ふと本と出会い、呼ばれたかのように手に取り、読み進めるうちに没頭してしまい、その世界に浸るのは読書の楽しみのひとつです。中村文則の『教団X』はまさにこの楽しみを存分に味わあせてくれます。
『教団X』というどことなく不安になるタイトル、その不安を増幅させる装丁、そして560ページを超える本そのものの分厚さに引き込まれてしまい、読み始めると奇妙な教団とその登場人物たちのエピソードが交錯する様にページをめくる手が止まりません。分厚いと思っていた本が半ばを超えると段々と今度は読み終えるのが惜しくなってきてしまうことでしょう。
ただし、これだけ引き込ませるこの本ですが、いわゆる感動巨編とは異なります。著者の中村文則は『銃』でデビュー後、『土の中の子供』で芥川賞を受賞。ここ数年は『掏摸』や『悪と仮面のルール』の英訳版でアメリカでも評価が高まっています。ミステリーのようなエンターテインメント性も兼ね備えていますが、それよりも中村文則の魅力としては純文学の、それもノワール小説とも言われる犯罪やその心理の暗部を描くところです。その中村文則自らが「現時点での、僕の全て」とまで言い切る本作はざわついた何かを読む人それぞれの心に残します。
一橋大学生協西ショップ
秋田 智之
中村文則の本を楽しみにしている方、ノワール小説が好きな方にはもちろんですが、読書の幅を広げたり、いつも読むのとは違うジャンルの小説で、でもなにか面白い本にどっぷり浸かって本の世界に揺さぶられたい!という方にはこの『教団X』を「ここに、そういう本があります。」とお渡ししたい。