生協職員からの新刊お奨めの本紹介

『夜の国のクーパー』伊坂幸太郎 東京創元文庫

著者:伊坂幸太郎
出版社:東京創元文庫

高校生までの国語教育で、この小説で作者が伝えたかったことは何ですかとさんざん問われ続けたせいか、小説を読む時には、そこに書かれたテーマを探し出さなければならないと思っている学生に時々出くわします。テーマ探しが悪いとは思いませんが、小説を読む魅力ってそれだけじゃないんだよ、なんてついつい思ってしまいます。
 僕が本好きということもあって、僕のもとには好きな本について話をしにくる学生が何人かいます。そのなかでも話をしていて面白いなと思うのが伊坂幸太郎好きの学生たちです。彼彼女たちは必ず文章や表現の魅力について語ってきます。きっと小説からテーマ探しだけをしていないのでしょう。僕自身も伊坂幸太郎は好きでよく読みますが、実はミステリーとしての面白さよりもその文章を楽しみにしているところがあります。

最近『夜の国のクーパー』が文庫化されたのでさっそく買って読んでみました。伏線とその回収劇は見事で、ミステリーとしても楽しませてもらいましたが、その文章の表現も秀逸です。『夜の国のクーパー』は敗戦直後に敵国に占拠されたとある国の様子を猫の視点で描いた小説です。そのなかの一場面で、占拠に我慢しきれなくなった住民の一人が手近な武器を持って占領軍のところに押しかけようとするところを見たとある猫が、その住民を「度胸がある」と評します。しかし、それに対して別の猫はこう答えます。


広島大学生協 北1コープショップ 書籍・英語講座担当 藤井伸行

度胸がある人間だったらもう少し、様子を見る。たぶん丸壺は、号豪も医医雄もいなくなって、不安だったんだろ。不安で仕方がなく、行動に移りたかったんだ。人間が暴れる時には、恐怖が必要だ。

思わずなるほどと思ってしまう文章でしょう。伊坂幸太郎を読むときは、こんなところにも注目して読み進めていきます。
自分の大学の生協の書籍部に行って、伊坂幸太郎の小説を1冊買って、普段よりゆっくりと文章に注目して読んでみてください。きっと小説の違った魅力に気づくはずです。