大学生協の経営と決算

Ⅰ 大学生協の経営とは

大学生協の経営は、組合員の生活をより良くするというビジョンに基づき、事業活動や組合員活動を通じて実現されます。その出発点は、組合員が出資金を出し合うことであり、生協の事業は組合員の為に行われ、得た利益はすべて組合員の為に使われます。したがって、生協の財産を無駄なく活用・管理することが重要です。

また、組合員が事業を監視する「ガバナンス」の仕組みも重要な役割を果たしています。現在の経営課題としては、「健全かつ自立した経営」と「コンプライアンス経営」の二つが挙げられます。前者は持続可能で再投資可能な経営体制、後者は法令遵守や内部統制の整備を意味し、生協が社会的信頼を得るために不可欠です。
 

Ⅱ 健全な経営とは

組合員の立場で生協経営を見る

理事会の場で組合員の立場から自分自身の利用実感や周りの組合員の声を紹介しながら、経営数値を見て気づいたことや疑問に思ったことについて発言することはとてもよいことです。営業時間や品ぞろえ、接客応対やサービスについての意見を具体的に出し合うようにしましょう。

一方で、経営が大変厳しい時には組合員や大学との合意形成を大切にしながら、赤字解消を優先する施策を行う場合もあります。理事会は生協が組合員の共通財産であることにも目配りし、持続可能な経営をおこなう責任があります。

大学生協の理事会には、専門的に職業として経営に従事する専務理事以外に、学部学生や大学院生、教職員など多様な組合員の代表が集まっています。

専務理事は、理事が意見を出しやすいように適切な資料を準備しましょう。一方的に資料を説明するだけにならないように、論点を明確にして理事会で提案しましょう。

学生・大学院生・教職員の理事は、自分たちが大学生協の経営者であるとの当事者意識をもって理事会に積極的に参加しましょう。
 

組合員の利用動向を知る

生協は、組合員の出資によって運営され、組合員に役立つ商品やサービスを提供しています。その利用状況を示す「供給高・客数」は、生協がどれだけ組合員に利用されているかを表す重要な指標です。特に「組合員1人当たり利用高」は、生協の利用度を示している大切な数値です。また、供給高は店舗や部門ごとに分解し、どの店舗や商品が多く利用されているかを把握しましょう。以下は組合員の利用動向を知るための代表的な数値です。
  1. 供給高 売上高のことを生協では「供給高」といいます
    • 部門別供給高 店舗・食堂などの部門別の供給高
    • 分類別供給高 文具・食品・飲料・書籍などの分類別供給高
  2. 組合員一人当たり利用高
    • 供給高÷組合員数=組合員一人当たり利用高
    • この数値が大きいほど生協は組合員に利用されています
  3. 来店客数、組合員利用点数
    • 来店する組合員の人数や回数、利用点数が多いほど、供給高も高くなります
 

再投資できる損益構造を ~損益計算書~

次の4つの剰余で損益構造を見ます。とくに重要なのは経常剰余高です。
  1. 事業総剰余高
    • 供給高‐仕入高+その他利用収入=事業総剰余高
    • いわゆる「粗利益高」のことです
  2. 事業剰余高
    • 本業の剰余(利益)を見る剰余高
    • 一般的には「営業利益」といっているものと同じです
  3. 経常剰余高
    • 本業以外の損益を加えた生協全体の剰余(利益)
    • 一般的には「経常利益」と言っているものと同じです
    • 通常は、経常剰余高で損益を評価します
  4. 税引前当期剰余(損失)
    • 特別利益・特別損失を加えた税引き前の剰余(損失)です。
 

安定して経営できる財務構造を ~貸借対照表~

貸借対照表は、左側(借方)に資金がとっている具体的な形(=資産の形態)を書き、右側(貸方)に資金をだれが出したか(=資金調達の方法)を書きます。左と右の合計数値は必ず一致します。

貸借対照表はある時点の生協の資産・資本の状態を表しているので、健康診断のようなものと思ってください。損益計算書に比べるとなじみがなく難しく感じるかもしれませんが、ポイントをおさえて見るようにしましょう。

とくに、現金・預金の増減の理由は何か、商品在庫が増えすぎていないか、借入金が過大になっていないか、などは重要なポイントです。

損益計算書でのマイナスが積み上がり、貸借対照表の剰余金がマイナスになっている状態は累積赤字の状態です。具体的に経営再建策を理事会として検討し累積赤字の解消をしないといけません。この累積赤字額がさらに膨れていき、出資金の額を超えてしまうと、債務超過(純資産がマイナスになる状態)になります。これは経営的には最も悪い状態です。このような事態に陥る前に経営再建を成し遂げる必要があります。
 
借方 貸方
流動資産 負債の部
現金・預金 買掛金
商品 短期借入金
固定資産 長期借入金
機械・器具 純資産の部
車両運搬具 剰余金
土地・建物 出資金
資産合計 負債資本合計