非営利活動法人 ピルコン
染矢明日香さん インタビュー
人生をデザインすること。
多くの若者にとって性に関する悩みや不安は、とかく「恥ずかしい」「相談しづらい」と一人で抱え込んでしまうことも少なくありません。
特に大学生は、性への関心や行動が広がる年代でありながら、正しい知識や情報に触れる機会が十分ではない状況もあるようです。
性に関する悩みや相談しづらさの背景にはなにがあるのか。
これからの性教育はどうあるべきなのか。
性を前向きにとらえ、誰もが自分らしく生きられる社会の実現を目指し、包括的な性教育の普及や若者への情報発信に取り組まれている非営利活動法人 ピルコンの染矢明日香さんにお話を伺いました。
【インタビューイー】

非営利活動法人 ピルコン
染矢 明日香 さん
【インタビュアー】

藤井 優月
全国大学生協連 全国学生委員会

西谷 颯太
全国大学生協連 全国学生委員会

笹森 穂花
全国大学生協連 全国学生委員会
(以下、敬称を省略させていただきます)
性や身体の悩みについて
相談しやすい仕組みをいかにつくるか

藤井- 全国大学生協連では、学生が安心して大学生活を送り、自分らしく生きることを支える活動を行っています。その中で、学生たちの性に関する悩みや不安、疑問をどのように捉えて、周囲と共有して必要な情報につなげていくことができるのか。特に生理や避妊、将来のライフプランなど、女子学生が抱えやすい悩みについては、身近なテーマでありながら、十分に語られる機会が少ないことを強く感じています。
ピルコン様は性を前向きに捉え誰も自分らしく生きられる社会の実現を目指し、包括的性教育の普及や若者への情報発信に取り組んでいるとお聞きします。今回のインタビューでは、大学生が抱える性に関する悩みや、相談のしづらさの背景、これからの性教育のあり方、大学生が情報アップデートしていくために必要なことなどについてお話を伺いたいと思っています。では、インタビューをはじめさせていただく前に、ピルコン様の活動について教えてください。

染矢- 私はNPO法人ピルコンで理事長を務める染矢明日香と申します。ピルコンは学生時代に学生団体として立ち上げ、社会人経験を経た後、2013年にNPO法人として活動を始めました。ピルコンでは「人生をデザインするために性を学ぼう」をコンセプトに、科学的に正確な性の知識と人権尊重に基づく情報を発信。産婦人科医や助産師、性教育研究者、LGBTQ支援団体などと協力・連携しながら、若者向け、保護者向けの性教育講演・教材の制作を通じた啓発活動、政府に対する政策提言などを行っています。私自身は相談支援に関わった関係から公認心理士の資格を取得し、性や健康に関するヘルスコミュニケーションの専門家として活動しています。

藤井- 染矢さんにまずお聞きしたいのが、そもそもなぜ性の話が相談しづらいものになっているのかということです。もちろん、歴史的な背景や環境などいろいろな要因があると思いますが、ご自身はどのように思われますか?

染矢- それにはいくつかの要因があると思いますが、一つは性についてきちんとオープンに学ぶ機会がないことです。知らないことや教えられてないことを自分から口にするのはすごく難しいと思いますし、こういうことを「相談していいんだよ」「話してもいいんだよ」と言われてなければ、話すことに迷いが生じるのも致し方ないことかもしれません。
あと、若い人が性について相談しづらい背景に、「結婚する前や、子どもを産む目的以外での性行為はいけないこと」という価値観、社会的な風潮があります。妊娠、出産、子育てをしていくには、経済的に自立し、責任が持てるようになってからとか、若いうちに性的なパートナーがいると「遊んでいる」と思われたりするので、自分が性行為とか性的なことに悩んでいることを話すのが難しいという状況になってしまうのだと思います。
特に女子学生にフォーカスすると、日本の社会の中で女の子が性についてオープンに話すとか、たとえば生理のことを人前で話すのは「恥ずかしいこと」「すべきではないこと」という考え方があると思います。子どもたちが初めての性について学ぶ時から男女が分けられて、女の子だけが「生理がきたらナプキンをつけましょう」、「でも、このことは男の人とか他の人には知られないように」と教えられてきたところから始まっているのではないでしょうか。学校生活の中でも、男の子が大きな声で下ネタを言ってもあまり注意されないのに、女の子が性のことを話すと「はしたない」とか「恥ずかしい」「いやらしい」と言われてしまうような性別に関する社会的な価値観も、相談しづらさにつながっているのだと思います。
でも、そう感じてしまうのは、感じる人のせいではなくて、そう思わせてしまうような社会の価値観とか、今までの社会の仕組みのせいだと考えてよいと思いますし、そのような背景がある中で、誰もが相談しやすい仕組みを作るにはどうしたらいいのかを考えていくのがこれからの大人や社会の責任だと思っています。
多様な性に寄り添った
義務教育における性教育の重要性

笹森- 相談しやすい仕組みを作っていくためには、義務教育における性教育の在り方を変える必要があると思う一方でそこには一定の難しさも感じています。性教育で男女が分けられている理由や効果、統合することによるメリットなどについて教えていただきたいと思います。

染矢- 教育現場における男女別習の流れは、徐々に統合されてきています。性教育についても、同じ性別の人で集まった方が教えやすい、教育を受ける方も聞きやすいという声は確かにありますが、一方で男性の体を持つ人が「女性の生理について知ることができた」とか、女性の体を持つ人が「男性の性器や射精について知ることができてよかった」という声もあります。多様な性のあり方について学ぶのは大事だと思いますし、授業の中でもただ一方的に話を聞くだけでなく、たとえば「もし突然生理がきた子がいたら、どう助ける?」といった現実にも起こりうる状況の中で、自分や他の人の身体を理解して助け合い、協力し合うことが新たな性の学びにつながっていくのではないかと考えています。

笹森- 確かにそうなればもっと友だち同士で相談しやすくなるでしょうし、パートナーを持った時に、男性が女性の生理のつらさに寄り添えるようになるなど、義務教育の間にそういったことを知っておくことが将来にもすごく生きてくるのかなと思いました。私は教員を目指していて、保健体育ではないので授業として性について教える機会はないと思うのですが、保健体育や理科以外の一般の教員が生徒と関わる上で考えるべきことがあれば教えてください。

染矢- まず義務教育で教えることは、学習指導要領の中で定められています。学校の先生は学習指導要領に沿った形で教育をしていくわけですけれども、性に関する学びにおいて大切なのは、生徒の生活に即したトピックを絡めながら性について身近に感じられるように話していくことだと思います。ただ、この学習指導要領にはいわゆる「歯止め規定」と言われるものがあって、小学校五年の理科で「ヒトの受精は取り扱わない」とか、中学校の保健体育で「受精に至る過程は扱わない」といった記載があります。こうしたことに対して教育現場からは「性に関する本質や、具体的なことを教えづらい」といった声が数多く寄せられています。今(2026年7月)がちょうど学習指導要領の改定を検討するタイミングでもあるので、学習指導要領の見直しを政策提言の中で求めているところです。それ以外にも教員同士が性教育の進め方に関して学んだり、意見交換ができたりするような仕組みを作っていくことができたらいいかもしれません。
また保健体育や理科以外の先生でも生徒指導で生徒と関わる機会があるわけですから、すべての教職員に対して、性についてどう教えるのか学ぶ機会が必要だと思います。例えば、下ネタを大きな声で話している生徒がいたら「興味を持つことは自然だけど、他の人が聞いて嫌な気持ちになることがあるかもしれないよ」とか「性の話をすること自体が悪いわけじゃないけども、その話をして大丈夫かどうかは相手に聞いた方がいいかもしれないよ」などと伝えることも一つの手かもしれません。恋愛の話をする時にも「異性愛のカップルだけじゃなくて、同性のカップルや同性愛の人、恋愛をしない人もいるよね」といったことも合わせて伝えていくのは、授業で決まった形がなかったとしても、大人として社会に出ていく上で必要なことを伝えていくという意味でとても大事なことだと思います。
性教育は得た知識を活かして、
自分に何ができるかを考えること

西谷- 染矢さんは学生の時から団体を立ち上げて活動をされていたとのことですが、始められたきっかけについてぜひお聞きしたいのですが。

染矢- 実は大学三年の時に私自身が思いがけない妊娠を経験したことがきっかけでした。自分がまさかそうなるとは思っていなくて、ものすごく悩んだ末に中絶という選択をしたわけですが、こんな大事な人生の選択をする時に知識がなく、相談できる相手もいなかったことに気づいたわけです。その後、大学の友だちが避妊してくれないパートナーの存在に悩んでいることを聞いて、避妊や中絶について調べるようになりました。するとわが国では当時中絶件数が年間30万件もある(2024年度統計では年間約13万件)ことを知って「こんなにも自分と同じしんどい思いをしている人がいるのに、日本の性教育は十分ではないし、避妊の方法も知らなかった」ということに愕然として。これは大事なことだからみんなにも知ってもらおうと学生団体を立ち上げて、フリーペーパーを作って避妊についての情報発信をしたり、産婦人科の先生による講演会を企画したりといったことから始めました。

西谷- 大学生は性の関心、行動が増える年代でもあります。であればこそ大学生は正しい情報を得て、現在の情報にアップデートする必要があるのではないのかと思います。そこで性に関して大学生がこういう情報をちゃんと知っておいた方がいい、アップデートするために何が必要なのかということをぜひ伺えたらと思います。

染矢- 何を一番知っておくべきなのかは、人によっても異なります。ただ、これから大学生として生活していくにあたっては、困りごとがあった時に頼りになるサイトや相談サービスのようなところを知っているといいのではないかと思います。私たちピルコンでもさまざまな情報発信や相談受付をしていますので、是非見ていただけたらと思っています。私たちが今年行った調査によれば、15歳から25歳くらいまでの若い人たちの性に関する情報源は主にインターネットよるものですが、「信頼できるところがあるか」を問われると多くが「特になし」と答え、性に関する相談先についても「特になし」というのが一番多くて6割、学校や医療機関にいたっては1割以下というのが現実です。最近はユースクリニックとか、町の保健室とか、若い人が行きやすい相談施設が増えてきてはいるので、ぜひそういったところも探せるといいですよね。
学びというところでは、性に関して安心して真面目に話せる友だちができるといいと思います。性に関してバカにしたり、ドン引きしたりせずに、あなたはあなた、私は私といった境界線の中で話し合ったりできる人がいるとすごく心強いなと思いますし、ちょうど保護者に生活を頼っていたところから、大人として自立していく過程の中で、どの人にこういうことだったら話せる、話せないみたいなところを自分の心の中のドアを開けたり閉じたり、うまくできていくといいと思います。最近だと大学サークルでも性的同意やセクシュアリティに関する活動をしている団体もあるので、そういったところが主催するイベント行ってみる、パンフレット見てみる、活動に参加してみるというのも一つのきっかけになるのではないでしょうか。
性教育を考えたときに目指すゴールとして言われているのが、身につけた知識をもとに自信を持って、安心して人生の選択ができることに加え、さらには社会をより良くするために自らアクションできるようになるということがあります。性教育は性行為のことだけでなく、ジェンダーのこととか、セクシャリティのこととか、脆弱な立場に置かれがちな人とか、みんなが健康で安心して生きられる社会のためにできることは何か、自分が持っている力をどのように活かしていくのかを考えることでもあるのです。
ジェンダーの価値観を見つめ直すことで、多様な人が生きやすい社会の実現へ

藤井- 私たちはさまざまな情報発信やサポートを通じて学生たちに寄り添いたいと考えていますが、それだけでは十分でないことも理解しているつもりです。今現在も性について頭を悩ませている人にメッセージをお願いします。

染矢- 性の悩みとして、生理が重いとか不規則といった悩みもありますし、性行為の時にパートナーとしたいタイミングが合わない、性行為の時に痛みがある、避妊について不安…といった悩みが大学生の時期に多いと思いますが、性の悩みは本当に人それぞれです。
特に女子学生にお伝えしたいのは、あなたには断る権利があるし、誰とどう付き合いたいかを決める権利は、自分自身にあるということですね。その辛い苦しい思いはあなたが我慢しないといけないことではなくて、それを安心して過ごせるようにする責任は社会の方にあります。私たちとしても一緒に、私たちが持っている知識でより良き方向に進めるように全力でサポートしていきたいと考えています。
私たちとしては、何か困っていることがあったら教えてほしいという思いがあるのですが、一方でこんな社会を作ってきてしまって大人側として本当にごめんなさいっていう感じなんですよね。例えば相談してきた時にこれまで「そんなことを言うな」とか「それはわがままだ」とか「そのぐらい我慢しなさい」って大人や支援者から言われてきた積み重ねがあったから相談しづらいという部分もあるでしょうし、性的な被害にあい、すごく勇気を出して相談をしたのに「あなたがだらしないからだ」「遊んでいるからだ」みたいに決めつけられて怒られて更に傷ついたというケースもあります。若い人たちが自分で決めていけるよう、支えられる支援を広げていきたいと思います。

藤井- 確かに男女が対等であることは頭で認知できていても、無意識のうちに女性の方が下手に出るということが多いように感じます。

染矢- 実際には女性だけでなく男性の身体を持つ人からの悩みも多くて、「性器の皮がむけていない」とか、「マスターベーションをどのくらいの頻度でしたらいいのか」とか、そういったことは女性以上に話すのが難しいのかもしれません。ただ、それらは「皮がむけていなくても病院に行く必要はないですよ」「マスターベーションは何回しても身体に害はありませんよ」と明確にアドバイスをすればすぐに解決してしまう問題でもあります。それでもこの十年以上同じような悩みが寄せられるということは、「性器の小さい男性は魅力的じゃない」、「包茎だと女性にもてない」、「マスターベーションをしすぎると身体に悪い」といった科学的な事実と異なる情報がたくさんシェアされてしまっていることが原因となっているようです。性別にかかわらず、自身の性や身体のことをいきなり自分ごととして話すのは、やはりハードルがあることだと思うんですよね。大切なのは、みんなが知っておくべき知識として共有しておくことで、それが「自分は大丈夫なんだな」「困ったときには相談していいことなんだ」という思いにつながると思います。それでも性や身体の悩みについて話せるようになるには、やはり安心感が必要ですよね。いきなり「皆さん、初体験のことを話してみましょう」って言われても難しいですよね?そういったことを安心して話していいと思えるためには信頼関係が不可欠だし、プライバシーに関する約束事やルールも必要です。
男性自身の性とかセクシュアリティも「男だから平気だろう」とか、「男だったらこのくらい我慢できて当たり前だろう」といった偏見に苦しめられていたところがあると思うので、そういった意味でもお互いにどういうプレッシャーがあって、社会にどのようなジェンダーの価値観があるのかを見つめ直すことは、多様な性を持つそれぞれの人にとっても生きやすい社会の実現につながるのではないかと思います。

笹森- 適切な情報をしっかり発信したり、悩んだ時に相談できる場所にたどり着けるようにアドバイスすることは、私たち全国大学生協連でも担うことができると思いますし、ピルコン様とともに人生をデザインしていく活動のお手伝いができばと思いました。

西谷- 一番大事なのは、性や身体に関する悩みを安心して相談できる環境づくりだと感じました。ただ一方で難しいと思ったのが、誰も悪気があって今の社会を作ってきたわけではないということも同時に考えなくてはいけないということです。全国大学生協連としては、これから社会に旅立っていく若者にどういうきっかけを作っていくのか、声かけを作っていくのがとても大切なことかなと感じました。

染矢- ありがとうございます。皆さんのコメントがとても嬉しく、励まされました。こういったテーマに関心を持っていただいたことがとてもありがたかったです。
- 一同
- 本日は貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。
2026年7月3日リモートインタビューにて
非営利活動法人 ピルコン https://pilcon.org/
インタビュアーの感想
今回のインタビューでは、性教育の在り方や社会の現状を知り、自分や大学生協にできることをより深く考えることができました。これまで私は、正しい性の知識や教育を受ける機会が少ないことが課題だと思っていました。しかし、染矢さんのお話を通して、機会がないというよりも、その機会を設けようとする働きかけが十分ではない現状があると感じました。また、今は必要だと思う情報だけを調べる人が多く、自分の身に何か起きて初めて情報を求める傾向もあると感じました。性に関する悩みを抱えていても、「恥ずかしい」「人に相談することではない」と一人で抱え込んでいる人は、自分が思っている以上に多いと思います。だからこそ、誰もが安心して正しい情報を得られる環境をつくることが、自分たちや大学生協にできる大切な役割だと感じました。
全国学生委員会 藤井 優月
私は普段、性に関する話を周囲の人とほとんどしません。そのため今回のインタビューは、なぜ性の話題が話しづらいのかを考える貴重な機会となりました。実際にインタビュー中も、普段は避けがちな話題を扱うことに対して、どこか落ち着かない気持ちや恥ずかしさを感じました。しかし、染矢さんのお話から、その感情は個人の問題ではなく、性を話題にしづらい社会的な風潮や環境による面も大きいのだと学びました。また、多くの若者が性に関する悩みを抱えながらも、信頼して相談できる相手や場所を持てていない現状にも考えさせられました。性の悩みは誰にでも起こりうるものであり、正しい知識を得るだけでなく、安心して相談できる環境づくりが重要だと感じました。私自身も、性について偏見なく学び、必要な時に声を上げたり相談したりできる社会について考え続けたいと思います。
全国学生委員会 西谷 颯太
今回のインタビューを通して、性教育とは単に知識を身につけることではなく、自分や相手を尊重しながら人生の中で大事な選択をしていくための学びなのだと改めて感じました。特に印象に残ったのは、染矢さんご自身が大学生のときに思いがけない妊娠を経験し、知識も相談できる相手もいない中で大きな決断をされたこと、そしてその経験が現在の活動の原点になっているというお話です。教員を目指す一人として、そして一人の大人として、子どもたちや学生が性に関して悩んだときに、一人で抱え込まず、まずは友人や家族、教員など身近な人に安心して相談できる風潮をつくることが大切だと感じました。そして、その相談をきっかけに、必要に応じて医療機関や専門の相談窓口など適切な支援につなげられるよう、相談先を知ってもらうための情報発信や周知を行うことも、私たちにできる大切な役割だと思います。
全国学生委員会 笹森 穂花