神戸大学/東北大学 教授 桜井愛子 氏 インタビュー

 神戸大学/東北大学 教授 桜井愛子氏インタビュー サバイバー、サポーター、そして良き市民になること。 それが、私が思い描く防災教育のゴールです。

 

能登半島地震から1年を経た今年は阪神・淡路大震災から30年、そして来年は東日本大震災から15年であり熊本地震から10年という大きな節目を迎えます。今一度自然災害への備えを見直し、大学生が「ジブンゴト」として捉えられるよう、防災を専門的に研究されている桜井愛子先生(神戸大学/東北大学)へのインタビューを企画いたしました。この記事を読まれる多くの方が災害や地域への関わり方を考え、行動へとつなげていただく機会になればと思います。

 
東北大学/神戸大学 教授 桜井 愛子氏東北大学/神戸大学 教授 桜井 愛子氏

東北大学/神戸大学 教授
桜井 愛子氏
プロフィール
インタビュイー

全国大学生協連 全国学生委員会  副学生委員長 瀬川 大輔

全国大学生協連 全国学生委員会
副学生委員長 瀬川 大輔
インタビュアー

全国大学生協連 全国学生委員会 藤島 凜香(司会/進行)

全国大学生協連 全国学生委員会
藤島 凜香
(司会/進行)
インタビュアー

全国大学生協連 全国学生委員会 仲間  英

全国大学生協連 全国学生委員会
仲間 英
インタビュアー

(以下、敬称を省略させていただきます)

 

自己紹介とこのインタビューの趣旨

藤島
藤島
お忙しい中、インタビューを引き受けてくださりありがとうございます。私は全国大学生協連 全国学生委員会の藤島凜香と申します。今年3月に東北学院大学を卒業しました。本日はよろしくお願いいたします。
 
仲間
仲間
同じく全国学生委員会の仲間 英と申します。今年春、宮崎大学を卒業しました。どうぞよろしくお願いいたします。
 
瀬川
瀬川
全国学生委員会で副学生委員長を務めております瀬川大輔と申します。2年前に北星学園大学を卒業しました。よろしくお願いいたします。
 
藤島
藤島
本日は3名でインタビューさせていただきます。我々全国学生委員会は大学生のより良いキャンパスライフ実現のために、さまざまな視点から情報発信を行っています。その一つがホームページ上のインタビューで、大学生が社会に関わり社会を変革していくために貴重なお話を伺っています。
それでは桜井先生にも自己紹介をお願いしてよろしいでしょうか。
 
桜井
桜井
桜井愛子と申します。現在は神戸大学大学院国際協力研究科で教員をしています。以前は経済協力、教育開発分野に携わっていましたが、2011年の東日本大震災を機にセーブ・ザ・チルドレンという国際NGOに入って東日本の復興支援をNPOの立場から行うということで、防災・復興に関わるようになりました。

2012年に神戸大学に着任しましたが、神戸は阪神・淡路大震災の被災地だったので大学も協力的で、東日本の復興支援の仕事も研究として進めてきました。そんな縁で神戸大学に2年ほど在籍した後に東北大学に移り、同大学に震災後新しくできた災害科学国際研究所に入って3年ほど従事しました。一貫して取り組んできたのは石巻市の学校防災の支援と研究です。

昨年からまた神戸大学に戻ってきて、東北大学とのクロスアポイント制度で活動しています。専門は教育開発という国際協力の分野で博士は取っていますが、2011年より学校防災を中心に研究を続けており、各方面でアドバイザーも担当しています。まさに震災がきっかけで人生のキャリアプランが変わりました。
 
藤島
藤島
桜井先生ご自身にとって大学生協は身近な存在でしたか。大学生協や学生委員会が行っている事業や活動はご存じですか。
 
桜井
桜井
学生の時は生協に加入して利用していました。学生にとって生協はなくてはならない存在ですよね。一利用者でしたので、学生委員会の活動までは知りませんでしたが。
 
令和6年能登半地震復興支援企画
藤島
藤島
大学生協の防災・支援には、大学入学時に一人暮らしの学生対象に防災について考える集いを行い、昨年の能登半島地震の支援として学食メニューに石川県の郷土料理である“めった汁”を提供して1食あたり20円を寄付するなどがあります。

今年は阪神・淡路大震災から30年、そして来年は東日本大震災から15年であり熊本地震から10年という大きな節目を迎えます。節目の年だからこそ自然災害への備えを見直し、大学生に「ジブンゴト」として捉えてもらえるように発信したいと考えております。
桜井先生へのインタビューを通して大学生の防災に対する意識向上を目指し、社会の一構成員としてすべきことを明確にして次の行動へとつなげてもらうきっかけになればと思います。
 
K's NEWS

「復興・防災マップ作り」

藤島
藤島
桜井先生のご活動では「防災教育」が一つのキーワードとして取り上げられると思います。報告書や動画で「復興・防災マップ作り」を実践されているのを拝見しましたが、子どもたちや教員、地域住民の方たちに具体的にどんな影響が見られましたか。特に地域との関係にどのような変化があったのかを教えてください。
 
桜井
桜井

世間的には2012年から3年間実施した「復興・防災マップ作り」の論文が多く発表されていると思います。これは石巻市の小中学校の防災教育プログラムとして今も同市で展開されています。

防災マップ
防災マップ(イメージ)

震災直後と15年近く経った現在とでは随分状況が変わってくるので、一概にどこにどういう影響があったか述べるのは難しいのですが、震災直後にサバイバーの子どもたちに対して行ったマップ作り自体は、当時の小学4年生が進級した中学校でフォローアップ調査をした結果、統計的な優位性は得られませんでした。

 

子どもたちの防災意識や行動、地域との関係については、我々が実施したプログラム以外にも外部から多くの支援が入っていたので、それ一つだけの影響は明示されませんでした。でも当時、自分たちが住んでいた学区が津波で流されてしまった中で行ったマップ作りが復興の意味付けとなり、マップを実際に作った子の方が、地域への愛着や貢献したいという意欲が比較的高く出たように見られました。

 

やはりがれきが残されたままでは人々が流出していくという状況にもなりかねませんが、親がそこに地縁があるなどの理由で残っていた子どもたちは、自分の故郷を嫌いになってしまったら元も子もないわけです。ですから復興した姿を見るという学習は、中学生になって改めて自分たちが地域に貢献したいという意欲を強く持つことにつながっていったのかと思います。

 

石巻市の学校では引き続きこの活動を続け、毎年子どもたちが地域の人に震災体験をインタビューします。震災から時間が流れてしまうと、だんだんと直接的な経験をしたことがない子が出てきますが、大人の体験が伝承されることで15年前に何があったのかを学び直す機会になっていると思います

 
藤島
藤島
マップ作りでは、子どもたちがポジティブに未来を明るく受け止めているという印象を受けました。震災を知らない子どもが今も石巻市で地域の大人にインタビューすることで地域と関わり、震災が風化されず教訓として意識されるのですね。
 
桜井
桜井
防災教育って、教科書で学ぶよりも地域学習が重要だと思っています。防災だけを取り上げるのではなく、その地域のことを知り魅力を発見して何が起きたのかを語り合う中で防災が位置づけられる。そういう活動が今後ますます重要になってくると思います。
 
藤島
藤島
先日、全国大学生協連で「防災シンポジウム」を開催し、熊本と能登と阪神・淡路と東日本の4拠点で実際に当時被災を経験した方のお話を伺いました。東日本大震災では保護者や新入生に向けて説明会をしている最中に地震が起こり、そのときに地域とのつながりの重要性を痛感したという声がありました。
 

学校防災と地域防災

瀬川
瀬川
学校での防災教育と地域防災との違い、学校での防災教育の課題点を教えてください。
 
桜井
桜井
子どもが学校にいる時に、学校の管理下で子どもの命をどう守るかというのが狭い意味での学校防災です。地域防災というのは、地域住民の自主防災組織の活動とか地域の避難訓練のことですね。学校は基本的に校内の仕事を中心にして、地域防災にまで積極的に関わらなくてもいいと思いますが、少子化で地域が弱体化している今、両者の接点は結構あります。

今、日本の公立学校の9割が指定避難所になっており、災害が起きた時に地域住民は近くの学校に避難します。学校が教育施設ではなく地域の避難所の役割を担うという状況になるのですね。だから学校が防災教育をする時には、やはり地域の中にどんな災害リスクがあって、どこに避難すれば安全なのかという発想で地域に応じる必要があります。

災害は、場所によって種類が違います。例えば学校が山の上にあれば、土砂災害のリスクはあるけれど津波のリスクはないなどと学ぶのは、双方の共通課題です。でも、地域のことは教科書には載っていません。学校の先生もその地域に住んでいる人ばかりではないので、学校がそれを学ぶには地域の人に聞かなければならない。学校と地域が一緒に地域について学ぶ機会をつくっていくということが、地域に根差した防災活動を進める上で重要になります。

防災教育だけでなく避難主体になると「防災管理」といわれる分野になってきて、自主防災組織と学校とで防災マニュアルを共有する必要があります。学校がある時間に災害が起こったら、先生方は子どもの避難のことばかり考えているけれど、そこに地域住民がどんどん入ってくるということが多々あるからです。
 
瀬川
瀬川
実際に私も、豪雨災害で当時通っていた中学校に避難した経験があります。自分や周りの友達が地元住民の方のケアやサポートをしていたので、そういう観点からも実際に避難した時の動き方を共有するのは大事だと感じます。
 
桜井
桜井
みんな何かあったら学校に行けばいいと思っているけれど、重要なのは学校って教育機関なんですよね。洪水などだったら短期間で収束するから避難した人はすぐ帰っていくけれど、地震のように長期にわたって避難する場合、学校が避難所として占拠されると教育を提供できないという状況になってしまうことがあります。阪神・淡路大震災や能登半島地震などの大震災下では、発災後に学校が再開されるまで1~2カ月かかっています。再開にかかる時間は、30年間ほとんど変わっていないのです。

日本の場合、学校が避難所になって教室が使用されると、その状況下で避難してきている人の面倒を見るのが学校の先生になってしまいます。本来なら地域住民の自主防災組織があり、自分たちで自主的に避難し避難所運営をして、そこに行政の人がやってくる。学校は場所を提供するだけですが、実際にはそうならなくて、それが学校の早期再開を妨げる要因になります。

みんなが学校を頼ってくれるのはいいのですが、先生の立場からすると、子どもたちのケアと教育の再開を優先したいのに、学校が避難所になってしまうとなかなかそれができない。そこで日頃から学校と住民が「地域が災害に遭ってみんなが学校に避難してきた時、どのように避難所を運営しますか?」「学校は子どもの教育の再開を優先します」と話し合うことが必要になります。
 

避難所は困っている人のための場所

瀬川
瀬川
大学生協もさまざまな防災の取り組みを行っていますが、大学の教員としてご覧になったときに、今後もっと力を入れて災害対策を講じていけたらと感じられている点がありましたらお聞かせください。
 
桜井
桜井
大学生協のホームページにはいろいろな情報が載っていますね。とても充実していて素晴らしい取り組みをされていると思っています。ただ、大学が立地している場所や、大学として防災をどのように考えているかにもよりますが、防災訓練を企画しても参加者が少ないですよね。3.11を経験している東北大学などは非常に一生懸命に防災訓練をします。大学生協はキャンパスで食事を提供し、購買では様々なサポート活動をしています。学生に寄り添った働きかけができると思いますので頑張っていただきたいですね。大学のキャンパスにも地域の人たちが入ってくる可能性があるわけですし。

ただ熊本地震もそうですが、学生が必ずしも災害に対する備えが十分でない場所に住む場合があります。神戸大学なども阪神・淡路大震災のときに犠牲者が出ているので、自分たちが住んでいる場所が本当に安全な場所なのか、そこで災害が起きたらどこに避難したらいいのかは、ぜひ学生に伝えていただきたいと思います。

私たちが取り組んでいる防災教育では、どこにいようと自分たちで情報収集して、自分が住んでいる場所の災害リスクやそれに対してどういう行動をとれば命が守れるのかを考えてもらいます。備蓄に関しても避難所に行けば大丈夫と思っている人が多いので、若い人にはそういう考え方をどんどん改めてもらいたい。大事なのは“避難所は困っている人のための場所”だと自覚し、自分の家が住めるようならそこで過ごしてください。避難所に行くのならボランティアで運営に参加し、簡単に避難者にならないようにしてほしいと思います。
 
瀬川
瀬川
大学生に熱いコメントをいただきました。災害が発生し、大学が避難所になった時には、学生だけではなく地元住民の方をも守っていけるよう力になれると思いますし、全国の学生に伝えていけるような取り組みが活発にできるように頑張ります。
 
炊き出しに並ぶ人々
2011年3月11日の地震発生から数日間、東北地域の多くの大学生協では帰宅困難となり学内に留まった学生や教職員、地域の方々のために炊き出しや物資の提供を行いました。ボランティアの学生も避難者のサポートに全力を尽くしました。
写真は、当時炊き出しに並ぶ人々(福島大学生協)
 

防災を「ジブンゴト」とするために

仲間
仲間
大学生が日常生活で「ジブンゴト」として防災意識を高めていくためにはどうすればいいですか。
 
桜井
桜井
私は防災の世界に入る前は途上国の開発に関わっていました。自分が国民でも住民でもない国で地域の人たちを助けるという仕事をしていたので、普通の人とはちょっと感覚が違うかもしれませんが、基本的に防災は、災害に遭っても困らないように自分のことは自分でするという危機管理なのですね。

コンビニが近いから冷蔵庫はいつも空っぽという人がいます。一方、常にローリングストックで一定の食品を備蓄しておけば、災害が起きても家にあるものでやりくりできます。このように日常生活で危機管理意識があれば、防災をことさら強調しなくてもあらゆる生活リスクに敏感になります。一人暮らしの人はいろいろな人に声をかけて仲良くしておけば、病気になっても誰かが声をかけてくれる。大事なのは孤立しないことです。

避難所は非常用持ち出し袋を持って駆け込む場所ではありません。健常の大学生は避難所に行くことを前提に考えず、避難所に行かなくて済むように備蓄をすることから始め、自分が生き残りかつ他人を助けられるようになるにはどうしたらいいのかを考えていくことです。
 
仲間
仲間
日常的に危機に備えるのがキーポイントかと思ったのですが、大学生が防災について意識できるようにどういうアクションが必要でしょうか。
 
桜井
桜井
自分に不幸が起こることは想像したくありませんが、日本に住んでいる以上、災害が自分の周りで起きてもおかしくないという感覚をもつことです。つまり自分は災害に遭うからこういう備えをするのだと、危機管理をインプットする意識が重要です。

大学生の防災への第一歩は、災害だけに限らずあらゆる危機から生き残り、大学4年間を自分の力で生き延びることです。大学生だから楽しいことに目を奪われやすいし、若いから強気でもあります。その中でも大規模災害が発生すると、ボランティアで被災地に行きたいという学生が増えたりする。そういう活動にはやはり積極的に参加してもらうべきだと思います。

普通の生活をしていたらその災害を「ジブンゴト」として身近に感じられない面もあるでしょう。ニュースで見聞きしたことを自分の目で確かめて、できることを探すのはとても大事なことです。時間が比較的フレキシブルな学生時代だからこそできることでもあると思うし、それが高校までのボランティアと違うのは、本当に自分でやりたいかどうかを決められる点です。

ホーム(日常生活)からアウェイ(非日常)に行くことで多くの大学生が不便を感じます。ましてや被災して家を失い、避難所生活をしなければならなくなるとなおさらです。そこで生き延びるために、大学生にはいろいろな経験をしてもらいたいですね。自分の小さな日常で小さくまとまってしまうのではなく、殻を突き破ってアウェイに挑戦することが、社会課題を「ジブンゴト」として関わっていこうと思う意識を育てる一歩なのです。
 

アウェイへのチャレンジ

仲間
仲間
大学生は特にコロナ禍が明けてから旅行や留学などに行くようになりました。実際に不慣れな土地に行った際、地震や災害が起こったときの備えには何があるでしょうか。
 
桜井
桜井
やはりアウェイにチャレンジすることです。日本で自分のホームにいると、留学生やお年寄りや身体の不自由な方など要配慮者への配慮に案外気づかないものです。アウェイでは人から支えられないと生きていけません。生き延びるには、現地で友達を大勢つくりなさい。それは海外に行く前から、キャンパスで周りにいる留学生に対してどのように手を差し伸べるのかということにもつながってきます。それが巡り巡って自分に返ってくるのだということを若い人たちに知ってほしいと思います。

今、日本でも外国人の方が増え、多文化防災について考えられています。彼らが災害時に孤立してしまったり、日本語が分からなくて情報が届かず逃げ遅れたり、避難所での暮らし方も大きな課題になっています。自分が留学したらそうなるのだという観点に立ったら、言語支援・情報伝達などに関心を持ってもらえるかなと思います。
 
仲間
仲間
自分が留学する以前に、今周りにいる留学生と話すことでつながりを持てるように、実際に海外に行ったらいろいろな人と関わり、接点を作りながら生きていくのが大事なのですね。本当に防災ってさまざまな面と結びつけて考えていくべきことなのだと思いました。
 
桜井
桜井
まさにその通りです。小さく防災だけ考えていたら、私も恐らく防災教育なんて携わっていなかったと思います。それよりももっと地道に、地域の中で一市民として活動していくことそのものなのだと思っていただきたいですね。防災教育のゴールが議論されますが、私はサバイバーになること、サポーターになること、それから良き市民になること、それが最終的な到達点だと思っています。

この場合の「良き市民」というのは、 “シチズンシップ”です。権利と義務を持つ一社会人として、どういうふうに自分が地域や社会に関わっていくかということそのものが問われているのです。その意識を育てていくことが防災教育で、高校の授業でいう公民に当たります。
 

「生協さん」

瀬川
瀬川
大学生協の共済事業は、自分の掛金が全国で困っている仲間を助ける「たすけあいの想い」を育み、推進しています。学生自身が実際に災害に遭ったときに、自分が助かるだけではなく、積極的に困っている人を助けに行くという行動が求められます。今後我々としてもそういう想いを育てられるように、大学とも連携を取りながら取り組みを進めていけたらと思っています。
 
桜井
桜井
神戸の人は生協発祥の地というプライドもあり、大学生協を含む生協を「生協さん」と呼びます。積み立ててお互いに助け合う相互扶助システムは、今のソーシャルメディアの発達した社会では対極にあるように思えるのですが、それを学生が経験する初めての場所が大学生協だと思うので、ぜひ生協の意味を積極的に伝えていってください
 
瀬川
瀬川
大学を卒業してからも、協同組合を通して地域を良くしたり支え合ったりしながら進んでいける存在でありたいと思います。
 

若者世代へのメッセージ

藤島
藤島
最後に読者の大多数を占める若者世代(大学生世代)に向けてのメッセージをお願いします。
 
桜井
桜井
一言で言うのは難しいのですが、やはり人とのつながり、孤立しないこと、みんなに助けを求め支え合うこと。これが一番大事だと思います。それなくしては防災も成り立たないので、知らない土地で一人暮らしをする大学生だからこそつながりを大事にしましょう。また、自分は避難所に行かずに避難所を支える側になってください。
 
藤島
藤島

ありがとうございます。最後に私からも感想を述べさせていただきます。私たちも大学生や生協職員に対して防災シンポジウムや防災セミナーを開催していますが、なかなか防災を「ジブンゴト」にできない人が特に学生に多いと感じます。それは被災したことがないから。自分たちが住んでいるところは安心だと思っているから。そしてやはり日常生活の中で防災は優先順位が低く、備えが大事と頭では分かっているけれどなかなか行動に移せないからだと思います。

 

ではどうしたら「ジブンゴト」にできるのか。大学生協では新入生と保護者を対象にした説明会で防災バッグの説明をしたり、ハザードマップを見て危険な所を話し合ったりしています。また、「災害図上訓練 DIG」というゲームを通じ、自分が住んでいる場所に潜む危険性を確認して「ジブンゴト」にしてもらうという試みもあります。
※Disaster(災害)、Imagination(想像力)、Game(ゲーム)の頭文字をとって名付けられた「DIG」。地図や見取り図に参加者自身が書き込みをすることで、自分の地域や住まい・職場に潜む災害の危険性を「見える化」し、みんなで安全策を考える頭の防災訓練。(内閣府 防災情報のページより)

災害図上訓練 DIG

最後に孤立しないことでしょうか。何かがあった時のために互いに助け合えるコミュニティの一員でいることも大切だと思います。我々も防災に食や共済や健康安全を絡めて、より興味を持ってもらうきっかけとなるよう、改めて大学生に伝えたいと思いました。

 
桜井
桜井
要は誰かが困った時に助け合う、声を掛け合えるという状況ですね。それは隣人でもバイト先の人でも大学のクラスメイトでもいい。大学はホームルームがないので、友達ができなくて退学してしまう人がいます。その人たちが埋もれないように、グループやつながりを意識してつくってほしいですね。
昔ながらのつながり方でなくても、“いまどき風”なやり方もたくさんあると思います。ライフラインの作り方をみんなで考え、どんどん生み出していってくれたら嬉しいですね。

人間、自分の所には災害が起こらないと思いたいものです。それを思わせるには、研修やシンポジウムでも一方的な情報発信でなくワークショップ型にして、「状況付与型トレーニング」で考えてもらうのが効果的です。「バイト先で震度7の地震が発生して帰れなくなり、断水にもなった。さてどうしますか」あるいは「家に一人でいる時、お風呂に入っている時に発災したらどうしますか」というように身近な例で考えてもらうと、グッと近くなると思います。
 
藤島
藤島
ありがとうございます。改めて防災について専門的に学ばれている桜井先生のお話を伺って、私たちも視野を広げることができたと実感しております。
 
桜井
桜井
こちらこそ楽しかったです。どうぞ頑張ってください。若い人たちをよろしくお願いします。
 

2025年10月31日リモートインタビューにて

 

PROFILE

桜井 愛子 (さくらい あいこ)氏

桜井 愛子氏

経済協力、教育開発分野等で海外実務経験を積んだのち、東日本大震災を機に国際NGOセーブ・ザ・チルドレン・ジャパンに参画。現在は学校防災の拡充、防災教育、学校と地域の連携に関する実践研究を国内外で取り組む。石巻市学校防災推進会議委員(2012年~)、公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン アドバイザー(2020年~)、文部科学省 学校安全に関する有識者会議 委員(2024年~)等を務める。論文・著書多数。

【所属】 神戸大学 大学院国際協力研究科 教授/東洋英和女学院大学 大学院国際協力研究科 客員教授/東北大学 災害科学国際研究所 教授(クロスアポイント)
【学位】 法学修士(政治学・慶應義塾大学)/公共管理修士(米国コロンビア大学) /博士(学術・神戸大学)


神戸大学大学院国際協力研究科 桜井愛子研究室 https://www2.kobe-u.ac.jp/~sakuraia/index.html

東北大学災害科学国際研究所 https://irides.tohoku.ac.jp/organization/sakurai_aiko.html

セーブ・ザ・チルドレン(Save the Children) https://www.savechildren.or.jp/