ロザン 宇治原 史規さん インタビュー

前から引っ張るよりも後ろから支える存在に

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ロザン
宇治原 史規 さん

大学進学を機に、自分自身で納得できる進路を見つけていくには、どのような心構えが大切なのだろうか。そして、保護者にはどんなサポートが求められるのか。京都大学からお笑い芸人への道を切り開いた宇治原史規さんが、高校生と保護者へのメッセージを語ってくれた。

宇治原史規さん(うじはら・ふみのり) 1976年大阪府生まれ。大阪教育大学附属高校天王寺校舎で、現在の相方である菅広文さんと出会い、1996年にロザンを結成。京都大学法学部に進学後、吉本興業が運営していた心斎橋筋2丁目劇場(現在は閉館)のオーディションに挑戦を続け、在学中の1998年に合格してデビューを果たす。お笑い芸人として活躍するとともに、クイズ番組でも数々のタイトルを獲得。幼少期からの歩みは、菅広文さんの著書である『京大芸人』(幻冬舎よしもと文庫)、『京大少年』(講談社)に詳しく書かれている。

教科書のない挑戦の楽しさを知った

 高校のバスケ部で相方の菅さんと出会い、芸人になると決めたのは高3のときでした。「京大に入ったら芸人になったとき売りになるやん」という菅さんの提案もあって、「ほな、行くわ」と京大をめざすことに。芸人になることに、当然、親は大反対。「成功するわけがない。ダメだったら、仕事や年金はどうする?」と失敗する前提で言ってくるわけですが、僕は「失敗するわけがない」と思ってますから、話は全く折り合わない。結局そのときは、大学は卒業せずに留年して就職活動ができる可能性を残すという折衷案で落ち着きました。

 ネタを作り始めてからは、週1 回のペースでオーディションを受け続け、ずっと落ち続けました。でも、当時はめちゃめちゃ楽しかった。不合格になると、審査をする作家さんからアドバイスを聞けるんですが、いろんな人の意見を聞いたり、他の人のネタを見たりしているうちに、「こうすればウケそうやな」ということがだんだん分かってくる。自分たちが日々進歩していることが実感できるわけです。

 それまでの僕は何事も「教科書が欲しい」と思う人間で、事前に学べることは全て学んでから本番に臨むタイプでした。だから、ネタをやりながら学んでいくこと自体がそれまでになかった経験で、得体の知れないものに挑んでいるという高揚感がありました。合格したのは、オーディションを受け始めて1 年半が経った頃。50 回以上も落ち続けたわけですが、その間、ダメだと思ったことは一度もありませんでした。

広く意見を聞きつつ最後は自分で決める

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 受験勉強は「計画性を持って物事に取り組めば成功できる」ということを体験できる良い機会だと思います。計画を立てるときのポイントは、毎日続けられるかどうか。先生や先輩のアドバイスに耳は傾けながらも、人と同じ方法が自分に合うとは限らないので、最後は自分で決めることが大切だと思います。

 今、情報番組に出演させていただくときは、取り上げるテーマについて事前に賛否それぞれの意見を調べるようにしているのですが、さまざまな考え方を知ったうえで自分なりの判断をしたいという考え方は、受験勉強の計画を立てていた頃の延長線上にあるような気がしますね。

興味のないことを学ぶのも大切

 僕は大学に入って、「これまで自分がいた世界は狭かったんだな」と実感しました。高校までは地元のコミュニティが中心になりますから、周りにも自ずと似た環境で育った人が多くなる。でも、大学には別の地域から来ている人も大勢いますし、自分とは違う考え方を持つ人と話すことには大いに意味があると思います。大学に行くのであれば、SNS のやり取りだけで満足してしまうのではなく、自分から積極的にコミュニケーションをとって、リアルな人間関係の中で友達をつくっていってほしいですね。

 また、大学では自分が興味のあることはもちろん、できれば今まで全く興味のなかったことも学んでみることをおすすめします。僕は絵を描くことは苦手だったんですが、大人になってから絵画のことを学んでみたら、とてもおもしろいんですよね。自分から一番遠いと感じるものを学んでみると、視野が広がり、思いもよらなかった夢が見つかるかもしれません。

親の挑戦する姿が子どもを変える

 僕の家では、勉強に関しては、親は何も言わずに僕に任せてくれました。大人になってから、「俺のことを賢いと思ったことあるか?」と父親に聞いてみたら、「京大に入ったときに初めて思った」と。それまで父は僕の通知表を一度も見たことがなかったんですね。でも、それくらい干渉せずにいてくれたことが、僕には有り難かった。親は前から引っ張るのではなく、後ろから押すくらいの方が、子どもの良き支えになれるように思います。

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 母も「勉強しろ」とは一回も言わなかったですね。その代わりによく言われたのは「話を聞くときは、話している人の目を見て聞きなさい」ということ。その母の言葉のおかげで、僕は先生の目を見て授業を聞くようになりました。大人になってから、よくよく考えてみると、先生ってテストの答えを授業中に全て言っているわけです。だから、先生の目を見て話を聞いていれば、テストでも点が取れるようになる。自分の経験を振り返ると、家庭でのしつけが成績に与える影響は大きいような気がしています。

 子どもは親の真似をしますから、親が勉強したり、新聞や本を読んだりする姿を毎日見ていれば、子どもも勉強する習慣が自然と身につくはずです。お子さんに何かを望むだけではなく、自分もやってみるようにすると、保護者の方の世界も広がっていきますし、結果的にお子さんにも良い影響があるのではないでしょうか。