わたしは大学生協で働いています。ということは、毎日仕事するキャンパスには学生と先生方=学ぶことと教えることを生業にする人々で満ち満ちているのです。わたしたちはその学生と先生方にモノを売りサービスを提供し、お役に立つべく日々仕事に励んでいるわけで、客商売の肝は“顧客理解"であることは言うまでもないですね。
さて、現在わたしのいる大学は東京電機大学です。その少し前には芝浦工業大学にいました。そのさらに前にいたのは東京工業大学です。ど文系出身のわたしがどういう訳か理工系大学ばかりを渡り歩き、そこでお勉強がお仕事の方々と楽しくお付き合いし、“顧客理解"するには、わたしも勉強するしかないのですね。そもそも学ぶことと教えることを生業にする人たちを相手に仕事をする自分が勉強嫌いでは仕事にならないのは当たり前ですが。
接客中に「フェルマーの最終定理」だの「四色問題」だの「リーマン予想」だの謎のキーワードを突き付けられてそれっぽい本を読んだりして。とりあえずなんとなくわかったような気になることもありますが、でもやっぱりそもそも素養がないのですよ、わたしには。
かくして、たまに、数学や物理、化学をテーマにした本を手に取るのが習い性になりました。『数学ガール』『数学姫』『微かにわかる微分積分』etc.。つまりは、「こんなわたしでもなんとなくわかった気になれる」本ですね。そうやってどうにか、理工系大学の学生・先生方とそれなりに会話ができるように努力をしてきたのだという話です。
さて、長らくお待たせしました。今回ご紹介したかったのは、『浜村渚の計算ノート 8さつめ 虚数じかけの夏みかん』青柳碧人著(講談社文庫)でした。冒頭から紙幅の7割を費やして書いてきたような読み方をする奴にとって、「1+1はなぜ2になるのか」というお題に、当たり前でしょ、と一蹴することなく、正面から取り組んでくれるありがたい本。それは人の歴史の中から生まれ、ルールとして認識され、ときに忘れられときに再発見され、この場合は「公理」として人類の共通認識になったからなのだ、といったことを主人公の浜村渚ちゃん(中2)が教えてくれるわけです。本当はミステリー小説ですけど、わたしみたいな読み方をしても面白いよ、ということが言いたかったのだ。
東京電機大学生活協同組合
専務理事 山口久幸