日常生活をしていても、普通にしていたら「哲学」ってそもそも何なのかよくわからないですよね。でも書籍部で人文書を担当していると、毎日たくさんの哲学書を目にします。昔の偉い哲学者の本やその研究書はもちろん、現代の哲学者による本。特に現代哲学の本は、題名や装丁がPOPな感じだったりして結構面白そうなんですよね。そんな感じで、「ちょっと興味が湧いてきたぞ…。でもきっと中身は小難しいんだろう。」なんて思っていたら、この本が目に留まりました。
人工知能って最近すごくよく聞きますよね。自動運転やスマートフォンなど、今や私たちの生活には欠かせないものでありながら、「AIは人類を滅ぼす」みたいなちょっと怖いイメージも。この最先端テクノロジーであるAIと、どちらかというと古臭くて、延々答えの出ない問題を考えているようなイメージ(あくまでも個人のイメージです!)の哲学が果たして相容れるのか…。そんな気持ちで読み始めたのですが、面白くて一気に読んでしまいました。
AIは芸術を理解できるだの、宗教を信じるだの…一見突飛なことを丁寧に思考実験していくことで、AIも不思議と人間と変わらない存在に見えてきます。章のタイトルを見て「そんな馬鹿な」と思っていたら、章の終わりにはなるほど〜と納得してしまう。そんな不思議な体験の連続でした。
例えば分かりやすい例を引用すると、「AIは忖度できる」というもの。「忖度」は日本人特有の行動様式のように見えるけれど、AIはその権力価値を読み取り、その傾向から未来の行動を先取りする…ということで言えば「忖度」はむしろAIの得意技なのである…という訳です。
これから就職活動をして社会に出る皆さんにとって「将来はAIに仕事を奪われる」と盛んに言われていることは気になる問題ではないかと思うのですが、筆者が言うには、人間とAIの差は程度問題であって、そう不必要に恐れることはないようです。でもこれから明らかに、AIに使われる側になる人々が大多数になるだろうということは自覚しておかないといけないと言います。
不必要に恐れる必要はないけれど、今まで以上に私たちは、自分の能力や個性を大事にして、AIともうまく付き合っていくことが大事なのではないかなと思います。
哲学やAIに興味がある人にはもちろんおすすめですが、現代社会や自身の在り方について考える、よいきっかけをくれるような本でもあります。
慶應義塾生活協同組合
三田書籍部
玉木美咲