生協職員からのおすすめの本紹介

『ぼっけぇ、きょうてぇ』岩井志麻子著  角川ホラー文庫

表紙
『ぼっけぇ、きょうてぇ』

岩井志麻子著
角川ホラー文庫

ISBN
9784043596010

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「ぼっけぇ、きょうてぇ」とは、岡山地方の方言で、「とても、怖い」の意。

大正・明治頃の岡山が舞台で、女郎として働く女が自らの生い立ちを客に語り聞かせます。貧しさ極まる集落に生まれ落ち、間引き産婆の手伝いとして恨まれて生き、というよりそうしなければ生きることが許されなかった女。まさに“地獄”の、自らが背負ってきた業、絶望、閉塞感。しかしその女には大きな秘密があって……気味悪さがのしかかってくる結末に読者も客の男も背筋を凍らせることになります。

岡山弁の語り口調に、自分があの場で語り聞かされているような気分になります。いつの間にか客の男の立場に立って、女の生い立ちに同情してしまいます。ひどく痛いとか驚かされるとかそういった怖さではありません。その空間に満ちた物悲しさがむしろ怖いのです。じわっと怖い、でも物悲しい。『皿屋敷』、『四谷怪談』、『牡丹灯籠』、そういう類のお話です。表題作他3つの短編が入った1冊になります。

他の職員さんのおすすめは実用書が多く、ホラーなんて勧めていいものかと正直躊躇いました。それでも私がこれをおすすめしたのは、皆さんに、自分が行ったことない世界に行ってみてほしいと思ったからです。大学生は自由です。何でもできますしどこにでも行けます。それこそ本の世界の“地獄”なんて行こうと思ったこともないでしょうから、少しでも興味があればそこまで旅してみてほしいなと思います。それこそ新たな世界の扉が開けるかもしれません。

季節も残暑厳しい9月でぴったりです。地獄の釜の蓋が開いたような暑さなんて言われましたよね。でも実際に“地獄”を見てみるとちょっと背筋が涼しくなるんです。節電要請もされていることですし、少しだけそんな地獄を覗いてみるのも悪くないと思いますよ。もちろんホラーですから、どうしても苦手な方は無理しないようにしてください。

秋田大学生協  手形店 小池大吾
秋田大学生協 
手形店
瀬川 諒