族や友達に見つかって、私の知らないところでそれが読まれる……ああ、考えるだに怖ろしい。だから、この本を読んで思ったのだ。「三浦しをん先生はすごいな」と。自分の日記を、こんな風に惜し気もなく、私たちに見せてくれるなんて。しかも内容が面白い。人の日記って、読んだら面白いのだ。そりゃそうだ。その人の日々や考えたこと、価値観、内面、魂が、日記には綴られているのだから。誰かの楽しみになれるなら、日記を書くのも悪くないかなと思った。……だからって、すすんで人に見せるほどの勇気は無いけども。

「ナイスランナー賞」を輩出した53校

ナイスランナー賞とは、最終選考まで残った作品の中から、上位入賞作品を除く200点の作品に与えられる賞。

  • 北海道大学
  • 北海道教育大学
  • 室蘭工業大学
  • 弘前大学
  • 東北大学
  • 東北学院大学
  • 尚絅学院大学
  • 東京大学
  • 早稲田大学
  • 法政大学
  • 慶應義塾大学
  • 東京農業大学
  • 桜美林大学
  • 横浜国立大学
  • 横浜市立大学
  • 東京外国語大学
  • 武蔵大学
  • 東洋大学
  • 埼玉大学
  • 東京学芸大学
  • 東京農工大学
  • 津田塾大学
  • 白梅学園大学
  • 明治薬科大学
  • 新潟大学
  • 信州大学
  • 山梨大学
  • 宇都宮大学
  • 茨城大学
  • 名古屋大学
  • 愛知大学
  • 愛知教育大学
  • 静岡大学
  • 同志社大学
  • 立命館大学
  • 京都府立医科大学
  • 奈良女子大学
  • 富山大学
  • 大阪市立大学
  • 神戸大学
  • 関西学院大学
  • 兵庫県立大学
  • 岡山大学
  • 広島大学
  • 広島修道大学
  • 山口大学
  • 香川大学
  • 松山大学
  • 愛媛大学
  • 徳島大学
  • 高知大学
  • 西南学院大学
  • 長崎純心大学

心に刺さる短い言葉を使い巧みにコメントを書く学生

永江 朗氏
評論家・フリーライター
永江 朗

最近の学生は、本を読まなくなったと言われています。しかし今回の読書マラソンの応募状況をみて、課題以外にも本を読んでいる学生がたくさんいる印象を受けました。小説だけではなく、古典や専門書なども読んでいて、非常に幅広い。また普段からSNSなどを使っているため、短い言葉で読み手の心に刺さることを書く技術にたけているように感じました。今回は特にレベルの高いコメントが多くて、審査をしていて面白かったです。内容を楽しむだけではなく、自分とは全く違う思考や感覚を持った他人がいることに気づけるのも読書の良さだと思います。人と付き合う予行練習にもなりますし、そこから自分の世界を広げることもできる。感受性が豊かな学生時代の読書は、後から振り返ってもかけがえのない時間であったと感じるはずです。学生時代には、ぜひ多くの本を読んでほしいですね。

 (談)

「“読書”のマラソンはゆっくりマイペースに」


 近年はSNSやメディアで話題になった本に人気が集中する傾向が見られます。小説だけではなく漫画もヒットした『君たちはどう生きるか』や、大学生協のベストセラーでもある『思考の整理学』など、ジャンルにとらわれずに読まれているように感じます。
 読書の魅力は、「今まで知らなかった世界に触れられること」です。読書をすることでさまざまな知識や語彙が得られて、想像力や思考力も培われます。言葉を知ることは他人との会話にも役立ち、知らず知らずのうちにコミュニケーション能力も向上していくと思います。だから本を読んで“ことば"や知識をたくさん蓄えてもらいたいです。
 「マラソン」というと過酷かつ孤独な戦いのように聞こえますが、「読書」は自分のペースでゆっくりと楽しんでください。

北海道大学生協書籍部クラーク店 店長 大矢かおり