大学教員×高校教員×大学生×高校生 座談会 コロナ禍における教育現場の対応と変化~失われた2カ月を、今後どのように 活かしていくのか~

新型コロナウィルス感染拡大防止策で通常とは全く異なる対応を求められた教育現場ではどんな思いがあるのか——。
東京アラートが解除されて1カ月余りとなる7月23日、大学と高校から教員と学生の方々にお集まりいただき、この間を振り返っての率直な感想をお伺いしました。東洋大学の紀葉子教授に司会をお願いした座談会は、それぞれの学生の意見交流の場となり、改めて「大学での真の学び」を考える機会になりました。

参加者

紀 葉子氏(東洋大学 教授/司会)

森田 薫平さん(東洋大学4年)

高橋 美紀さん(東洋大学3年)

柏木 浩樹氏(東洋大学生協 専務理事)

福田 晴一氏(東京都立深川高等学校 副校長)

牧野 淳史さん(東京都立深川高等学校 3年)

三浦 朝希子さん(東京都立深川高等学校 2年)

参加者の自己紹介


紀 葉子氏
(東洋大学 教授/司会)

東洋大学の紀と申します。本日は高校生の皆さんが大学進学に関して、今現在どんな思いを抱いていらっしゃるのか、率直なお話を伺えればと思います。今日は東洋大学から学生が二人来ておりますので、ぜひ生の声を聞いていただき、今現在抱えていらっしゃる様々な不安が少しでも払拭できればと思っております。

東洋大学4年生の森田薫平と申します。塾講師のアルバイトで普段から中学生に接しており、また高校2年の妹から高校生の声を聞く立場でもあります。そのあたりもお話に交えながら、有意義な時間にさせていただければと思います。

同じく3年生の高橋美紀と申します。私も高校3年の弟がおりまして、高校生の皆さんが持っていらっしゃる疑問に寄り添ってお答えできたらと思っております。併せて今現在の大学の様子もお話しできればと思います。

都立深川高校副校長の福田と申します。2月3月は卒業生もなかなか級友に会えず、卒業式は簡略化、新年度は2カ月遅れで始まってという状況でした。大学の勉強は高校とはまた違って専門性も出てくるかと思います。アドバイス等いただければ幸いです。

深川高校3年の牧野淳史です。大学に関するいろいろな情報をいただけたらと思います。

2年の三浦朝希子です。まだ大学について具体的に考えてはいないので、大学ってどんな感じなのかなというお話を伺えたらと思います。

東洋大学生協の専務理事をしております、柏木と申します。生協では毎年入学準備説明会を実施し、新入生が持つ不安や大学への期待に備えていたのですが、今年は対面での説明会が叶わず、オンラインで行ったり、ウェブで情報を発信したりという、例年とはちょっと違うかたちになりました。
今日の座談会ではお互いに情報交換をしながら、大学の学びというのはどういうものなのかということを、私たちも改めて考える機会になるかと楽しみにして参りました。

高校3年生の課題は、空白の2カ月と受験システムの改変

高校では試験が終わった直後と伺いましたが、試験中に従来と違ってモチベーションを保ちにくいなど、今現在困っていることがありますか。

今回コロナの影響で、1学期に関しては中間テストが行われませんでした。テストは期末一発勝負で、3年生にとってはその1回で1学期の評定がおおかた決まり、後々の指定校推薦や公募推薦に響いてきます。ベストパフォーマンスを見せられるとより有利に近づくけれども、失敗すると推薦が危うくなるという意味では結構緊張し、いつもとは違う心構えで挑んだというのが今回のテストの印象でした。

ただ1回の試験で平均評定が決められてしまうというプレッシャーがかかってしまったということですよね。

そのほかに授業態度も評価されるのですが、授業もあまりやっていません。提出物はネットを使って管理されるのですが、そこでも失敗すると怖いなと感じました。休校期間で確かに自由な時間が学生にはありましたが、その反面、ここで油断すると後々荷が重くなるというような感じはあったかと思います。

実際に試験を受ける機会が減ってしまうと、大学を選択する、あるいはそもそも大学に進学するかどうかを考えるときに、障害になるということがあるのでしょうか。

僕の場合、3年生当初に進学先を7、8割固め、希望の大学や学部に向けて最後の調べをして、5月には第一・第二・第三希望まで確定していました。テストも終わったのでこれから参考書の対策等を、始めていこうと思っています。

第三希望までとりあえず5月に決めて、それに基づいて勉強していくときに、従来ほど余裕がない中で緊張が高まっているということですよね。


牧野 淳史さん
(東京都立深川高等学校 3年)

入試科目の社会科の選択で、日本史・世界史・政経の中から僕は政経を取りました。ところが政経は3年で履修する科目なのです。日本史や世界史は1、2年で履修してある程度学習済みなのですが、政経に関しては4月に教材を買ったものの、2カ月開く機会がないまま、6月に授業再開となりました。本来なら政経の授業は4~11月で一通り教科書を終わらせるのですが、今回は4、5月が削られたので、僕は自学で政経をほぼ一通り終わらせました。実際の授業では教科書プラスαで入試対策を教えてくれますが、自分でより早くやっていかないとテストまでに終わらなくなってしまうので、2カ月分のロスは痛いと思います。

2カ月間放置された感がある一方で、3年生で始まる初めての科目をどう学ぶのか。それを教えられないままいきなり試験対策、入試対策に飛んでしまうことに難しさが出てきますよね。

それに関しては、理系の理科の選択も化学・生物・物理・地学の4教科あります。1、2年で基礎をやった人はいいけれどもやっていない人もおり、文系理系共通する悩みかと思います。


森田 薫平さん
(東洋大学4年)

私は一般試験で受験したので、受験の大変さはよく分かります。特に今年からセンター試験が大学入学共通テストに代わり、今の高校3年生は変化の渦中にいるので、学校の授業が全部終わらないまま受験を迎えてしまうということがあれば非常に大きな痛手になるかと思います。
ところで、先ほど高校でもオンラインで課題を提出していたとお聞きしましたが、私が高校生だった頃にはそういうものはありませんでした。ネットで質問しやすい環境をつくり、課題や勉強のスタイルを遠隔でしっかりサポートする体制ができていれば、そういうシステムを活用していけばいいのではないかと感じました。

私は推薦入試で入学しました。自分の高校時代の活動を面接でプレゼンするというものです。在籍していた特進クラスは進学に特化しており、周りは意欲的に学習していました。先生方も、放課後や夏休みに特別クラスを開いて分からないところを教えてくださいました。今、コロナ禍で授業も遠隔になってしまうと、なかなか一人でというのは難しいと思うのですが、自ら学んでいく姿勢が必要なのかなと思います。

高校までの受験勉強は大学での主体的な学びを構築する土台になる

今年の受験生が抱えている課題というのは、2カ月の空白がとても大きかっただけではなく、入試の制度が朝令暮改のようにどんどん変わっていってしまったことがあります。
2年生でも、来年の受験で一般・推薦の選択は、すでに考えていたりするのでしょうか。

私はまだあまり真剣に考えていません。大学も気軽に見学に行けない状況なので、クラスの雰囲気からも本格的に考えている人はそれほどいないのではないかと思います。

3年生は猛ダッシュで走りたくて、2年生はどっちに向かって走ればいいのか分からない。進路指導の先生も混乱されているのではないでしょうか。


福田 晴一氏
(東京都立深川高等学校 副校長)

一番大変なのが3年生です。入試のしかたが変わって、センター入試も英語の四技能もどこかへ行ってしまった、資格はどうするのだと。それを受けて私立の大学がどのように入試をしようかと迷う。2カ月間止まった部分を含めると、実際に生徒一人ひとりが希望する大学に行けるのかと不安になります。2年生も今の学びのままで本当に大丈夫かという感じですね。
コロナ禍で大学を辞めようかと考える学生もいると聞きます。大学に行く意義を教えていただけると、高校生が勉強の意欲を持てると思えるのですが、何分にも説明会も行われないので、大学の状況もよく分からない。本当に手探りですよね。

3年生の方が抱えている直近の課題がある一方で、もっと俯瞰的に、そもそも大学進学って意味があるのかとか、大学に行くことによって、自分はどういう人間になりたいのかということも考え併せていかないと、進路は描きにくいですよね。
大学生の皆さん、どうですか。大学に進学して何か変わりましたか。得たものはありましたか。

私は考察力がついたかなと思います。社会を自分で見て、自分で聞き返してという論理的な考え方です。高校生までは与えられたことをやれば何とかなってきたのですが、大学では教科書の範囲内だけではなく、自分で研究することがすごく楽しいと思って過ごしています。

高校までの学びは、知識が勝負なのですが、知識って人工知能がやってくれる時代になっているのですよ。就活をしていて思うのですが、大学で必要になるのは、学びのスタイルです。学んだことを、プレゼンテーションやレポートで、自らアウトプットをしていくのが大学の学びなのですね。また、世の中の流れを見て、多角的に様々なことを考える。それは将来仕事をしていく中で、非常に重要なスタイルになってくると思うので、そういう意味では大学で学ぶ意義は大きいと思います。

高校の学習では、いかに正しい答えを効率的に見つけ出すのかに重点が置かれます。でも大学では、答えのない問題に挑戦し、自分なりに答えを出していくという、主体的な学びをしていかなければならない。そういうときにAIに頼るのではなく、やはり相応の知識も持っておいていただかないといけません。
そうすると、知識を整理して頭の中に入れていくという受験勉強も決して無駄ではないと思うのですね。確かに今置かれている状況の中で意欲を持ち続ける難しさは、とてもよく理解できます。でも、その先に大学に来て学ぶ機会を与えられると、高校のときよりも一段ステージが上がったところで、現代社会と向き合える。今の受験勉強を空疎なものとは思わないで、やはり積極的に挑戦していただきたい。自分は2カ月放置されたと思うのではなくて、できれば「失われた2カ月を違うかたちで次に活かしていけるのだ」というふうに発想を転換し、受験勉強に臨んでいただけると、大学関係者としては嬉しいなと思います。