2024.2.1 更新
『模倣犯 全5巻』
宮部みゆき著
新潮文庫
ISBN
私は宮部みゆきさんの現代ミステリー『模倣犯』を皆さんに推したいと思います。
この作品が発表されたのは2001年ですが、20年経った現在、さらに時代に刺さってきたと感じます。それは、語られている事が人間の心の核心を突いた、普遍的な内容だからだと思います。映画化・ドラマ化、2023年には台湾でもドラマ化された人気作です。
本作はいわゆる劇場型犯罪をモチーフとしたもので、様々な立場のキャラクターが登場しますが、私に一番刺さったのは、「加害者の家族」を糾弾する「世論」の存在です。
読み手としては被害者の遺族に感情移入していますので、つい加害者の家族も加害者と同列にみなしてしまっていました。その後、実際に糾弾された彼らの惨状が描かれると「こんな事を自分もしようと思ったのか」と頭を殴られたような衝撃を受けました。ひどく反省し、よく考えなくてはならない、軽はずみに動いてはいけないと心に刺さり、今も心の礎になっています。
この作品のテーマは「悪とは何か」というところではないかと思います。
明確な悪としては犯人がいますが、「名もない一人一人が取るちょっとした心ない行動」の積み重ねが現代の悪なのではないかと受け止めました。
一人一人は悪い事をしているという意識がなく、反省もしないからです。
私はエンタメ作品は読んで終わりになるものが多いのですが、本作のように人生に影響を受けたものは珍しいです。皆さんの人生のプラスになるのではないかと思い、本作を推薦させてもらいました。
今はSNSが普及したことで、当時よりもはるかに「気づかないうちに自分も誰かを叩いている」という落とし穴にはまりやすいのではと思います。気軽に「いいね」を返す前に、「これによりどこかの誰かが傷つかないだろうか」「そもそもこの情報は本当なのか」など考えてもらえればと思います。
『模倣犯』はページ数も多く読むのは一苦労ですが、ひとたび読み始めれば止まらない面白さです。ぜひ手に取ってみてください。
三重大学生活協同組合
翠陵店
美宅健介