「向田理髪店」というタイトルを見て、ちょっとした引っ掛かりがあり、手に取ってみました。理髪店というからには、都会ではないイメージと、ごくありふれた日常が描かれているのかと感じたからです。
この本は、私の期待を裏切らない、北海道のある町で理髪店主が実際に見て体験したことがその人目線で書いてある物語でした。
地方では、「跡取り問題」が切実であったり、映画のロケ地になって大物女優がやってきたり、はたまた町の出身者が全国指名手配になって地元の話題になったり・・・。そんな日常と非日常が繰り返される日々の物語です。主人公の向田康彦は家業の理髪店を継ぎ、炭鉱の町が廃れ寂しくなった中で将来を悲観するわけでもなく、過疎の町を淡々と日々を送っていることがとても印象深かったです。
私たち(日本人)には、故郷があり、故郷でずっと暮らす人もいれば、故郷を離れて仕事や家庭を持つ人もいます。私は故郷を離れた派の人間です。そういう境遇のせいか、帰省した際に父や母や親類が世間話をしているそんな光景を思い浮かべ、懐かしさのあまりあっという間に読み終えていました。
私が本を読む際には、「(主に主人公の)」生き様にどっぷりとはまって読むタイプです。今回は、後を継ぎたいという息子に驚きとうれしさを感じたり、町で起こることにいちいち「そうじゃないんだけどな」と心の中で独り言(つっこみ)を言ったりして、自然と熱くなっていました。これが読書の醍醐味!
このWEBサイトをご覧のみなさんには、文庫サイズで、本体価格600円と割安なので、ぜひおすすめしたく、紹介しました。本で心温まるなんて素敵です。帰省の移動中やちょっと時間が空いた時にぜひおすすめです。もちろん、北海道ご出身の方や、北海道旅行の予定がある方はぜひおすすめです。
最後に。あなたは、どんな「向田康彦」になれましたか?ぜひ感想交流したいですね。
信州大学生活協同組合 松本購買書籍部 副店長 山口 剛